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Prologue 処女を捧ぐ夜・3

“一体全体、何がどうなっている──”


コンスタンツェの脳裏に混乱だけが渦巻く。


しかも剣を振り翳してから5秒と経っていない。


恐ろしい程の、剣の使い手だった。気配を殺して近付き、反撃の(いとま)も与えず、3撃も食らわせる。最初の1撃で、国王は既に命脈を断たれていた筈だが、それでも容赦せず2撃目を振り下ろし、(あまつさ)え頚さえ()ねる。


僅かな懸念も残さず、国王を確実に亡き者にする意図は明確だった。


まさか近習に成り済まして、堂々と入室して来るとは。しかもちらりと目にした限りでは、大剣など()びている様子は微塵も感じなかった。


見知らぬ暗殺者に、戦慄が(はし)る。


“だが、狙われたのは国王だけなのか──”


そんな訳はない。国王をこんなに大胆にも殺害するからには、もっと別の意図がある──咄嗟に考えを巡らせるコンスタンツェが、とにかく斬撃から間合いを取ろうと、後ろに跳ね飛んだ刹那。


剣の刺客が床に手を突いて一回転したと思ったら、斬撃ではなく強烈な回し蹴りが飛んで来た。コンスタンツェは身構える間もなく、胸を蹴り上げられ、ベッドにまで飛ばされた。


“何て身軽な・・・!”


コンスタンツェはバスローブ1枚羽織っているだけで、武器は勿論の事、パンティも着けていない。圧倒的に不利だった。


“とにかく身を守るものを──”


膝を割り、ベッドの上で起き上がろうとしたコンスタンツェに、今度は剣のスキャバード(鞘)が腹に当て込まれた。呻きを上げ体をくの字に折ったコンスタンツェが、それでもベッドの上を撥ね転がって、反対側へ逃げ落ちる。剣の刺客がベッドの上に飛び乗る。コンスタンツェが這い(つくば)りながらも、ヘッドボード脇の剣架けに立て掛けてあった、(おの)が剣に手を伸ばそうとした矢庭。


不詳の刺客の方が早かった。


背後に立った刺客が左手に剣を掴み直すと、コンスタンツェの首を後ろから、あっと言う間に片羽絞めにした。


「あんたには、此奴(こいつ)で死んでもらうよ」


首を絞める刺客の右手には、調理用のフォノンメーザー・ナイフ(電磁小刀)が握られていた。しかもリカッソ(刃身根元)には、チェンテナリオ家のクレスト(紋章)である、ファイアバード(火の鳥)が刻まれていた。


「貴様・・・何故・・・チェンテナリ・・・由縁の・・・器物・・・を──」


喉元を絞め上げられ、コンスタンツェが息も絶え絶えに声を漏らす。


「そうさね」


そう声を掛けてから、女刺客は絞め上げる両腕に力を込めた。


片羽絞め──刺客の左腕が、後ろからコンスタンツェの左腕の付け根を抱えるように回り、刺客の左前腕はさらにコンスタンツェの後頭部に回って、コンスタンツェの首を前へ押し出すように固める。もう一方のナイフを握った刺客の右手が、コンスタンツェの首の前に回って、着ているバスローブのネックライン(襟刳り)を掴み寄せて頚を絞めに掛かる。


自由を奪われて固められた左腕を天に突き上げる格好で、頚を締め上げられるコンスタンツェが呻きを上げた。


「死に際に、(おの)が死の理由(わけ)を知りたいよね・・・?」


コンスタンツェの頭の上で、くくっとくぐもった(わら)いが漏れる。


「──簡単さ」刺客は(くび)り殺さんばかりに、コンスタンツェの細い首を絞り上げた。「初夜の夜を無理強いさせられ、その身を汚されることを善しとしない高邁な姫君は、国王の命を奪って自らもその命を果てさせる、と言う筋書きだからさ」


「陳腐な・・・無理心中の・・・筋書き・・・貴様・・・王妃ヒポリアの・・・い・・・や・・・デスデ・・・モーナ・・・の・・・手の者・・・だな・・・!」


コンスタンツェが如何にも苦しそうに、(あらが)いの声を上げる。


此処で気を失えば、喉元を掻き切られ、血塗(まみ)れのナイフを握らされて、刺客が描く、陳腐な自害の偽装の出来上がりだ。何せ国王はコンスタンツェの(ねや)で殺されて、一緒に死んでいるのだ。一目瞭然の状況では深い捜査も行われず、短絡的に無理心中と見なされても仕方がない。


「ご明察」コンスタンツェを落とそうと、刺客が最後の力を込める。「見事看破された、美しき姫君にはご褒美に──」


本来なら、この片羽絞めを逃れる術はなかった。だが刺客は1つミスをした。


それは、長いフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を、刺客が手放さなかった事だ。コンスタンツェの左腕を固め、後ろ首を押さえ込んでいる刺客の左手には、逆手(さかて)に握られている、スキャバード(鞘)に収まったフォノンメーザー・ソード(電磁剣)の先が、コンスタンツェの頭の右横から右肩の前に突き出ていた。


