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Act.9 星祓いの力・6

バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァに抱え取られた右足を抜こうと、ファラが必死で足掻く。


ところがコンスタンツェ同様、一気に脱力感に襲われたファラは、気ばかりが急くだけで、実際には抵抗する力など殆ど残っていない。それどころか逆に、無理に身を捩って右足を揺すれば揺するほど、右足に掛かっていたスカートの裾が腰の方へ擦り下がり、大股開きになった内腿も露(あらわ)になる。更には開(はだ)けて見えるブラジャと揃いになった、菫(すみれ)色の可愛らしいパンティまでもが顔を覗かせてしまう、あられもない格好に陥った。


「──どこまでも狼藉を働く奴めが・・・!」


不意に投げ掛けられた怒声に、ファラとバイオーグ(機能補強生体)が同時に振り向く。


何時(いつ)の間にか、バイオーグ(機能補強生体)のほぼ真後ろに、コンスタンツェが立っていた。ガートルードが手放したフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を逆手(さかて)に握り、その切っ先をバイオーグ(機能補強生体)の後ろ首に突き付けていた。


「報いと知って、首足(しゅそく)処(ところ)を異にするが良い・・・!」


その言葉が終わらぬうちに、コンスタンツェは躊躇なく、バイオーグ(機能補強生体)の頚元を貫いた。


紫色した人工体液が、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァの頚元から、ごぼっと音を立てて溢れ出す。それでもコンスタンツェは容赦なく、ポメル(柄頭)に右の掌(てのひら)を当て、体重を乗せ込みながら深々とエッジ(刃)を送り込んだ。


バイオーグ(機能補強生体)の、青と銀の頭(かぶり)がぐらりと揺れ、それから文字通り皮一枚を残して、左肩の方へと首が捻折(もげ)落ちた。


フォノンメーザー・ソード(電磁剣)は、斬撃を与える事を主眼にした鍛造剣と違い、コヒーレント振動を利用して対象物を断裁する武器なので、良く切れるナイフのようにすっと切り込める。しかもコヒーレント振動の作用で、傷口が裂けたように不規則に損傷するため出血が多くなる。


手にしていた剣を放り出したコンスタンツェが、精根果てたように後ろへと尻餅を舂(つ)く。


と同時にバイオーグ(機能補強生体)の体躯が左へと傾いた。右足を抱えられていたファラが、倒れるバイオーグ(機能補強生体)に引き摺られる。身体をひっくり返され、床の上で仰向けに大の字の格好になってしまったファラの上に、首が皮一枚で繋がっているバイオーグ(機能補強生体)の体躯が、伸し掛かるように落ちて来た。


「──コンスタンツェ! 大丈夫かッ? コンスタンツェ!」


仰向けになっていたファラが、焦ったように上半身を起こした。


「済まぬな・・・ファラ」へたり込んでいるコンスタンツェが、首を少しだけ巡らせ、小さく硬い笑みを浮かべる。「其方(そなた)のスカート、血塗(まみ)れにした」


「──汝(いまし)、無事ならば・・・」


バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァの重い巨躯を退けようと、ファラが自由になった右足で懸命に蹴り出す。ファラの左足の下腿が膝頭の辺りから、倒れたバイオーグ(機能補強生体)の下敷きになっていた。


「ちょっと此奴(こいつ)を・・・退け退けするのを・・・手伝え・・・」


「無茶言うな、ファラ」肩で息をするコンスタンツェが、心底から長い溜め息を吐き出した。「──某(それがし)、もう1歩も動けん」


「それくらいで情けないぞ、コンスタンツェ・・・!」


さも威勢の良い言葉を投げるファラだが、自身も激しい脱力感に襲われていた。頻(しき)りにバイオーグ(機能補強生体)を蹴飛ばしてはいるものの、その実、足裏で突っ突くほどにしか力が篭っていない。


「姫さま、申し訳ありません・・・!」


キャラミに支られたガートルードが、少しばかり息を上がらせながら、床でへたばっているマデルークの王女の顔を覗き込む。キャラミは、ファラの芳葉(ほうよう)のディアデム(飾り冠)とコンスタンツェの飛翔のディアデム(飾り冠)を2つとも、ちゃんとその太い左腕に通し抱えていた。


「ガートルード」


この、この、この、と懸命に蹴り放そうとしているファラを尻目に、コンスタンツェが顔を上げた。


「それより、マイ・ロード(我が殿)・シャヴィは・・・?」


コンスタンツェが、辺りに首を巡らせる。


抱えていた2つのディアデム(飾り冠)を脇の床に置いたキャラミは、ファラの自由を押さえ込んでいるバイオーグ(機能補強生体)の身体を退けるため、その両足を掴んだ。さすがに巨躯を誇るジャミラ人のキャラミでも、100キロを超えるバイオーグ(機能補強生体)の身体を、ほいほいと易く持ち上げて動かす訳にもいかない。


