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Act.9 星祓いの力・3

「──コンスタンツェ・・・ッ!」


シャヴィが、ファラの真上で四つん這いに手を付いて、半身を起こす。


たった今ファラを庇って遣り過ごしたバイオーグ(機能補強生体)が、右へ小さく弧を描いて回り込む。その行動は明らかに、そのまま次にコンスタンツェに襲い掛かるつもりだ。受けた剣ごと弾かれ飛ばされ、床にへたばっているコンスタンツェは、その聖剣レプラコーンを手放したままで丸腰だ。


「ファラッ! この剣を借りるぞ・・・ッ!」


そうシャヴィが声を上げた時には、ファラの腰のスキャバード(鞘)から、聖剣スプリガンを抜いていた。伏せるキャラミの背を踏み付けて、コンスタンツェの方へと駆け出した。踏まれたキャラミの下に居たガートルードが押し潰され、蛙の鳴き声のような呻きを漏らす。


「そ・・・其方(そなた)、シャヴィ・・・」


半ば唖然としているファラは、駆けるシャヴィの背を目で追いながら、無意識にその名を呟いていた。


「──スタンツィ! 別のが行ったぞッ!」


シャヴィの怒鳴り声に、コンスタンツェがはっと顔を上げる。


コンスタンツェは床に尻を付けたまま、身を捩って首を巡らせ、飛ばされた剣レプラコーンを探していた。そのコンスタンツェの目に、回り込んで来る巨(おお)きな蜻蜒(やんま)の姿が映ると同時に、転がっていたレプラコーンが視界の端に入る。


「──こな糞・・・ッ!」


思わず口を衝(つ)いて出た、王女らしからぬ下品な言葉は誰の影響なのか、コンスタンツェが生まれて初めて口にした言葉だった。


剣に飛び付こうと、思い切り手を伸ばしたコンスタンツェが、床にその身を投げ出す。


コンスタンツェの指が、レプラコーンのヒルト(柄)に触れた時には遅かった。横目に気を走らせる視界の中、低空を真っ直ぐ向かって来る巨(おお)きな蜻蜒(やんま)の姿が、すぐ其所(そこ)に迫っていた。


それでもコンスタンツェが、掴んだレプラコーンを引き寄せた、その刹那。


「──こな糞・・・ッ!」


怒気を孕んだ声と同時に、コンスタンツの目の前で、男性(おとこ)の右足が地をがっちりと踏み締める。

咄嗟にコンスタンツェが振り仰ぐ。真上で両足を大股に開いてこの身を跨ぎ、この身を庇うように立っているシャヴィが居た。


「シャヴィ・・・ッ?」


コンスタンツェが声を上げた矢庭。


腰を落として身構えたシャヴィが一歩踏み込むと同時に、目と鼻の先に迫ったバイオーグ(機能補強生体)に対し、ファラの聖剣スプリガンを下から斬り上げる。


渾身の力を込めた刃筋が弧を描き、黒褐色の頭をしたバイオーグ(機能補強生体)の首筋を刎(は)ね上げようとした刹那。


反射的にバイオーグ(機能補強生体)が右に身を翻し、刃筋を躱(かわ)そうと直前で身体をクラブスリップ(横滑り)させた。逐(はし)るスプリガンの斬撃が、バイオーグ(機能補強生体)の左肩口を掠(かす)め、シャヴィが、躱(かわ)された、と思った刹那。


バイオーグ(機能補強生体)の、長く突き出した右のジェット・スラスター(噴推器)の1基を捕らえたシャヴィの刃筋から逃れるには、乗り過ぎた速度に距離が近すぎた。


スラスター(噴推器)を中ほどから真っ二つに叩き斬られたバイオーグ(機能補強生体)は、体勢を制御できずにスピン(きりもみ)するようにして、黒褐色の頭部から床に叩き付けられた。


この機を逃すものかと、スプリガンを構え上げたシャヴィが、クロウ目掛けて走り込む。向かって来るシャヴィに気付いたクロウが、咄嗟に跳ね飛び退(すさ)って、フォノンメーザー・ソード(電磁剣)を抜く。


「往生際の悪い、烏(からす)蜻蜒(やんま)野郎が・・・ッ!」


刹那、斬り下ろされるシャヴィのスプリガンを、クロウの剣が弾き返す。


それでも斬撃の手を緩めないシャヴィが、飛翔機能を損なって体勢整わないクロウに対し、2度3度と斬り掛かる。


「──何と言う男性(おとこ)だ・・・」


シャヴィの姿を目で追っていたファラが、思わず呆気に取られる。


無茶が過ぎるとは、正にこの事。恐れを知らぬ猪突猛進、いや匹夫の蛮勇、それとも勇者気取りの大間抜け、か。たがそれで、我が身に伸びた魔の手を払い、コンスタンツェの危機を救ったのは確かだった。


それに何より驚くのは、自身以外、あの巨躯を誇るヤンネでさえ振るうのに一苦労の重みを感じる“斬魔の聖剣”スプリガンの筈なのに、まるで良く馴染んだ手先のように扱っている。その上、血塗(まみ)れの躰(からだ)は、相当の怪我を負っている筈だ。


なのにそれでも尚、コンスタンツェを守り、剰(あまつさ)え、この身さえも。


“あのテラン(地球人)、何者なのだ・・・”


