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Act.6 ファラ・3

「あの父親に思し召されて、なおもメルヒオールとは、よくよくに男運の薄々い奴」


呟くように独り()ちるファラは、画面の移動要塞を嫌悪するように睨んでいた。


ヒイェラ宇宙軍移動要塞グガランナ。


正面から見ると、ウエイトを段々に5段重ねたダンベルのようなシルエット(姿影)をしている。対称的な左右両舷の構造体が、まるで5段重ねのケーキか5段の円錐ピラミッドを、横に倒したようだ。要塞全体の全幅は4500メートル、左右両舷の積み上がったような円錐ピラミッドの、直径に値する高さは2000メートルある。


専属乗組員は4万7000人で、指揮するのはプルンチット三弟ロダリーゴ将軍。


移動要塞グガランナは、巨大だが直接の戦闘施設ではない。どちらかと言えば橋頭堡の役割を担うファシリティ(施設)で、派遣された宇宙軍艦隊などの在外母港となる。


ウェスデンとの交渉の任に就いているロダリーゴ・プルンチットだが、実はウェスデン側からの強烈な拒否に合っていて、首都メンゲルベルクがあるプライマリ・アース(首星)の地を踏む事が(いま)だに許されていない。そのためロダリーゴはウェスデン領宙に入ったものの、それ以降グガランナ内での滞留を余儀なくされている。グガランナは現在、太陽系ウェスデンの第3惑星である、プライマリ・アース(首星)のクラウスに対し、150万キロ離れた同期公転軌道上に滞宙していた。


補佐役のキャラミとガートルードを帯同したファラは、首都メンゲルベルク宙港からアリアン・シレーヌに乗艦し、衛星軌道上で待ち受けていた宇宙軍艦船2隻の護衛を受けながら、スプラッシュ・ドライブ(跳撥航行)で、グガランナから5万キロの宙域にスナップダウンした。ファラを乗せたアリアン・シレーヌは、護衛2艦に見送られながら、一路グガランナへと加速した。これはウェスデン側の武力行使部隊、(すなわ)ち宇宙軍が3万キロ以内に近付く事を、ヒイェラ側が許さなかったからだ。グガランナ周辺宙域には、トラニオウ率いる連合艦隊とは別の、ロダリーゴ隷下の宇宙戦闘艦2隻が要撃布陣している。




「──それにしても、この辺りは一体全体、どの国の領宙なのだろうな」


目の前に迫って来るグガランナの異様な威容に、口を突き出すファラの表情は、少しご機嫌斜めな16歳の女の子そのもだった。


「これに加えて、トラニオウが引き連れて来た連合艦隊が、傍若無人にうろうろしているとは、全く(はらわた)が煮え煮え返るわ・・・!」


ファラたちが乗るアリアン・シレーヌは、グガランナ右舷側へと大きく回り込む。映り込む画面が、まるでアトラス(天空を支える巨神)が使うダンベルみたいな、グガランナの厳つい構造体で埋め尽くされ、宇宙(そら)の星々の輝きが全く見えなくなった。


「矢張りヒイェラには、ロスチャイルズ・コンジュゲーション(経済連衡)の後ろ盾があるようですね」キャラミも画面を凝視したまま、厳しい顔付きをしていた。「ベオウォルフ・トゥリティ・アライアンス(条約連盟)との安全保障も進めていると聞いています」


グガランナの右舷側、段々になった構造体の頂点中央部分に、大きな口が開いていた。


直径140メートル、グガランナが備えるステート・バース(賓客用泊港)へのインセット・ストレイト(構内導峡路)口だ。開口部の縁外殻には、プルンチット家のクレスト(紋章)であるエキドナ(翼の生えた蛇の女神)が、取り囲むように造作されていた。


グガランナは後方基地として在外母港の役割も担うため、円筒の段々ピラミッド構造をした両舷に、作戦行動用のミリタリー・ポート(軍港)設備も持っている。隷下の宇宙艦やトラニオウ麾下の派遣艦隊など、同時運用される宇宙艦艇向けのウォーフ(埠頭)で、全周6000メートルあるため円弧を描く外周に沿って、1000メートル級大型艦3隻に500メートル級中型艦2隻を同時にドッキング(着埠)させられる。それが両舷に備わっているので、合わせると10隻の宇宙艦を同時にメンテナンス(点検整備)、補給可能だ。


「ヒイェラを率いるプルンチット一族、いや本国におじゃる総帥グレミオ・プルンチット、正面切った直接の武力行使に訴えて来ない辺りが、癪々(しゃくしゃく)に障る」


ファラが小さく嘆息すると同時に、アリアン・シレーヌがインセット・ストレイト(構内導峡路)口を(くぐ)る。直径140メートルのストレイト(構内導峡路)に対して、アリアン・シレーヌは全幅62メートル。ぎりぎりとは言わないが、それでも慎重なドライブ(操艦)が要求される。


「御意」


「──ヤンネ、貴様の見立て通り、活々(かつかつろ)はユナイテッド・ギャラクシー・オーガナイゼーション(銀河合衆機構)との連々携々(れんれんけいけい)、だけか・・・」


