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Act.2 コンスタンツェ・1

その事故は、グラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)からのスナップダウン直後に起こった。


ボボナワット一味が遁走のために投げ込んだフラッシュ・バン(閃光音響弾)に対し、マデルークのリムガード(宙域保安局)分隊はスモーク・グレネード(発煙弾)を撃ち込んで対抗した。強烈な閃光と耳を聾する破裂音、それに幅10メートルあるとは言え、積載貨物保守用のグレーチング・トレッド(格子状踏床通廊)に、瞬く間に立ち篭める赤いスモーク・スクリーン(煙幕)で、第2カーゴ(貨物庫)前は大混乱に陥った。


1メートル先も見通せなくなったトレッド(通廊)で、リムガード(宙域保安局)たちが自らが招いた愚策で立ち往生する隙に、ボナワットたちはブリッジ(船橋)へ駆け込んだ。


其所(そこ)へ船内管理システムの無慈悲な警告が、全船内を駆け巡る。


アコモディション・デッキ(乗居区画)のバルクヘッド(隔壁)を閉鎖、当該デッキ(区画)からの避難を勧告──このままでは閉じ込められる(おそれ)があると判断したリムガード(宙域保安局)の指揮官が、止むなく撤退を指示した。負傷して足を引き摺る2人の僚友を支え、18人の2分隊が(くびす)を返し、侵入して来たスターボード・サイド(右舷)側のエアロック(気密隔室)へ逃げ込んだ矢庭。


当初ボナワット一味が待ち伏せしていた、反対側の左舷エアロック(気密隔室)に繋がるエクイップメント・ロッカー(装備保管庫)の扉が、突如開いた。


と同時に、トレッド(通廊)に(たお)れていたボナワット一味の3人の(からだ)が浮き上がり、船内(なか)の空気が勢い良く流れ始める。エクイップメント・ロッカー(装備保管庫)の奥、エアロック(気密隔室)のハッチ(外扉)も全開されていた。


接舷していたメイティング・ブリッジ(密接乗船廊橋)側のハッチ(外扉)を、リムガード(宙域保安局)が慌てて閉じる向こうで、漂い篭っていた赤いスモーク(煙幕)が、一斉に左舷側エアロック(気密隔室)へと流れ込む。浮き上がった3体の遺骸も、吸い出されるように苦もなく流されて行く。


辛くもブリッジ(船橋)へ逃げ込んだボナワットたちの仕業だった。


ボナワットたちは、入り込んで来たリムガード(宙域保安局)を一掃するため、エアプルーフ・ペイロード・デッキ(気密積載区画)の人工重力を切り、左舷側のエアロック(気密隔室)を開放したのだ。


遁走を図ったボナワットの行動は、それで終わりではなかった。


間髪入れず、タム・オ・シャンタの内洋航行用フェルミオン・エンジンを稼動させ、転針しながら現宙域からの離脱に掛かった。タム・オ・シャンタの800メートルの船体が、バーニア(姿勢制御推力器)を噴かして向きを変え始める。それに、接舷していたメイティング・ブリッジ(密接乗船廊橋)が捩れるように歪みだす。


蛇腹構造で伸縮式のメイティング・ブリッジ(密接乗船廊橋)は、大抵が宇宙線被曝防御だけの支柱による膜構造で、強度は皆無に等しい。しかも接舷側のフェンダー(防舷緩衝器)は、荷電粒子間力で密着している静電式なので、船体が強引に向きを変えると容易に()がれる。


接舷していたフェンダー(防舷緩衝器)が、()がれる音が立つと同時に、メイティング・ブリッジ(密接乗船廊橋)自体が捩れに耐え切れず、途中から引き千切れるように破断した。撤退したリムガード(宙域保安局)は、間一髪、母艦オーガスへ逃げ込んでいたので、宙空間に放り出されるのを免れた。


