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Prologue 処女を捧ぐ夜・7

無理な体勢で()けたミランダが、受け身を取る暇もなく、もんどりうつようにして背中から落ちる。


「──何処までも邪魔をする、メルヒオールのフランキー(糞犬)が・・・ッ!」


それでも咄嗟に、ミランダが身を丸めながら半身を起こす。


「それはどっちだ、ドーピング・ビッチ(いかれ雌犬)・・・!」


体勢を整えさせるものかとスナウトが、半身不随にされて藻掻(もが)くヴェルテブロイド(脊椎動物型義工器械)の背を足蹴にして、一気呵成にミランダに斬り掛かる。


それをミランダが床に身を投げ出し、スナウトと位置を入れ替えるように前に転がる。スナウトの剣筋が空を切り、ヴェルテブロイド(脊椎動物型義工器械)に()ち当たりながらも身を翻したミランダが向き直る。隙を与えんものと、(くびす)を返して斬り掛かるスナウトに、起き上がり様、薙ぎられるミランダの剣が交刃する。


耳を聾するコヒーレントの破裂音が立ったかと思ったら、両者が咄嗟に跳び退いて間合いを取った。


「姫さまッ! 今のうちに、窓からテラスへ──」


激しく剣を交じらせ合うミランダとスナウト2人に、警戒のフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を構えるガートルードが、コンスタンツェを背に庇いながら声を上げた。


「割れた硝子(ガラス)にお気をつけをッ!」


ガートルードの言葉に頷いたコンスタンツェが、ベッドの脇に揃えてあった、自分の室内履きに足を入れる。コンスタンツェは壁際の操作パネルへ駆け寄り、緞帳とテラス窓を開くスイッチを同時に押す。モーターが唸りを上げ始めた窓へ、コンスタンツェは緞帳を手繰り寄せながら、外へ出ようと窓際へ身を潜り込ませた矢庭。


目の前、開き始めた高さ3メートル近いテラス窓の向こう、中庭へ降りる階段からのっそりと上がって来た白い機械の野獣の姿が、半月の光で闇夜に鈍く浮かび上がっていた。其奴(そいつ)は口に何も(くわ)えていなかったが、顔面全体が(おびただ)しい血飛沫で真っ赤に染まっていた。


「──まだ居たのか・・・ッ!」


ぎょっとしたコンスタンツェが、咄嗟に身を伏せる。と同時に、凄まじいレーザー弾の嵐が窓に叩き込まれた。


其奴(そいつ)は先に侵入して来た、狼の(なり)をした他の2他意と同様のヴェルテブロイド(動物型義工器械)だったが、背負った武装は6連装のガトリング(多砲身斉射)・レーザー砲だった。


「──姫さまッ!」


振り向くガートルードの視線の先、床に伏せるコンスタンツェの頭上を、レーザー銃嵐が襲い(はし)る。窓ガラスと分厚い緞帳に威力が減衰されたレーザー弾だが、(あた)れば軽い銃傷を負う。パルス・レーザーはストッピング・パワーが小さいので、動態被弾で致命傷になることは少ないが、1秒間に数十射するので火線が走った痕が黒く焼け(ただ)れ、パルス効果で筋肉が痺れて激しい痛みを覚える。


ガートルードが、コンスタンツェの元へ駆け寄ろうと床を蹴った刹那。


窓ガラスが砕ける音と同時に、重厚な濃紺の緞帳が翻って、ガトリング(多砲身斉射)・レーザー砲を背負った機械の狼が、外から飛び込んで来た。


咄嗟にコンスタンツェに覆い被さるガートルードの上を、白い大きな機械獣が飛び抜ける。白い機械狼が5メートル向こうに着地すると同時に、身を起こしたガートルードが身を翻して床を蹴る。機械獣が跳ね退くようして向きを変えた時には、突進するガートルードが切っ先を突き出していた。


「ガート・・・ッ!」


コンスタンツェが顔を上げた刹那、()え上げようと牙を向くヴェルテブロイド(動物型義工器械)の裂け口に、ガートルードの剣が突き刺さる。反射的に首を持ち上げて後脚立ちする機械狼に、ガートルードの剣が持って行かれた。


「ガートッ! 此方(こっち)だッ!」


丸腰になってしまい、(ひる)むガートルードに、コンスタンツェの怒鳴り声が掛けられる。ガートルードが振り向くと、コンスタンツェが(ねや)から通じる、大きなクローゼット・ルームへのスライド扉を開いていた。