キャラミが、ぐいっと力を込め、首が千切れ掛けているバイオーグ(機能補強生体)の身体を引き摺るようにして向きを変えた、その矢庭。


「何と、何時(いつ)の間に・・・ッ!」


喫驚した、コンスタンツェの大声が轟く。


コンスタンツェの見遣る20メートルほど先、斃(たお)した黒褐色の頭をしたバイオーグ(機能補強生体)・クロウの骸(むくろ)の向こうで、シャヴィが知らぬ間に大男相手に激しい斬撃の応酬をし合っていた。


「──トラニオウ、何と往生際の悪い奴めが・・・ッ!」


そう叫んだ時には、跳ね起きたコンスタンツェが、キャラミが引っ張り退けているバイオーグ(機能補強生体)の、その右脇にファラが斬り込んで食い込こませた聖剣レプラコーンのヒルト(柄)を掴んでいた。


「無茶無茶するでないッ、コンスタンツェ・・・!」


キャラミがバイオーグ(機能補強生体)の身体を擦り動かした事で、自由になった下半身を這う這うの体で抜け出させたファラが、駆け出すコンスタンツェの背に叫ぶ。


「汝(いまし)、1歩も動けんのだろうが・・・!」


旧知のコンスタンツェからは想像も付かない、マデルーク王女の我が身を顧みない、匹夫の勇の如き行動力に、ファラは唯々目を丸くして驚嘆する。


「姫御前・・・!」


コンスタンツェ、と名を叫ぶファラの大声に振り返ったガートルードだったが、コンスタンツェは既にシャヴィの加勢にと走り去ってしまっていた。


それに焦ったガートルードは慌てて、ファラの上に伸し掛かっていたバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァの骸(むくろ)に駆け寄る。その力が失せている右手から、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を引き抜くと、直ぐさま踵(くびす)を返してコンスタンツェの本(もと)へと馳せ出した。


「──ええいッ! 何と呆れ返るチョッピングブロック(俎板姫)じゃ・・・ッ!」


ガートルードが一振りを手にして駆け出すのを見たファラも、愚痴を零(こぼ)しながらもコンスタンツェの手助けに動こうと身を捩った。


ところが、酷い脱力感に捕らわれている全身に、身に付けているスカートが一層重く伸し掛かって、儘(まま)ならない。フロントに大きな飾り釦(ボタン)が並ぶ、臙脂(えんじ)色のコルセット風ミディ(膝丈)スカートは、バイオーグ(機能補強生体)から流れ出た、大量の紫の人工体液が染み込んでしまい、両足に枷(かせ)を嵌められたように重たくなっていた。


「──旦々夕々(たんたんせきせき)迫ったこの時に・・・ッ!」


始末に終えないスカートに癇癪を起こしたファラが、短兵急に苛立ちながらも我慢できず、ハイウエストの背にあるファスナに手を掛ける。


「──ファラ殿下・・・!」


思わずキャラミが制止しようとしたが、ぴちゃりと張り付いて重く纏わり付く、体液塗(まみ)れのスカートを、ファラは床に尻を着いたまま、躊躇無くさっさと脱ぎ捨てた。


「また、無茶ぶりを・・・」


呆れるキャラミを他所に、ファラは脇に転がっていた、コンスタンツェがバイオーグ(機能補強生体)の首筋に突き立てたフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を掴み取る。


「──コンスタンツェ! 左だッ!」


跳ね起き床を蹴ったファラが、首を巡らせると同時に大声を張り上げた。


「蜻蜒(やんま)がもう1匹!」


ファラの怒鳴り声に、コンスタンツェが咄嗟に視線を左に向ける。


コンスタンツェが振り向いた時には、黒に黄色の縞が入った頭部のバイオーグ(機能補強生体)・ズィーボルが、低空を一直線に飛翔して来ていた。ズィーボルは、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋上でロダリーゴ・プルンチットの後ろで影のように従っていた、バイオーグ(機能補強生体)だ。



咄嗟に応撃の構えを取ろうとしたコンスタンツェが、半身を返して両足で踏ん張った矢庭。まだ脱力感が回復していない、覚束(おぼつか)ない両足が支え切れず、膝から地にへたり込むように崩れ落ちてしまった。


「コンスタンツェ・・・!」


ファラが思わず叫んだ刹那。


「──姫御前・・・!」


ガートルードがその長身で、コンスタンツェを庇うように背後から飛び付いた。


間一髪、倒れ込み躱(かわ)す2人の真上を、バイオーグ(機能補強生体)・ズィーボルが、マデルーク王女を攫(さら)い逸(そび)れて翔び抜ける。


それでも執拗(しつよう)に狙い返すズィーボルが、下ろした両足で床を擦(こす)りながら急減速させ、くるりと身を翻す。今度は、刃向かうガートルードに対して、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を抜いた。


2人とズィーボルの彼我の距離は10メートルとない。


コンスタンツェを背に庇うガートルードが、片膝突いて跳ね起きる。だがそれが精一杯だった。剣を構える余裕もなかった。


ガートルードの首を刎ねるべく、僅かに首を竦(すく)め剣を薙ぎろうと構えたバイオーグ(機能補強生体)が、直ぐそこに迫っていた。




★Act.9 星祓いの力・6/次Act.10 どうか二度と離さないで・1

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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