阿(おもね)る事を良しとしないコンスタンツェが、衒(てら)いも臆面もなく素直に、“マイ・ロード(我が殿)”とさえ呼ぶ、あのシャヴィと言うテラン(地球人)。ファラの心中に、何時(いつ)の間にか少しばかりの興味が起こる。


畢生(ひっせい)を断固として歩んで見せる──コンスタンツェが言い放った、あの言辞(げんじ)に語気。決意と言うより、誇らしげな歓喜の迸(ほとばし)りにさえ思える。


“あのコンスタンツェに、一生添い遂げると誓わせしめるほどの殿々方(とのとのがた)──”


確かに馬は合わないが、コンスタンツェの持つ王女としての矜恃の気高さは、ファラも認めるところだ。そんなコンスタンツェは、1、2度命を救われたからと言って、相手の男に夢見る恋心をほいほいと抱く、世間知らずな巷間の娘でもない。それに口は悪いが愚姫と呼ぶほど間抜けではないし、思慮の浅い尻軽な女性(おんな)でもない。


愛想もないコンスタンツェだが、人を見抜く慧眼には、ファラでも一目置いている。


1体のバイオーグ(機能補強生体)を相手に、一歩も引かず斬り結び始めたシャヴィの姿を、ファラがじっと凝視し始めた矢庭。


「──姫さまッ、上です! 気を付け為(な)されッ!」


四つん這いに身を起こし、その下でガートルードを庇っていたキャラミの、腹の底から搾り出したような怒声が轟く。


我に返ったファラが上を見上げ、その声にシャヴィが振り返る。


ゲスト・ウィング(迎賓棟)手前で蜻蛉(とんぼ)返りした、瑠璃の縞が入る黒い頭のバイオーグ(機能補強生体)・スペクルドが、急降下よろしく真上からファラに襲い掛かろうとしていた。


シャヴィが咄嗟に焦る。何しろファラの剣はシャヴィが一方的に把(と)ったので、ファラ自身は全くもって無防備の、為す術のない丸腰だからだ。


刹那ファラに気を取られ、目線を切ってしまったシャヴィの隙を突く、クロウの薙ぎがシャヴィの左肩口に襲い掛かる。反射的に半身を捩って躱(かわ)そうとしたものの、一呼吸遅れた分、フォノンメーザーの斬撃が、掠(かす)めるように肩口を逐(はし)る。痛撃を浴びてうっと呻くシャヴィの耳に、コンスタンツェの叫び声が届く。


「──調子に乗るな! 狼藉者めが・・・ッ!」


鬼の形相を浮かべたコンスタンツェが、聖剣レプラコーンを大上段に振り被り、羚羊(かもしか)のような長い足で地を駆けていた。


コンスタンツェから上がった怒鳴り声に、ファラが咄嗟に振り返り、キャラミが、ガートルードが同時に振り向く。見遣るキャラミが、思わず深緑色の隻眼をひん剥いた。コンスタンツェが振り被るレプラコーンの剣身が、陽炎のような青白い輝きを纏っていた。


“──まさか、星祓いの・・・”


コンスタンツェに構え上げられるレプラコーンが、音もなく青白い残影を引く。


「姫さまッ! 避(よ)け為(な)され・・・ッ!」


思わず咽喉を衝(つ)いて出たキャラミの怒哮(どこう)に、反応したファラが咄嗟に床に身を投げ出し、2度3度と横へ跳ねるように転がる。と同時にコンスタンツェが振り下ろすレプラコーンのその切っ先から、まるで水飛沫が迸(ほとばし)るように、青い輝刃(きじん)が見る間に噴き出し伸びる。


間合いは約10メートル。コンスタンツェの鬨(とき)の声と共に、迸(ほとばし)り出る青白い輝刃(きじん)が、ファラに襲い掛かろうとしているバイオーグ(機能補強生体)・スペクルド目掛け斬り下ろされる。


ファラの直上5メートルと迫ったスペクルドが、その異様な雰囲気に気が付いたが遅かった。スペクルドが、その瑠璃色の縞が入った顔をふっと振った矢庭。打ち寄せる波のように、どこまでも伸びる青白い輝刃(きじん)が、咄嗟に避けようとしたスペクルドの左ジェット・スラスター(噴推器)を叩き斬り、その左足すら瞬時に斬落させた。


ファラのすぐ横3メートル程の所に落ちたレプラコーンの斬撃は、その伸びる実体無き輝刃(きじん)が、そのまま倒れ込む巨木のように、15メートルほど離れたゲスト・ウィング(迎賓棟)にまで振り落ちていた。


それに慌てたのが、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋上に居たロダリーゴとスナウトの2人だった。


頭上から襲い掛かる光の刃(やいば)に、スナウトが咄嗟にロダリーゴを抱えながらスラスター・パック(噴射器)を噴かせ、大きく脇へと飛び退いた。紙一重、2人の脇を掠(かす)めた輝刃(きじん)が、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋舎に降り落ちる。


矢庭、強烈な輝きとともに、辺り一面にガスが立ち篭めた。蒸気ガスにも似た異臭を放つ靄(もや)に、視界を奪われたロダリーゴとスナウトが咳き込み、刺すような刺激に目頭を押さえて蹲(うずくま)った。




★Act.9 星祓いの力・3/次Act.9 星祓いの力・4

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト



   挿絵(By みてみん)

   illustrated by Aki Midforest


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