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Act.9 星祓いの力・1

「一体、何があったのだ・・・ッ?」


ロダリーゴは、少しばかり動揺していた。


咄嗟に蜻蜒(やんま)のようなバイオーグ(機能補強生体)に抱え上げられ、間一髪に難を逃れたロダリーゴが、浮かぶ宙空からウェルカム・デッキ(迎賓甲板)を見渡した。


矢庭、ガシャンと何かが倒れ落ちる音が立つ。


ロダリーゴが首を巡らせると、並んでいた儀仗隊の片列に突っ込んだと思しきバーニアン(操重機艇)の艇体が、床の上で小さく傾き崩れ落ちていた。


「閣下、安全な場所に、一旦着地します」


ロダリーゴの頭の上から、自身を抱え上げてくれているバイオーグ(機能補強生体)の声がした。バイオーグ(機能補強生体)はロダリーゴを抱えたまま身を翻すと、バーニアン(操重機艇)が突っ込んで来た反対側の、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の方へとすいっと飛翔した。眼下に見えるアラベスク(幾何学的文様装飾)のグリーティング・アプローチ(迎賓路)の上で、伏せていたファラが駆け出していた。


「突っ込んで来たのは、艦船整備用のバーニアン(操重機艇)です。私が視認した限りでは、ドライバー(操縦者)は不在でした」


「酷い有り様だな・・・」


ロダリーゴの目に、バーニアン(操重機艇)の下敷きになり、轢かれ、弾き飛ばされた儀仗兵たちの惨状が映る。


「──何かの作業中の事故か・・・?」


「どうでしょう。それは私には分かり兼ねます」


バイオーグ(機能補強生体)はゲスト・ウィング(迎賓棟)の方を向いたまま、素っ気無く返事を返した。


「とにかく救護班を上げて、負傷者の救護に当たらせろ」


ロダリーゴが苛立たしそうに顔を歪める。


「──それとウェスデン王女殿下一行を、何としても足止めするよう伝えるのだ。此処でむざむざと、帰国の途に付いて貰う訳にはいかない・・・!」


「分かりました、閣下」


そう答えたバイオーグ(機能補強生体)が、ゲスト・ウィング(迎賓棟)の上を小さな円を描くと、港湾作業用機材が置かれてあるゲスト・ウィング(迎賓棟)の屋上へ、ロダリーゴを抱えて降りて行く。ロダリーゴの足が地に着くと、そっと手を解いたバイオーグ(機能補強生体)が、ロダリーゴの背後についっと降り立った。


ガートルードから取り上げたフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を手に、ロダリーゴが屋上を取り囲む膝丈のパラペット(扶壁)に歩を寄せる。パラペット(扶壁)に片足を掛けると身を乗り出し、ロダリーゴは改めてウェルカム・デッキ(迎賓甲板)を見下ろした。


いきなり降って来たと言っても良い、突っ込んで来たバーニアン(操重機艇)に、ウェルカム・デッキ(迎賓甲板)の容相は一変していた。ゲスト・ウィング(迎賓棟)内に居た数名の作業員が、慌てて飛び出し駆け付けたもののどうして良いか判らず、倒れ込んで動かない儀仗兵の間を、狼狽しながらうろうろしている。


その惨状の中、此方(こちら)のゲスト・ウィング(迎賓棟)の方へと、グリーティング・アプローチ(迎賓路)の上を駆けている、、一際(ひときわ)巨(おお)きな体躯の人影が目に付いた。ファラ王女に随伴していた、ジャミラ人のロイヤル・セネター(王室付公議官)が駆け寄る先に、ロダリーゴが目を移す。


主人であるカメリア・レッド(椿紅色)の髪をしたファラ王女に、特別参与と称して随従していた、明白(あからさま)に王女の護衛と分かる女性武官が立っていた。


「──ん・・・?」


その2人が向き合っている、此方(こちら)に背を向けている別の2人の人影に、ロダリーゴが思わず目を眇(すが)めた。


1人はウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪も印象的な、見窄(みすぼ)らしいシャツを羽織り、黒いニー(膝下丈)・ブーツを履く素足も剥き出の、背筋もすらりとした女性だった。その横には酷くズタボロになった、柑子(こうじ)色のオーバーオール作業着らしいものを纏った、鴬(うぐいす)色の髪を束ねた人物が立っている。


「まさか──」


思わずロダリーゴが、ぐいっと身を乗り出した。


ウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪をした、嫋(たお)やかな女性らしき後ろ姿の人物は、その頭(かぶり)に翼飾りのある銀のディアデム(飾り冠)を戴(いただ)いている。ファラが戴冠している蓮の飾りがある金のディアデム(飾り冠)と見比べて、ロダリーゴがはっとした矢庭。


「──プルンチット閣下・・・!」


頭上から不意に掛けられた声に、ロダリーゴが振り向き見上げる。


「──閣下、不本意ながら、正体不明の賊に侵入されました」


長い山鳩(やまばと)色の髪を波打たせた男性(おとこ)が、背負ったスラスター・パックを吹かせながら降下して来た。ロダリーゴが肩に掛かる濃い鼠色の髪を手で軽く撥ね上げ、半身を捩って振り返る。


「貴様は確か、メルヒオール殿下の・・・」


「はい、閣下。殿下の従卒を務めております、ステフ・スナウトと申します」


ロダリーゴの左脇の1歩後ろ、黒のシングル・ツーピース・スーツを着込んだステフ・スナウトが軽やかに降り立つ。


「事もあろうか、トラニオウ閣下ご自身が態々お連れになられた、彼のマデルーク王女を攫(さら)われてしまいました」


足を引いたスナウトが無表情に、慇懃丁寧に腰を折った。


「──すると矢張り、あの方はエルドラドのコンスタンツェ殿下か・・・!」


ロダリーゴが、ウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪にディアデム(飾り冠)を戴く、シャツ1枚の後ろ姿を凝視する。