それでもバルク・キャリア(一般ばら積み貨物船)・タム・オ・シャンタは、直ぐ脇でランデブー(軌道会合)していた300メートル級テリトリアル・ディフェンサー(宙防艦)・オーガスに、その船首側のリキッド・バルク・ペイロード(化学液量貯蔵積載区画)を、(かす)めるように接触させながらも、強引に転針する。直径50メートル、長さ100メートル、1槽20万キロリットルの円柱形タンク(貯容器)が接触の際に裂け、貯槽していた二塩基酸が漏れ出す尻から氷の結晶となっ飛び散った。


接触されたオーガスは、宙空間を転がるように軽く弾かれる。


その隙を逃さなかったのが、奸賊ボナワットだった。


ボナワットは、一緒にブリッジ(船橋)に詰めていた手下3人に、超光速航行を命じた。


幸いだったのは、ボナワットが乗り込んで来た時タム・オ・シャンタは、グラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)へのスナップアップ・ポイントへのシフト(予定航路)に、慣性航行でオンレーンしていた事だった。当然、スナップダウン先であるウェスデン宙域辺縁の座標は、シャヴィによって既に航行システムに入力済みだった。ボナワットたちは僅かな手間だけで、タム・オ・シャンタをグラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)のアイドル・ステータス(待機状態)にまで移行させられた。


だがマデルーク・リムガード(宙域保安局)のディフェンサー(宙防艦)・オーガスは、フレーター(貨物船)・タム・オ・シャンタの、その挙動を(いち)早く察知した。


グラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)は、グラヴィトン・パータベーション(重力子摂動)を利用するため、主機を稼動してから実際にスナップアップするまでに、周囲の重力場が変動する。なので超光速航行への予兆は探知しやすい。しかもスナップアップでグラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)へ移行しても、通常宙空間には重力波によるウェーキ(航跡波)を残すため、目標質量物をロック出来ていればトラッキング(追尾)が可能だ。


パータベーション・ウェーキ・トラッキング(摂動痕跡波追尾)・システムで、目標であるタム・オ・シャンタをロックしたリムガード(宙域保安局)のオーガスは、タム・オ・シャンタがスナップアップした直後、タム・オ・シャンタのラスト・ネーション(最終目的地)を確認しないまま、直ぐさまトラッキング(摂動痕跡波追尾)しながら自艦も超光速航行へとスナップアップさせた。太陽系マデルークから太陽系ウェスデンまで約120光年、1度のスプラッシュ・ドライブ(跳撥航行)で、艦内時間だと5分程の距離だ。


そして事故は、オーガスがスナップダウンした直後に発生した。


後追いでスナップダウンして来たオーガスのバウ(艦首)が、タム・オ・シャンタのフェルミオン対消滅推進エンジン部に激突した。


スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)独特のアクシデントだった。


摂動状態で超光速航行中の艦体は、スカラー的ベクトル空間結合を起こし易い。平たく言えば、近傍空間からほぼ同時に近似のベクトルでスナップアップすると、スナップダウンの際に衝突し易い。特に保持されているパータベーション・フィールド(摂動場)の大きさに差がある場合、小さい方が大きな方へと吸い寄せられる効果が生じる。


この場合は、トラッキング(摂動痕跡波追尾)で(あと)からスナップアップしたオーガスが、先行のタム・オ・シャンタと同座標にスナップダウンした事が災いした。パータベーション・フィールド(摂動場)の大きいタム・オ・シャンタに、オーガスが引き寄せられる格好で突っ込んでしまったのだ。


バウ(艦首)から突っ込んだディフェンサー(宙防艦)・オーガスは、船体前部を大きく破損し、タム・オ・シャンタは追突された運動エネルギーによって、あらぬ方角に弾き飛ばされた。可爆物を利用している推進主機ではないので爆発などは起こさないが、タム・オ・シャンタの内洋航行主機は、見るも無残に(ひしゃ)げ損壊した。


ディフェンサー(宙防艦)・オーガスにも、それ以上に行動する余裕が無くなった。バウ(艦首)に開いた大穴に被害も甚大で、自艦の安全確保が最優先だったからだ。ところが、そうは問屋が卸さなかったのは、ボナワットたちの機艦アルベド039(オースリーナイン)だった。グラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)で遁走を図ったボナワットたちをピックアップ(回収)するため、タム・オ・シャンタを追って同宙域にスナップダウンして来たのだ。