コンスタンツェが咄嗟に自由になる右手を回し、突き出している刺客のフォノンメーザー・ソード(電磁剣)の納まるスキャバード(鞘)端を抱え込む。不意に前へ引き摺り込まれる格好で、刺客の体勢が崩れた刹那。コンスタンツェが間髪入れず、ぐいっと首を反らせ、自身の上半身ごと後ろへと()け反った。


「──小癪なタビーキャット(匹婦)が・・・ッ!」


コンスタンツェの怒鳴り声に重なるように、刺客が反応したが遅かった。


床運動の後転宜しく、背から伸し掛かるような格好のコンスタンツェが、刺客をそのまま後ろの床へと押し倒した。


「破瓜以外の血で、乙女子(おとめご)(ねや)を汚しおって・・・ッ!」


バスローブの裾を割って裸の下半身が丸出しなったコンスタンツェが、背の下にした刺客の顎先に右肘を叩き込む。続けて小さいながらも張りのある裸尻で、刺客の顔面を踏み付ける。床に()し付けられ()を上げる刺客に、コンスタンツェがそのまま前方へと身を跳ね起こす。くるりと1回前転したコンスタンツェが再び、剣架けの剣に手を伸ばす。


だが身軽な刺客は早かった。跳ね起きた刺客が半身を起こしながら、スキャバード(鞘)に収まったままのフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を振り被っていた。


「──全く、往生際の悪い姫君・・・ッ!」


コンスタンツェは剣を手にするのを諦め、咄嗟に横へ転がる。そのコンスタンツェの直ぐ上を、ぶん、と唸りを上げる剣が(かす)めた。


「とは言うものの、この大剣では、お命頂く訳には行きませんので・・・!」


猫のようにすっくと身を起こしたコンスタンツェだったが、またもや刺客の動きの方が早かった。起き上がりざま、コンスタンツェは強烈な蹴りを食らった。背中から床に叩き付けられたコンスタンツェが、大の字に倒れ込む。


「コンスタンツェ姫、処女のまま潔く、自害をして下さいな」


すかさず刺客が、コンスタンツェの右腕を踏み付ける。バスローブが腰まで捲り上がって桜色の(しな)やかな内腿も(あらわ)になった、コンスタンツェの腹の上に片膝突くと、先程振り回したチェンテナリオのクレスト(紋章)が入ったフォノンメーザー・ナイフ(電磁小刀)のスイッチを入れる。と同時に微かに立った、低出力のコヒーレント振動の不快な稼動音が、コンスタンツェの耳を(くすぐ)る。


これまでか──喉元を掻き切られる、とウィステリア・シルバー(藤銀色)の髪を乱した姫が、刺客を睨み上げた刹那。


横のベッドから、大きな影が飛び出して来た。


それに気付いたのは、刺客も同様だった。


刺客が咄嗟に跳び退くのと同時に、それを薙ぎ払うように斬撃が真一文字に一閃する。


「──小賢しい真似を、ミランダ・オーベロン・・・!」


床に倒れ込むコンスタンツェを庇うように、女刺客の前に1つの人影が立ち塞がる。


「おやおやこれは、変態好色情欲魔メルヒオールの飼い犬、ステフ・スナウト」


(くだん)のキュラソ人刺客は動じる様子もなく、対峙する新たな侵入者を嘲笑(あざわら)うかのように、苔色の瞳で冷たく見返して来ていた。


刺客は確かにキュラソ人系だったが、テラン(地球人)とのミセジェネイション(異系混交)であるファラとは違い、肌は深みのある樺茶(かばちゃ)色で、髪と同じ蒸栗(むしぐり)色の産毛が顎周りを覆っている。その上、身長はと言えば、決して低くはないコンスタンツェより10センチ近くは高い。


さらに飛び込んで来た新手はそれより高く、190センチ以上はある。厳つい背中ではないが大きな後ろ姿に、長い山鳩(やまばと)色の髪を束ねている。一瞬垣間見えた身形(みなり)は、ボルドー色のスーツをスチュワード(執事)のように着こなしていて、軽やかな黒のジュストコール・コートの下にはフォノンメーザー・ソード(電磁剣)を()びていた。


メルヒオール臣下のステフ・スナウトであれば、コンスタンツェも2、3度は顔を見た覚えがある。確か国王主催の剣闘試合で、ガートが1度手合わせした事がある相手だ。


そして次に飛び込んで来た声が──。


「姫さまッ! 姫さま! 姫さまッ!」


聞き慣れた怒鳴り声が、コンスタンツェの耳に届く。


声の主は言わずと知れた、そのガート、コンスタンツェがこの世で最も信頼を寄せるガートルード・スカイラ・マジェスタ、その者の声だった。





★Prologue 処女を捧ぐ夜・3/次Prologue 処女を捧ぐ夜・4

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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