「しかもその閣下ご自身も、阻止しようとした際に、暴漢は用意周到にも凶器を持っていたため、手酷い重傷を負われました」


「トラニオウが・・・ッ?」


信じられないと言った風情で目を見開いたロダリーゴが、パラペット(扶壁)に掛けていた足を下ろしてスナウトを振り向いた。


「あのトラニオウが、暴漢ごときに遅れを取るとは・・・!」


「此処に落ちて来た、先程のバーニアン(操重機艇)です」


スナウトは一度軽く腰を折ってから、ロダリーゴの方へと歩を寄せた。


「奴が、何処から紛れ込んで来たのか不明ですが──」


ロダリーゴの横に立ったスナウトが、眼下のウェルカム・デッキ(迎賓甲板)で一塊(ひとかたまり)になっている5人の中の、辛うじて作業着と判る柑子(こうじ)色のオーバーオールを着る男の後ろ姿を、静かに指差す。


「マデルーク王女殿下の、王室付き侍従とは違うような気がします」


「トラニオウを打ち倒したのが、あのテラン(地球人)だと言うのか・・・?」


改めて首を巡らせるロダリーゴが、コンスタンツェの横に立つ鴬(うぐいす)色の髪の、切り刻まれた柑子(こうじ)色の作業着を纏う男の後ろ姿を睨み付ける。


だが何故か、固まったまま動こうとしない5人の、その雰囲気が怪しくなっているとロダリーゴが不審に感じた矢庭、いきなりファラ王女が剣を抜き、それに間髪入れずコンスタンツェ王女らしき人影も応じるように剣を抜く。


「──どうなっている・・・のだ・・・?」


いきなり啀(いが)み合いだした二姫(ふたひめ)に、さすがのロダリーゴも困惑する。


「彼のお2人、生来、気が合わぬところがありますから」


まるで他人事のように言葉を漏らすスナウトの目に、ハンギング・ソフトストレッチャー(手上げ救助担架)を抱えた作業員と救護担当らしき陣容が、ゲスト・ウィング(迎賓棟)から飛び出して来たのが見えた。


更にその後(あと)を追うように、今度はヒイェラ軍服を着込んだ、セキュリティ・ディビジョン(施設内警衛担当)らしき兵たちが十数名、ばらばらと飛び出して来る。ただ彼らは飛び出して来たものの、一瞬状況を把握し切れず、足を止め周りを見渡して少しばかり戸惑った。


その様子を目にしたロダリーゴが、鼠色の髪を少しばかり振り乱し、再びパラペット(扶壁)の上に足を乗せ、大声で怒鳴った。


「──其所(そこ)に居られる、ウェスデンとマデルークの二姫(ふたひめ)さま、決してお帰しするでないぞ・・・!」


浴びせられたロダリーゴの怒声に、ウェルカム・デッキ(迎賓甲板)に居た二姫(ふたひめ)を含む5人が一斉に見上げて来た。と同時にセキュリティ(施設内警衛)たちが、遠回しに5人を取り囲む。


「賓客ではあるが、この際、多少の無礼は厭(いと)わぬ・・・!」


ロダリーゴからの有無を言わせぬ命令に、後ろに控えていた蜻蜒(やんま)のようなバイオーグ(機能補強生体)が静かに後ろに下がる。


「──ズィーボル」


僅かに横を向いたロダリーゴが、目の端でバイオーグ(機能補強生体)を見遣りながら、脇のスナウトに声を掛けるように小声で名を呼ぶ。


「クロウとスペクルド、呼び寄せたな?」


「既に、このデッキ(甲板)下に待機しています。念のため、シルヴァにも呼集を掛けました」


僅かに足を浮かせた蜻蜒(やんま)のようなバイオーグ(機能補強生体)が、無表情ながらも微笑んだような反応を返す。バイオーグ(機能補強生体)には、高感度聴覚器官とノイズ処理機能が備わっているため、距離がある小声でも充分に聞き取れる。


「二姫(ふたひめ)を保護するだけだ。くれぐれも、怪我を負わせるなよ」


バイオーグ(機能補強生体)からの返事に満足したように、ロダリーゴが小さく頷いた。


「皆、承知しています」


小さく頷き返したバイオーグ(機能補強生体)のズィーボルが、そのまま宙空を後退する。下のウェルカム・デッキ(迎賓甲板)から見上げる5人たちの死角に入ったズィーボルは、すうっと横合いへと飛び去った。



  * * *



腰の得物を貸してくれ──前を向いたまま、シャヴィがコンスタンツェに右手を差し出していた。その横顔にコンスタンツェが、小さく笑みを溢(こぼ)した。


「何の、マイ・ロード(我が殿)」


小さく首を振ったコンスタンツェが、伸びるシャヴィの右の手首を、その左手でそっと包むように掴んだ。

「シャヴィは、もう充分過ぎるくらい万難を排して、此処まで来てくれたのです」


その愛おしそうに囁(ささや)き掛けるコンスタンツェの優しい声に、シャヴィが静かに振り向く。


「今の某(それがし)に、怖いものなど何一つ有りありません、マイ・ロード(我が殿)。今度は某(それがし)の番です」


樺茶(かばちゃ)色したシャヴィの瞳を見詰めたまま、小さく頷いたコンスタンツェが、流れるような挙措で聖剣レプラコーンを抜く。コンスタンツェは前を向くと大股で歩を進め、ファラの眼前を横切ってすっと前に出た。




★Act.9 星祓いの力・1/次Act.9 星祓いの力・2

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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