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Act.9 星祓いの力・2

「コンスタンツェ・・・?」


少しばかり呆気に取られるファラに、コンスタンツェが思わせぶりに一瞥し、ちらりと笑みを浮かべて見せた。


「──ヒイェラの兵たちに告ぐ・・・!」


向き直ったコンスタンツェは高らかに声を張り上げると、立ち塞がるヒイェラのセキュリティ(施設内警衛)を睨み回した。


「そこな我が行く道を塞がず、後退(さが)って道を開けよ・・・ッ!」


抜き身の剣を大きくゆっくりと一度払ってから、コンスタンツェはその華奢な体で精一杯に胸を張る。白く柔らかな腹筋に力を込め、一層声を張り上げた。


「このコンスタンツェ・ユイット・セーズ・エルドラド、今この場で高らかに宣告する──」


か細い腰に力を溜め、右手に握った剣を真一直線に突き出した。


「マイロード(わが殿)・シャヴィ・ストラトスと如何なる運命をも共にし、如何なる艱難辛苦に見舞われようと、この髪を何時(いつ)も確(しか)と結び付け、畢生(ひっせい)を断固として歩んで見せる!」


「コンスタンツェ・・・!」


思わずファラが、コンスタンツェの華奢な背に目を瞠(みは)った。


「某(それがし)はシャヴィ・ストラトスから、自分の意志を貫くだけの力を頂いた・・・!」


ファラの見詰めるコンスタンツェの背筋が一層ぴんと張る。


翼のディアデム(飾り冠)をウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪に戴く王女が、その剣の切っ先を揺るぎなく突き付け、仁王立ちに睨み回す。


そのコンスタンツェの気高い気迫に、囲むヒイェラ兵たちは思わず腰が引けてしまい、皆一様に半歩後退(あとじさ)ってしまった。素肌に纏う、貧相落魄(らくはく)としたインディゴブルーのシャンブレーシャツ1枚なのに、コンスタンツェの凛とした佇(たたず)まいは、間違いなく生まれ付いてのものだった。敢えて振る舞う尊貴高踏な態度に、はったりと客気が増す。


「我が行く末を変えるだけの、力と勇気を持ち合わせる者が居るならば、進んで前に出るが良い・・・!」


見事な啖呵だった。ふん、と似合わない鼻息も荒く、くるりと踵(くびす)を返したコンスタンツェが、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋上を振り仰ぐ。


「──プルンチットの方も、くれぐれもご覚悟召されるが宜しかろう・・・!」


勿論、そのコンスタンツェの揺るぎない言葉に驚いたのは、ヒイェラ兵だけではなかった。


“──姫御前・・・!”


立ち尽くすガートルードが、振り返る王女の立ち姿を凝視する。


こんなにはっきりと意思を露(あらわ)にしたコンスタンツェは初めてだった。


そしてガートルードが、後ろを振り返る。


コンスタンツェが此処まで思いを寄せ、共に歩こうと見初めたテラン(地球人)。王女が此処まで一途に想いを寄せるとは、ガートルードも驚きだった。


「──そして、メルヒオール殿下の従者よ・・・ッ!」


そのはっきりとしたコンスタンツェの声に、ガートルードがはっとした。


「このコンスタンツェ、殿下に差し出すチェイスト・アレジアンス(処女)、お生憎だが未来永劫持ち合わせておらぬ、とお伝え頂こう・・・!」


見下げていたステフ・スナウトは、さすがに返す言葉を持ち合わせていなかった。


「──良く言われたましたな、マデルーク王女殿下!」


代わって声を上げたのは、ロダリーゴだった。


「ですが皆さまは、既に篭の小鳥同然」


半ば嘲笑交じりの口調のロダリーゴが、ゲスト・ウィング(迎賓棟)屋上のパラペット(扶壁)に片足を乗せ見下ろして来ていた。


「──その行く末も、そう易々とは儘(まま)なりませんぞ・・・!」


そう高らかに、ロダリーゴが怒声を響かせた矢庭。


蜻蜒(やんま)のようなバイオーグ(機能補強生体)が、シャヴィたちの左手、ファラの立っている側から、いきなり姿を見せた。


シャヴィたち5人がいるウェルカム・デッキ(迎賓甲板)は、ウォーフ(埠頭)の掘り込まれた整備坑床面に、広いテラスのように突き出している。現れたバイオーグ(機能補強生体)はウェルカム・デッキ(迎賓甲板)下に潜んでいたクロウと呼ばれる、頭部が黒褐色一色の別の個体だった。