「──姫さま・・・ッ!」


慌てて(くびす)を返すガートルードの背に、白い人造狼が剣を口に突き刺したまま前傾姿勢に構えると、装備したガトリング(多砲身斉射)・レーザー砲の砲口が向く。ガートルードが飛び込むと同時に、コンスタンツェが戸を閉める。間髪の差で、機械狼からのレーザー銃嵐が扉に叩き込まれた。


「ガートッ! 怪我はないかッ?」


扉にロックを掛けたコンスタンツェが、ガートルードに駆け寄る。


「姫さまこそ、お怪我はありませぬか?」


(それがし)は大丈夫だ」


コンスタンツェが小さく肩を(すぼ)めて、自らの身形(みなり)に視線を落とす。腰帯が掛かってはいるものの、バスローブは前身頃がすっかり(はだ)けてしまい、なだらかな曲面を描く、未熟な果実のような乳房が(あらわ)になっていた。


「ただ、今でも処女の危機には違いない。パンティも履いて居らんからな」


「何にしても、先ずはお着替えを──」


ガートルードが室内を見渡す。


バスルームとは反対側にある、(ねや)に隣接するクローゼット・ルームは、幅10メートル、奥行きが20メートル程の窓の無い部屋だ。


片方の壁側がファウンデーション(下着)と、帽子やスカーフなどの雑貨小物、それにアクセサリーなどを収めたワードローブで、反対側の壁がシューズ収納になっている。部屋の中央にはクローク・ハンガー用に吊られたワードローブが2列に並び、要所には姿見が設置されている。200着以上あるのは確実だが、場所を取っているのはどれもオフィシャル行事用のロングドレスばかりだ。


「うむ」


コンスタンツェは空になったソードベルト(剣帯)を解くと、血塗(まみ)れのバスローブを()()と脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿でクローゼットを奥へと闊歩する。


「ガートは靴を頼む。其方(そなた)と肩を並べて走れそうな奴だぞ」


はい、と返事を返したガートルードが靴収納へ駆け寄り、(せわ)しなく靴棚に視線を巡らせて行く。野狩に出る際に履く焦茶のハーフ・ブーツを見付けるなり、ガートルードが手荒に引っ掴む。ずらりと並ぶドレスの向こうに垣間見えたコンスタンツェは、ワードローブの前でパンティを履いているところだった。


「──姫さま、その格好は・・・」


駆け付けたガートルードが、目の前の王女に呆れ半分に嘆息する。


瑞々躍々(ずいずいやくやく)とした(しな)やかな肢体のマデルーク王女は、紺の濃淡を基調にしたショート(膝上丈)のフィッシュテールなカクテルドレスを、素足も剥き出しに着込んでいた。桜色の両肩と中央がカットされて胸元が見えるホールターネックで、バスト・カップに保護パッドが入っているのでブラジャが必要ないドレスだ。


「動きやすい服装で無いと不味(まず)かろう」パンティを履き終えたコンスタンツェが、捲り上げたドレスの裾を整え、腰回りの軽く揺すって着心地を落ち着かせる。「貴様のようなパンツ・スーツがあれば良いのだが、生憎(あいにく)と此処には無いのだ」


「せめて、ジョッパーズを・・・」


と言葉にした当のガートルードが、言った尻から、ああ、と嘆息した。


「──だからあれほど、パンツ・スタイルを所望していたのに」それ見たことか、とコンスタンツェが少しばかり(むく)れたような表情を見せた。「(それがし)は尻が貧相だからと、ロングドレスでサイドサドル(横乗り)させておったのは、他ならぬガート、其方(そなた)であろうが」


コンスタンツェの言葉にガートルードは、思わず渋い顔をした。


確かにコンスタンツェの言う通りだった。


目の前の翡翠(ひすい)色の瞳をした王女は手足も長く、スタイルが良いのは万人が認めるところだ。ウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪も相まって、楚々として居れば物静かに見えるのが、(しな)やかな体形同様に中身は驚くほど御侠(おきゃん)で活動的と来ている。乗馬は勿論、狩と射撃、水泳を好んでいて、ガートルードを供にするのが常だった。


コンスタンツェがジョッパーズを着るのをガートルードが渋るのは、一度、城内の馬丁がジョッパーズを着たコンスタンツェを、男の子と見間違ってしまった事があったからだ。それ以来、外で遊ぶ際には、コンスタンツェの外見のイメージを損なわないように、ガートルードがかなり気を使ってお仕着せしていた。なので、此処には乗馬用のパンツスーツであるジョッパーズが1着もないのだ。





★Prologue 処女を捧ぐ夜・7/次Prologue 処女を捧ぐ夜・8

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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