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Act.9 星祓いの力・5

「姫さま!」


体当たりも辞さない勢いで走り込む、ウェスデンの軍服を着込んだ巨躯のジャミラ人が、バイオーグ(機能補強生体)・スペクルドから奪い取ったフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を大きく振り被る。


それでもファラを抱え、上昇角度に乗っていたバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァは、本来なら向かって来るキャラミからの刃筋の間合いを、ぎりぎり真上に飛び抜け躱(かわ)せていた筈だった。ところが、向かって来ていた相手が悪かった。


キャラミの上背は220センチ、長身のシャヴィよりまだ35センチは高い。


その上、バイオーグ(機能補強生体)がファラを抱え、上に逃げようとしているのを見て取ったキャラミが、斬り掛かる直前、その重量級の体躯にも拘(かか)わらず、床を蹴り上げ僅かばかり跳躍した。


バイオーグ(機能補強生体)は、手にしていた剣で応撃しようとしたが遅かった。


だがキャラミも、対する相手と間合いを読み損なっていた。


最後の跳躍が余分だった。跳び上がり過ぎたキャラミの、刃筋が相手に交わらず、あろう事かその巨(おお)きな胸倉から、文字通り無様にも体当たりを敢行してしまった。さすがに相手が100キロを超えるバイオーグ(機能補強生体)では、巨躯を誇るキャラミですら弾かれ肩から床に転がった。体重が重いキャラミは、落ちた衝撃で息が詰まり、直ぐには身を起こせない。


ただ、キャラミの体当たりを真正面から喰らったバイオーグ(機能補強生体)も、ただでは済まなかった。重量級ジャミラ人からの全力体当たりを、右半身に喰らったバイオーグ(機能補強生体)は、弾かれるように半身がそっくり返った。その煽りで、ファラの腰を抱え込んでいた左手が緩む。


バイオーグ(機能補強生体)が慌てて、落ちるファラを掴もうと腕を伸ばす。咄嗟に立てた指先が、ファラの着込む薄桃色のブラウスの前身頃に引っ掛かる。バイオーグ(機能補強生体)が無理やり、ぐいっと掴み上げた矢庭、ファラのブラウスの釦(ボタン)がばらばらと千切れ飛んだ。


それでも強引に拾い上げようと、手首を返してブラウスを引っ張るバイオーグ(機能補強生体)に、ファラが握るレプラコーンを反射的に薙ぎ上げた。バイオーグ(機能補強生体)が咄嗟に、刃筋を躱(かわ)そうと身を反らす。その刹那、ファラのブラウスを掴んでいた左の手首が返った。


ファラの自重で、掴んでいたブラウスが指先から抜け落ちる。


油断していたファラは、1.5メートルほどの高さから仰向けに投げ出された。


咄嗟に身を捩ったファラが、右足から床に着いたものの、翔びながら放り出された勢いで左肩から身を打ち付け、そのまま2度3度と床の上をごろごろと転がった。


床に叩き付けられたキャラミは、ファラの転がった反対側へ5メートルほどの距離、コンスタンツェたちがいる所との中間辺りで、何とか四つん這いに身を起こして喘(あえ)いでいた。一方、巨躯のキャラミと真っ向叩(ぶ)つかったバイオーグ(機能補強生体)も、崩した体勢を取り直せず、落としたファラの前方3メートルの所に背中から墜落した。


「ファラッ! ヤンネッ!」


思わずガートルードの手を振り解き、駆け出そうとしたコンスタンツェだったが、膝が崩れて足が縺(もつ)れ、躓(つまず)いてしまった。


落ちた三者の中で、一番早く身を起こしたのは矢張り、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァだった。シルヴァは青と銀の頭を擡(もた)げると、何ともないとばかり直ぐさまその身を跳ね起こし、ファラの方を振り返る。


ただ背中から落ちた影響で、ジェット・スラスター(噴進器)自体が拉(ひしゃ)げてしまい、シルヴァは滑空出来なくなっていた。それでもシルヴァはファラを攫(さら)おうと、機能不全のジェット・スラスター(噴進器)を噴かし噴かし、床面ぎりぎりをスキップするように、ファラに迫った。


「ファラッ! 蚊蜻蛉(かとんぼ)が行ったぞッ!」


コンスタンツェの怒鳴り声に、ファラも呻きながらも上半身を起こす。


だがファラもコンスタンツェ同様、全身が脱力感に襲われていて、力が入らない。身を捩り振り返ったファラだったが、そのまま呆気なく横に倒れ込む。


落とされたファラは、ブラウスが強引に引っ張られ、前身頃の釦(ボタン)を千切り飛ばされてしまい、羽織った濃紺のボレロ風ジャケットごと着崩されている。しかも半脱ぎ状態でのファラは左肩も剥き出しに、象牙色の素肌も露(あらわ)になって、深い乳房の谷間を作るレース飾りの菫(すみれ)色のブラジャ下着も覗き見えていた。


