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Act.10 どうか二度と離さないで・1

「スタンツィ! ファラ! 後ろだッ!」


シャヴィの樺茶(かばちゃ)色した瞳が、青と銀色をした頭のバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァを捕らえていた。何とか斃(たお)した、バイオーグ(機能補強生体)・クロウの躰(からだ)の下から、顔を覗かせた矢庭だった。


攫(さら)われたファラを助けようと、キャラミが真正面からバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァに叩(ぶ)つかった。その反動でキャラミとバイオーグ(機能補強生体)、それにファラが床に投げ出される。


「ファラッ! 蚊蜻蛉(かとんぼ)が行ったぞッ!」


コンスタンツェのその怒鳴り声を耳にしながら、シャヴィがバイオーグ(機能補強生体)・クロウの躰(からだ)の下から、這う這うの体で抜け出した。ファラを攫(さら)おうとしたバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァは滑空不能に陥っているのか、床面を跳ねるように再びファラに迫っていた。


「──糞ったれが・・・ッ!」


ファラの元へ駆け付けようと、シャヴィが手にした聖剣スプリガンを床に突け、身を起こした矢庭だった。


「何処までも目障りなテラン(地球人)が・・・ッ!」


憎悪の篭った怒哮(どこう)が、いきなり上から降って来た。


「──貴様、性懲りもなく・・・!」


反射的に顔を上げたシャヴィが、思わず苦虫を噛み潰したような表情に、ぎりっと歯噛みして睨み返す。


「どうやって紛れ込んだか知らぬが」


血塗(まみ)れの角張った顔面。瀟洒(しょうしゃ)な光沢も血糊でべっとりと汚れた、モスグリーンのヒイェラ将官軍服を着込む巨躯。宇宙艦ラ・ベデュータのエアロック(気密隔室)前で退けた筈の、トラニオウ・プルンチットだった。


「──己(おのれ)だけは、その肉叢(ししむら)切り刻んで、あのレディ・チョッピングブロック(俎板姫)の前に晒し物にしてやる・・・!」


憎悪の篭った顔付きのトラニオウが歯も剥き出しに、抜き身のフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を突き付けて来る。


「その言い方をすると」


トラニオウ越しに首を巡らせるシャヴィの目に、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァに反撃の刃(やいば)を薙ぎるファラの姿が目に入った。


「──スタンツィの逆鱗に触れるぞ、あんた!」


ファラによる渾身の斬撃は、ジェット・スラスター(噴進器)が拉(ひしゃ)げたバイオーグ(機能補強生体)の脇腹に、見事に食い込んでいた。


“ファラ・・・!”


剣を振るう、勇猛なウェスデン王女の姿に、シャヴィも思わず目を瞠(みは)る。付け焼き刃(やいば)ではない刃筋と、間合いを計る技倆(ぎりょう)はコンスタンツェに劣らないが、負けん気の強さならファラの方が一枚上手だ。その上ファラが手にする聖剣レプラコーンは、不思議な青白い陽炎のような輝きを纏っているように見えた。


「私の逆鱗に触れているのは・・・ッ!」


その土間声に、シャヴィが咄嗟に首を巡らせ直す。


「貴様の方だッ、破落戸(ごろつき)め・・・ッ!」


巨躯のトラニオウが圧倒するように、シャヴィを見下ろしていた。


改めて向き直ったシャヴィが、ファラのスプリガンを構え直す。


背負っていた圧搾空気スラスター(噴射器)を手荒に捨てるトラニオウの直ぐ後ろを、ハンギング・ソフトストレッチャー(手上げ救助担架)を担いだ2人のヒイェラ兵が、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の方へと早足に駆けて行く。ストレッチャー(手上げ救助担架)に乗せられた負傷者は、シャヴィたちのバーニアン(操重機艇)の落下に巻き込まれた儀仗兵で、華やかな制服が血塗(まみ)れになっていた。


トラニオウはシャヴィを見据えたまま、改めて挑発するように剣を握り直した。


「──初耳だな・・・!」


不敵な薄い笑みを浮かべたシャヴィが応じるように、聖剣スプリガン越しに巨躯のトラニオウを睨み返す。


「タロス(木偶坊)に逆鱗があるとは・・・ッ!」


そのシャヴィの、言葉が終わらぬうちだった。


「ならば、その役立たずの耳は──」


剣を大上段に振りかぶったトラニオウが、風を巻いて襲い来た。


「首ごと掻き切ってやるわ・・・ッ!」


反応が一瞬遅れたシャヴィが、慌てて横っ飛びに跳ね退いた。


だが一呼吸早かったトラニオウからの刃筋が、シャヴィの左太腿の表を際疾(きわど)く掠(かす)める。柑子(こうじ)色の作業服がざっくりと斬られ、シャヴィが苦痛に顔を歪めると共に、鮮血が糸を引くように噴き出した。ごろごろと床に転がったシャヴィが、それでも手に握り締めたファラの聖剣スプリガンを構え上げる。