そのファラの言葉に、ガートルードは思わず歯噛みした。


聞けば増援に来たトラニオウの率いるヒイェラ連合宇宙艦隊は、確認できただけで総数10隻を優に上回るらしい。ヒイェラの圧倒的な武力威圧だった。


噂で聞くほどだったが、実際に目の当たりにして、これでは話しにならない──ウェスデンとマデルーク、両国が(さら)されている圧倒的な大国の軍事力に、ガートルードが忸怩(じくじ)たる思いを噛み締める。


ウェスデンはマデルーク同様、決して軍事大国ではない。ファラが率いるウェスデン王立宇宙軍は、今回護衛に付いた2隻を含め、稼働可能な戦闘艦船は5隻足らず。国力も()る事ながら、軍事力の差は歴然だった。ウェスデン1国で、正面切って(あらが)える状況に無い事は、誰の目にも明らかだった。


「問題は、オーガナイゼーション(銀河合衆機構)が要求する見返りです」


キャラミは相変わらず正面を向いたまま、短く答えた。


メイン・ビジョンには、アリアン・シレーヌが静々と進む、インセット・ストレイト(構内導峡路)が奥まで映り込む。


ウォーフ(着埠)を指示されたステート・バース(賓客用泊港)は、段々状の茸の傘のような左右両舷に挟まれた中央、ダンベルで言う所のグリップ部分に相当する位置にある。内壁の所々には小さなジブ(支腕型)クレーンが設置され、ぼんやりとした面照明が灯るストレイト(構内導峡路)は存外に明るい。ストレイト(構内導峡路)自体は真っ直ぐな管状をした宇宙船艇用通路で、舷側口からステート・バース(賓客用泊港)まで、直前のエアタイト・スタンピング(気密防漏隔渠)を入れて約1600メートルある。


「デジャーソリス教、か・・・」


ファラが遠い目をしながら見詰めるメイン・ビジョンの中で、マーシャラー(誘導管制官)用の構造物が後ろへ流れ過ぎて行き、遠慮がちに内壁沿いを進んで来るバージ(艀)を曳いたタグトラクタ(空間曳機艇)と擦れ違う。


「──王室は、フィディアイ・ディフェンソル(護教者)を自任する事を()()めしろ、と言う事々(ことごと)か・・・」


ファラからのその言葉は、耳を(そばだ)てていたガートルードには、初耳の話だった。


迫り来るヒイェラへの対抗策に、ウェスデンはユナイテッド・ギャラクシー・オーガナイゼーション(銀河合衆機構)との安全保障を模索したようだが、国教としてのデジャーソリス教から排他的宗教権威を取り除け、と言う条件を逆に突きつけられたらしい。王室がフィディアイ・ディフェンソル(護教者)である限り、プルンチットが目論むデジャーソリス教を中核とした国家連合に、再び取り込まれる可能性があるからだ。


フィディアイ・ディフェンソル(護教者)の御旗を降ろせば、国家としてはヒイェラに呑み込まれず、国体と王室を今のまま残せるかも知れないが、実質的には王室は形骸化してしまい、(いにしえ)よりのデジャーソリスからの有識故実を失う事になる。


かと言ってヒイェラの、プルンチットの標榜する国家概念を受け入れても、デジャーソリス教は教国5箇国連盟の枢軸教となるものの、国家としてのウェスデンは一種の宗主藩属的な国家連邦に呑み込まれ、王権奉還を迫られれば治世権を失う羽目になる。


ファラ王女の置かれている立場は、ガートルードの主たるコンスタンツェとは全く異なる。王室を継ぐべきファラにとっては、他人事にして置ける問題ではなかった。


ファラの愚痴にも似た呟きに、キャラミは口を(つぐ)んでいる。そしてガートルードは、それに対して迂闊な口を利く事のできない、許される立場ではない事を、改めて自戒した。


少しばかり重苦しい沈黙の空気が流れ、アリアン・シレーヌが緩やかに制動を掛けると、僅かにつんのめるようなガルを感じた。


アリアン・シレーヌは、グガランナ内のストレイト(構内導峡路)を1500メートルほど進んで、通路を塞いでいる気密シャッターを100メートルほど前にして、スタンピング(一時停留)した。


パイロット(操艦担当)とオフィサー(管制官)の遣り取りがあって、アリアン・シレーヌの100メートル後方で、ダイアフラム(捻り絞り開閉式)・気密シャッターが、内壁全周から(ねじ)れるようにせり上がって来る。シャッター自体は黄色に塗られた硬質レジン(重合樹脂)製の、三日月に似た形状の12枚の羽根で構成され、中央に開いた口を縁辺から(すぼ)めるように閉じて行く。


後方の気密シャッターが閉じ切ると同時に、アリアン・シレーヌが滞留するエアタイト・スタンピング(気密防漏隔渠)内へ、充填用の標準空気が一斉に流れ込んで来る。充填用空気はスタンピング・ドック(気密防漏隔渠)周囲の貯蔵庫に圧縮して貯められている。伝播媒体である空気がなかったため無音だったスタンピング・ドック(気密防漏隔渠)内に、空気が満たされて行くにつれ、アリアン・シレーヌの艦内(なか)に伝わって来る吐出口から噴き出す空気の音が、徐々に大きくなる。


5分と掛からず、スタンピング・ドック(気密防漏隔渠)内が標準空気の1気圧に達すると、今度はアリアン・シレーヌ前方の、ダイアフラム(捻り絞り開閉式)・気密シャッターが、中央から徐々に開口し始めた。




★Act.6 ファラ・3/次Act.6 ファラ・4

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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