「──姫さま、私が行きます・・・!」


そう声を上げた時には、コンスタンツェに介添えの手を伸べていたガートルードが、すっくと立ち上がっていた。ガートルードはキャラミの方へ駆け寄り、側に転がっていたフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を掴み上げる。だが剣を手にしたガートルードが、ファラの方を見遣った時には遅かった。


襲撃の手を緩めないバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァは、覚束(おぼつか)ないスキップのような足取りながらも、ファラに1メートルと迫っていた。


「姫殿下・・・!」


それでもファラに駆け寄ろうと、ガートルードが床を蹴って駆け出した矢庭。


片膝突いて身を起こしたファラが、真っ直ぐ向かって来るバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァに、残った力を振り絞って聖剣レプラコーンを薙ぎ払った。


レプラコーンは、先程と同じように青白い陽炎を纏っていたが、その輝きは鈍く輝刃(きじん)も迸(ほとばし)っていない。それでもファラが薙いだレプラコーンは、バイオーグ(機能補強生体)の腰右脇に刃筋を立てた。


シャヴィがバイオーグ(機能補強生体)・クロウを斃(たお)した、披甲されていない一番脆(もろ)い部位だったが、余りに間合いが近過ぎた。入った刃筋が浅く、しかも脱力感に襲われているファラの力では、レプラコーンを薙ぎ斬れないままバイオーグ(機能補強生体)の腰に食い込んでしまった。その上、剣を握る力さえ心許(こころもと)なかったファラは、勢い余ってヒルト(柄)から手がすっぽりと抜けてしまい、そのまま前へ俯せに無様にも胸から倒れ込んでしまった。


急所に一太刀浴びたバイオーグ(機能補強生体)は、下半身の運動機能を麻痺させていたが、それでも尚ファラを捕らえようとその身を捩る。力の入らない震える両腕で、その身を支えて上半身を起こすファラに、バイオーグ(機能補強生体)が、逃がすものかと右手を伸ばした矢庭。


「──貴様ッ、よくも殿下を・・・ッ!」


背後から投げ付けられた声に、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァが振り向く。


バイオーグ(機能補強生体)の首を刎ねようと、手にした剣を脇に引き構えたガートルードが、鬼の形相で走り込んで来ていた。


「ファラ殿下ッ! お離れをッ!」


その叫び声に間髪入れず、大きく踏み込んだガートルードの一太刀が、斬り下ろされる。その矢先、バイオーグ(機能補強生体)が振り向きざま、抜いたフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を斬り上げた。


強烈な火花に破裂音を伴って、ガートルードの薙ぎった剣が弾き飛ばされる。と同時にガートルード自身も、煽りを食った床に投げ出されてしまった。だが狙われていたファラはその隙を突き、シルヴァの本(もと)から抜け出そうと、身を翻していた。


横半身になったファラが前を向き、引き寄せた左足で床を蹴り出し、突いた右肘で体を前に進ませる。ところが何かに引っ張られた様に押し留められ、体が全く前に進まない。焦ったファラが、俯せのまま半身を反らせて、後ろを振り返る。


上半身を起こしたバイオーグ(機能補強生体)が、その体躯を支えるように床に付いた左手で、ファラの臙脂(えんじ)色のミディ(膝丈)スカートの裾を押さえ込んでいた。


バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァは、ガートルードからの斬撃を反射的に受け払い除けたものの、自身も不安定な体勢を崩されて、床に手を付いて倒れ込んでしまった。ところがファラには運悪く、バイオーグ(機能補強生体)が付いた手の下にファラのスカートの裾があった。


結果的にスカートの裾を押さえられ、無礼者め、と青筋立てるファラだったが、体重100キロを超える相手では、さすがに二進(にっち)も三進(さっち)も行かない。ファラが山吹色の目で睥(にら)み上げるが、下半身の運動機能を喪失しているバイオーグ(機能補強生体)・シルヴァは、左手を支えに両足を引き摺りながら執拗(しつよう)に躄(いざ)り寄る。


それでも負けん気の強いファラはが、反撃に出る。


俯せに起きている半身を捩り、返す反動そのまま、長い右足を後ろ蹴りのように振り回した。バイオーグ(機能補強生体)の横っ面を、踵(かかと)の裏で蹴り殴る──つもりだった。


ところが。


力が抜け切って、体を支えるだけで精一杯のファラでは、上げた気勢ほどには蹴りに力が篭っていない。しかも体重がファラの倍以上あるバイオーグ(機能補強生体)相手ではは、話にならなかった。


蹴りがヒット(命中)した瞬間、バイオーグ(機能補強生体)・シルヴァの青と銀の頭(かぶり)は、ほんの少し横を向いただけだった。その上あろう事か、蹴り飛ばしたと思ったファラの右足が、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を持ったシルヴァの右手で、肩口の上で抱え込むように絡み取られてしまった。しかもスカートの裾の辺りが、床に付いたバイオーグ(機能補強生体)の左手で押さえ付けられていて、ファラ自身は左足も満足に動かせない。


ファラが無様にも、ヨガのサイド・ヒップ・レイズのような大股を開いた格好で、身動き出来なくなった。




★Act.9 星祓いの力・5/次Act.9 星祓いの力・6

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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