直ぐ近くでは、駆け付けた救護担当が、足を負傷して動けない儀仗兵の手当てをしていたが、そんな有り様を全く斟酌しないトラニオウは、容赦ない斬撃の刃筋でシャヴィを攻め立てて来る。


咄嗟に跳ね起きたシャヴィが、その勢いのままスプリガンを下から斬り上げる。


刃と刃が叩(ぶ)つかった瞬間、フォノンメーザーの強烈な閃光が炸裂して、コヒーレントの破裂音が耳を劈(つんざ)く。弾かれたトラニオウが、その分厚い胸板を反らせて、思わず体勢を崩された。


その隙を突いたシャヴィが、トラニオウの脇を前に跳び転がって、くるりと身を翻す。と同時に右足で床を蹴っ飛ばし、シャヴィがトラニオウに斬り掛かった。


トラニオウは小さく舌打ちしながら、反射的に剣で翳(かざ)し受ける。それでもへシャヴィは、体勢の整わないトラニオウを一気呵成に攻め立てた。


「──糞ったれが・・・ッ!」


1撃、2撃と打ち込むシャヴィの目の端に、崩れ落ちながらも四つん這いでファラに迫る、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァの姿が映った。


ファラたちへの加勢に回ってやりたいと焦るシャヴィだが、斬撃を最(いと)も容易く受け流され、トラニオウをなかなか抜けない。何しろトラニオウ自体は、顔面こそ血塗(まみ)れの重傷を負っているものの、五体は無傷だ。どちらかと言えば手酷く怪我しているのはシャヴィの方で、その上に体格ではトラニオウの方が優に凌(しの)ぐ。


力任せに刃筋を浴びせ掛けるシャヴィだが、実のところはトラニオウ相手に苦戦していた。打ち込んではトラニオウから攻め返され、間合いに苦慮しながら払った横薙ぎを躱(かわ)される。


思わず空振りしたシャヴィが、無防備に半身の背を晒した。間髪入れず、身を翻して上段から切っ先を振り下ろして来るトラニオウに、シャヴィは反射的に無理な姿勢から横っ飛びに、1歩2歩と慌てて跳び退く。


その刹那、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァに迫られ、大股を開き上げて強姦魔を撃退しているような、菫(すみれ)色のパンティも丸見えのファラの姿が目に飛び込む。切羽詰まった窮地に追い込まれているファラに気を取られ、目線を外した隙をトラニオウに付け込まれた。


大股に踏み込んだトラニオウが、返す剣で斬り上げて来る。


シャヴィは無理な体勢に身体を翻し、打ち据えるような上からの一振りで、トラニオウの刃筋を受ける。だが渾身の力が篭ったトラニオウの斬撃が、体勢覚束(おぼつか)ないシャヴィの受けを、掬い上げるように打ち上げた。


「──しまった・・・ッ!」


シャヴィの右腕が煽られ、フォノンメーザーの破裂音と共に聖剣スプリガンが弾き飛ばされる。半身を開き晒すシャヴィが、宙を舞う聖剣を目で追う。


咄嗟に身を翻すのと同時に、トラニオウからの切り返しの刃(やいば)が、シャヴィの背後を紙一重に掠(かす)める。


10メートルほど飛ばされた聖剣スプリガンが、重い金属音を立てて床に撥ね落ちた。


跳ね起きたシャヴィがスプリガンを追って、反射的に駆け出していた。斬られて疼く左足に鞭打って、シャヴィが遮二無二飛び付く。剣のヒルト(柄)に手を掛けた刹那、気配を感じたシャヴィが顔を上げる。


重傷を負った儀仗兵をハンギング・ソフトストレッチャー(手上げ救助担架)で担いだ救護の1組みと鉢合わせした。


「ち・・・ッ!」


スプリガンを掴んだシャヴィが、咄嗟に床を蹴って転がり跳ぶ。


ストレッチャー(手上げ救助担架)の担ぎ手が、シャヴィを避けようと踏鞴(たたら)を踏んで身を捩る。其所(そこ)へ暴虎馮河(ぼうこひょうが)と飛び込んで来たのは、憎悪に駆られ辺り構わず剣を振り回すトラニオウだった。




★Act.10 どうか二度と離さないで・1/次Act.10 どうか二度と離さないで・2

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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