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Act.8 俎板(まないた)姫と乳(ちち)団子姫・3

「ヤンネ」


キャラミからの問いに斟酌を見せないコンスタンツェが、畳み掛けるように言葉を継ぐ。


「何(いづ)れはちゃんと返す故(ゆえ)、つべこべ言わず黙って、疾(と)っ疾(と)と艦(ふね)を貸せ」


「──コンスタンツェ、汝(いまし)は、さっきから艦(ふね)を寄越せ貸せと・・・!」


傍(はた)で聞いていたファラが、当然のように横槍を入れる。


「何故(なにゆえ)、其所(そこ)まで艦々(ふねふね)が入り用なのじゃ?」


「某(それがし)2人は、直ぐにも此処に暇(いとま)を告げ、今度の日曜にはヴェネツィアへ買い物に行かねばならぬ身なのだ」


緩やかに盛り上がる胸を殊更に反らたコンスタンツェが、ファラを見下すような自慢気な視線を投げる。


「──なので、つべこべ言わず、黙って艦(ふね)を貸せ」


「何が、なので、だ! 吾(あ)の艦々(ふねふね)を、カート(荷車)代わりに使う気か・・・!」


ウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪も楚々としたマデルーク王女に、カメリア・レッド(椿紅色)の髪が艶(あで)やかなウェスデン王女。飛翔のディアデム(飾り冠)を戴冠しているコンスタンツェは171センチ、一方芳葉(ほうよう)のディアデム(飾り冠)を戴くファラは165センチと、マデルーク王女の方がウェスデン王女より僅かに背が高い。


明白(あからさま)に眉間に皺(しわ)を寄せたファラが、詰め寄るようにコンスタンツェを凝視する。上背では及ばないが、ファラはバスト97、ウエスト59、ヒップ90と、82、57、85のコンスタンツェより躰(からだ)に厚みがあるので、ファラの体躯には意外と威圧感がある。


お互い角(かど)を立て合う二姫(ふたひめ)に苦り切ったキャラミが、まあまあ少しお気を緩めに、と諌めるようにやんわりと声を掛ける。


「──それに何やら殿下も、お急ぎのご様子」


コンスタンツェに向き直ったキャラミが、脇のシャヴィを垣間見てから、再びマデルーク王女に問い掛けた。


「ひょっとして、今すぐにでも、此処をお出になられたい、と・・・?」


「そうだ。何しろ、ヴェネツィアへ行って、デコルテ(胸元)から鎖骨が覗く、チェイスト・アレジアンス(純潔乙女)に相応しい、花嫁衣装を手に入ればならぬのでな」


コンスタンツェがまるで鼻を鳴らすように言い切った。


「──花嫁衣装、だと・・・ッ?」


「羨ましいか?」


一瞬絶句してから言葉を漏らしたファラに、コンスタンツェが煽るように北叟笑(ほくそえ)む。


「さては愛々(いといと)しきメルヒオール殿下の元へ、潔く嫁々(とつとつ)する気を固めたか!」


機先を制せられたファラが、少しばかり負け惜しみのように抗弁する。


「その自慢の尖った耳は、脳味噌に繋がっておらんのか?」


コンスタンツェが殊更に嫌みったらしく、捏(こ)ねくり回すように言葉を浴びせる。


「某(それがし)のマイ・ロード(我が殿)は、愛しきシャヴィ・ストラトス殿だと、のっけから自慢気に千度も、其方(そなた)を悔しがらせておるであろうが・・・!」


「大人しく聞いておれば、勝手な言い言い草々(くさくさ)を並べ立ておって! この頓馬なトリプルホロゥズ・プリンセス(三無し姫)が・・・!」


言い負かされてなるものかと、勝ち気に勝るファラの方が、思わず先に“斬魔の聖剣”スプリガンに手を掛けた。


「どこが大人しく、だ! このトップヘビー・プリンセス(巨乳毒姫)!」睨み合うコンスタンツェも視線を外さず、当然のように“弾魔の聖剣”レプラコーンに手を添える。「──艦(ふね)を気前良く差し出さぬ、と言うのであれば、今この場で其方(そなた)を、実力で捩じ伏せる・・・!」