ウェルカム・デッキ(迎賓甲板)端に立てられた腰高の柵をすいっと越えたバイオーグ(機能補強生体)が、低空を一直線にファラ目掛け速度を上げて向かって来る。


迫る気配に気が付いたファラが、半身を開いて聖剣スプリガンに手を掛けたが遅かった。ファラが鯉口を切った時には、クロウは目の前だった。


「ファラ・・・ッ!」


コンスタンツェが、それでもファラの元へと駆け出そうとした刹那。


「スタンツィ! 後ろだッ!」


シャヴィの叫び声に、咄嗟にコンスタンツェが振り返る。


立ち塞がるヒイェラのセキュリティ(施設警衛)兵の向こうから、今度はまた別のバイオーグ(機能補強生体)個体、黒い頭部に瑠璃色の縞が入ったスペクルドが、コンスタンツェ目掛け真っすぐに飛翔して来ていた。スペクルドがセキュリティ(施設警衛)たちの頭越しを飛び抜けた刹那、コンスタンツェが聖剣レプラコーンを構え上げる。


その時には既に、ファラに狙いを定めたクロウが、ファラの目の前に迫っていた。左手を広げたクロウは擦れ違いざまに、くびれたファラの腰を抱えて攫(さら)おうとしている。


間に合わない──応撃の体勢が整わないファラが、観念した一弾指(いちだんし)。


いきなり身体が崩れ、ファラの体勢が滑って転ぶように仰向けに倒れ込む。


「きゃ・・・ッ!」


ファラの勝ち気に似合わない、可愛い小さな悲鳴が上がる。その刹那、倒れ込むファラの若く豊かな双丘の上を紙一重に、バイオーグ(機能補強生体)・クロウの左腕が空振りしながら掠(かす)め過ぎる。


ファラの女性らしい曲線を描く身体を倒したのは、シャヴィだった。


バイオーグ(機能補強生体)がファラを狙っていると気付いた刹那、シャヴィの足は床を蹴っていた。と同時にコンスタンツェにも、黒い頭部に瑠璃色の縞が入った別の1体が迫っているのに気付いた。


ファラの方へ勢い良く走り込むシャヴィが、コンスタンツェに怒鳴り声を上げながら、ファラの足元目掛けてスライディングで滑り込む。シャヴィの足裏が、ファラの足首辺りを後ろから掬(すく)うように蹴り込んだ。


不意を突かれたファラが、小さな悲鳴を上げ、あっさりと体勢を崩す。


カメリア・レッド(椿紅色)の髪が波打って、載せていた芳葉(ほうよう)のディアデム(飾り冠)が溢れ落ち、ファラの身体が滑り込んだシャヴィの上に倒れ込む。落ちて来るファラを胸板で受け止めたシャヴィが、すかさず半身を捩って右腕で庇うように抱え込んだ。


何が起きたか判らないファラが、庇うシャヴィの腕の隙間から、真上を飛び抜ける蜻蜒(やんま)のようなバイオーグ(機能補強生体)の姿を見た。


「すまない、ファラ・・・!」


ファラの目の前、1センチとない近さに、シャヴィの横顔があった。


シャヴィの見遣る先、もう1体のバイオーグ(機能補強生体)に襲われたコンスタンツェが、その振り上げたレプラコーンを弾き飛ばされていた。


向かって来る黒に瑠璃色の縞が入った頭部のバイオーグ(機能補強生体)・スペクルドに、コンスタンツェは正面から応撃に斬り掛かった。だが間合いに入る寸前、スペクルドが身体をすっとクラブスリップ(横滑り)させた。しかも躱(かわ)したコンスタンツェの刃筋に対し、バイオーグ(機能補強生体)が飛翔速度に乗せて、右手にしている自らのフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を薙ぎ払ったのだ。


コンスタンツェは咄嗟に、薙ぎられた刃筋をレプラコーンで受けたものの、速度に乗った斬撃の煽りを食らい、派手に尻餅舂(つ)いて倒れ込んでしまった。頭頂から零れた銀のディアデム(飾り冠)が、音を立てて脇に転がった。


スペクルドがコンスタンツェの脇を飛び抜けて、弾かれたレプラコーンがコンスタンツェの手を離れ、放物線を描いて宙を舞う。そのまま一直線に向かって来るスペクルドに対し、キャラミが咄嗟に庇うようにガートルードに覆い被さる。220センチの巨躯に伸し掛かられ、グラマラスな胸を床に打ち付け潰されたガートルードが、小さく呻きを上げた。


伏せるキャラミとガートルードの上を、スペクルドが風を巻いて飛び過ぎる。そのスペクルドはゲスト・ウィング(迎賓棟)寸前で、身を反らせながら上を向き、急上昇しながら蜻蛉(とんぼ)返りした。




★Act.9 星祓いの力・2/次Act.9 星祓いの力・3

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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