姿を現した機艦アルベド039(オースリーナイン)は、タム・オ・シャンタからランチ(備載艇)で離船するボナワットたちを援護するため、中破しているオーガスに対して、いきなり艦砲砲撃を加えて来た。オーガスはグラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)のリノーマライズド・パータベーション・フィールド(繰り込み摂動場)発生装置にプラズマ・ブラスターを被弾したものの、矢張りドライブ(操艦)技術ではリムガード(宙域保安局)の方が一枚上手だった。


ボナワットたちのランチ(備載艇)を接舷させようとした隙を突き、放った反撃のプラズマ砲をアルベド039(オースリーナイン)に直撃させた。さすがは準軍隊の300メートル級ディフェンサー(宙防艦)の主砲で、イェーグ(星賊)もどきの150メートル級機艦が艤装する主砲とは破壊力が桁違いで比べ物にならない。


機艦アルベド039(オースリーナイン)は、ボナワットたちが乗るランチ(備載艇)の目の前で、真っ二つに裂けて轟沈した。



  * * *



“何があったんだ──”


廃船鉄屑一歩手前のタム・オ・シャンタの有り様に、シャヴィが茫然とする。


第2カーゴ(貨物庫)に閉じ込められていたシャヴィに、事情を察する(よし)もない。ただ何か、巨大な質量物が()つかったのだけは判った。


あれだけの衝撃を受けたのだ。唯では済まないとは思っていた。


“──しかし、ここまで酷いとは・・・”


これはもう、単なる事故では無い。それに周囲には、マデルークのディフェンサー(宙防艦)の気配を感じない。だが当局が、簡単に諦めるとも思えない。唯一はっきりしているのは、確かにグラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)でスナップアップした事だけだ。


“──とすれば、此処はマデルーク領宙内ではない、かもな・・・”


困惑頻(しき)りの心中に僅かに巣食い始めた、今までに感じた事の無い絶望感を感じ取りながらも、船橋楼の方へマニューバ・ユニット(宙空間作業用推進器)を噴かせた。


タム・オ・シャンタのブリッジ(船橋)は、第2カーゴ(貨物庫)のあるエアプルーフ・ペイロード(気密積載区画)の上層、アコモディション・デッキ(乗居区画)の最船首寄りに位置する。そのアコモディション(乗居区画)の後方、最後端のランチ・デッキ(備載艇甲板)との間の上側に、アコモディション(乗居区画)専用のエアロック(気密隔室)がある。


上へ回り込むように、小さくマニューバ・ユニット(宙空間作業用推進器)を一噴かしさせると、テザー(命綱)が一杯にピンと張り詰めた。シャヴィは腰に掛かっていたテザー(命綱)のカナビラ鐶を外し、エアプルーフ・ペイロード(気密積載区画)の上を、作業用フットバー(補助足掛け)を掴みながら、慎重に伝わって行く。エアプルーフ・ペイロード(気密積載区画)の外側には、ステベドアリング(荷役)用のタグトラクタ(空間曳機艇)やパワード・グラップルがビンディング(固縛)してある。


アコモディション(乗居区画)上部に設けられた、エアロック(気密隔室)のハッチ(外扉)にへばり付くと、インストルメント・ボード(制御計器盤)に非常用解錠コードを打ち込む。暫くの間があって、ボード(制御計器盤)に解錠のランプが点ると、シャヴィはハッチ(外扉)を開いた。


いきなり飛び込まず、ハッチ(外扉)陰に身を潜め、船内(なか)の気配に気を澄ます。


何も起こらない事に納得すると、そろりと身を翻してエアロック(気密隔室)へ入った。ハッチ(外扉)を閉めると、船内側へのバルクヘッド・パス(隔壁通口)に取り付く。この下がアコモディション(乗居区画)側のエクイップメント・ロッカー(装備保管庫)で、其所(そこ)から船尾側に繋がっているのがランチ・デッキ(備載艇甲板)だ。




★Act.2 コンスタンツェ・1/次Act.2 コンスタンツェ・2

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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