「実力、だとッ? 笑々(わらわら)させるでないわッ!」売り言葉に買い言葉、ファラが躊躇なく、ローズ・ゴールド(紅鬱金)色したスキャバード(鞘)の鯉口を切る。「遣(や)れ遣(や)れ出来るものなら遣(や)ってみろッ! ビンボ・レディ(上っ面淑女)!」


ファラが抜いた“斬魔の聖剣”スプリガンは、コンスタンツェのレプラコーン同様にエングレーヴィング(鏨彫り)が施された鍛造の両刃剣だが、レプラコーンと違いブレード(剣身)が深い赤みを帯(お)びた鋼色で、ガード(鍔)とポメル(柄頭)には赤い玉石が嵌まっている。


「相変わらずの、レディ・ボシーボトム(生意気な尻姫)!」


剣呑な雲行きに、おいおいおいと、思わず頭を掻くシャヴィに、コンスタンツェは聞く耳もたず当たり前のように、スカイ・シルバー(青銀)のスキャバード(鞘)からレプラコーンを抜く。コンスタンツェの弾魔の聖剣はスプリガンとは対照的に、青み掛かったブレード(剣身)で、ガード(鍔)とポメル(柄頭)の玉石も青色だ。


「その大きいだけの淫売な尻を剥き出しにして、二度と清純振れない痴態を晒(さら)してくれるわッ!」


単なる詰(なじ)り合いが、あっと言う間もなく、お互いに刃向かう羽目になった二姫(ふたひめ)に、ガートルードがその長身でただただおろおろする。何しろ2人とも故国を代表する姫君なので、迂闊には口を挟めない。


「汝(いまし)こそ、その誰も見向きもしないチョッピングブロック(俎板)の胸々(むねむね)を、晒々(さらさら)と衆人の晒し物にしてくれるわッ!」


「お2人とも、剣をお収め下さいな・・・!」


困惑頻(しき)りのキャラミが、眉間に皺(しわ)を寄せて嘆息する。


「黙っていろ、ヤンネ」憤懣(ふんまん)遣る方ないファラが、コンスタンツェを睨み付けたまま、ぶうと頬を膨らませる。「然(さ)もないと、貴様の愛玩フィギュアを、悉(ことごと)く灰にしてやるぞ」


「二姫(ふたひめ)さまとも、此処を脱出なさりたいので御座りましょう・・・?」


まるで駄々っ子を叱るような口調のキャラミが両手を腰に当て、負けん気で癇(かん)を立て合う2人の芳紀な王女を、呆れた顔で交互に見遣る。


「──なら、此処で角突き合わせずとも、一緒にお暇(いとま)すれば宜しいではないですか・・・!」


「・・・・・・」


聞き分けのない子を強く諭すようなキャラミの言葉に、二姫(ふたひめ)が思わず声を呑み込んで黙り込む。意地は張るが、ちゃんと聞く耳を持っている姫君たちに、キャラミが相好を崩した。


「何にせよ利害が一致しているのに、殊更に罵(ののし)り合っていては、単なる時間の無駄と言うものです」


キャラミが2メートルを優に超える上背で、ファラの顔を覗き込む。


「いやしかし、コンスタンツェと利々害々(りりがいがい)が一致すると言うのが、何とも癪々(しゃくしゃく)に障るでおじゃる」


「姫さま・・・!」


それでも感情が先走る自らの主人に、キャラミが強く窘(たしな)める。


「──すると何か」キャラミの言葉に、コンスタンツェが聳(そび)やかしていた肩を落とした。「其方(そなた)たちも、此処を直ぐにでも発つ積もりだったのか?」


「ええ」キャラミが主人たるファラを横目に見ながら、渋面で小さく頷く。「危うく、ロダリーゴ・プルンチットの奸計に、嵌められるところでした」


「奸計?」


キャラミからの不穏な言葉に、コンスタンツェが思わず訝(いぶか)る。


「余計な事々(ことごと)は喋るな、ヤンネ!」


不甲斐ない様(さま)に陥ったのを知られたくないのか、ファラはキャラミにぴしゃりと言い放ち、大きな息を吐き出すと、手にしていた自らの剣を静かに収めた。


「ははあ、さては」


にやっとしたコンスタンツェも、自らの剣を収めたが、舌鋒は収めなかった。


「其方(そなた)の揺れる乳(ちち)は、分別の付かぬ殿方には特に煽情魔性だからな。容易く惑わされた、間抜けなロダリーゴに言い寄られておるのだろう。可哀想な奴め」


「名を口々(くちくち)にするのも汚らわしい、彼奴(あやつ)が間々(まま)抜け抜けなのは間違いないが──」


半歩、ぐいっと歩み寄ったファラが、柳眉を逆立てコンスタンツェを睨み付ける。


「可哀想なのは、汝(いまし)の俎板(まないた)が如き貧々乳々(ひんひんにゅうにゅう)でおじゃろうが・・・!」


売り言葉に買い言葉、二姫(ふたひめ)が再び言葉の応酬を始めた矢庭。ゲスト・ウィング(迎賓棟)内から救護担当と思しき数名が、ハンギング・ソフトストレッチャー(手上げ救助担架)を抱え、息急き切って走り出て来た。


「──ファラさま、お早く!」


いきなり慌ただしくなった身辺に、キャラミが声を硬くした矢庭。


救護担当に続いて今度は、レーザー長銃を手に耐レーザー弾・アーマーに着込んだセキュリティ・ディビジョン(施設内警衛担当)のヒイェラ兵が十数名、ゲスト・ウィング(迎賓棟)内から飛び出して来るのが見えた。


「──ちと剣々呑々(けんけんのんのん)じゃ、コンスタンツェ・・・!」


「うむ。諍(いさか)っておる場合ではないな・・・!」


ファラとコンスタンツェも、思わず周囲を見渡す。


姿を見せたセキュリティ(施設内警衛)のヒイェラ兵は、状況がはっきりと認識できていないのか、幾許(いくばく)か戸惑っている様子だった。


「さあ、今のうちです! コンスタンツェ殿下もご一緒に・・・!」


この隙にとばかり、促すキャラミが大きな巨躯を翻そうとした、その矢先。


「──其所(そこ)に居られる二姫(ふたひめ)、決してお帰しするでないぞ・・・!」


突然頭の上から浴びせられた怒鳴り声に、5人が一斉に振り仰ぐ。


「賓客ではあるが、この際、多少の無礼は厭(いと)わぬ・・・!」


すぐ後ろのゲスト・ウィング(迎賓棟)、その屋上の縁に2つの人影が立っていた。


「──ロダリーゴ・プルンチット・・・!」


「ステフ・スナウト・・・!」


屋上を睨み上げるファラとガートルードが、同時に声を上げる。


ばらばらと靴音が響いたかと思ったら、セキュリティ(施設内警衛)のヒイェラ兵が行く手を阻むようにリフト棟側へと回り込む。咄嗟にガートルードが、二姫(ふたひめ)の前に出る。


壁のように立ち塞がったヒイェラ兵は、レーザー長銃を胸元に抱えるが、さすがに王女相手では銃口を下に向けてレスト保持していた。


「──スタンツィ・・・」


囲むヒイェラ兵を睨んだまま、シャヴィが横に立つコンスタンツェに手を出した。


「俺が突破口を開く。少しだけ、腰の得物を貸してくれ」




★Act.8 俎板(まないた)姫と乳(ちち)団子姫・3/次Act.9 星祓いの力・1

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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