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Act.1 密輸したは良いけれど・5

先を行くシャヴィが元来た道順を逆に、カーゴ(貨物庫)に挟まれたグレーチング・スキャフォルド・トレッド(格子状床通廊)の十字路を右に折れる。コツコツを靴音だけが響く、右舷側第1カーゴ(貨物庫)と第2カーゴ(貨物庫)の間を、先のエアプルーフ・ラッタル(気密階段)へと足を向ける。脇には乗用リフトもあるが、人数が多いので一時には乗り切れない。


シャヴィが第2カーゴ(貨物庫)の庫口前に差し掛かり、乗り込んで来た分隊の最後尾の保安局員が、十字路の角を右に折れた矢庭だった。


いきなりポート・サイド(左舷)のエアロック(気密隔室)が開き、銃を構えたボナワットの部下3人が姿を見せた。それはシャヴィが見越していた通りだった。


ばらばらと湧き出て来た剣呑な雰囲気に、最後尾の一等兵員が慌てて身構えたが遅かった。嵐のようなレーザー銃弾が若い一兵卒へ問答無用に叩き込まれる。ぐへっと上がった醜い悲鳴に、先を行っていた分隊連中が咄嗟に振り返る。奇襲を食らって呆気なく絶命した徒輩の名を叫びながら、8人のリムガード(宙域保安局)が駆け戻る。


十字路の角壁に身を寄せ、分隊の連中が銃を構え上げた一弾指(いちだんし)


今度は第2カーゴ(貨物庫)の扉がいきなり開いた。


「──()っちまえ・・・ッ!」


怒声と共に先陣切って踊り出て来たボナワットが、容赦なくレイガン(光線拳銃)をぶっ放す。予想していたとは言え、思わず立ち尽くしていたシャヴィの直ぐ脇を、残りの3人が飛び出して来た。


今度は背後を不意打ちされて、リムガード(宙域保安局)の3人が悲鳴を上げて(たお)れる。残った5人の保安局員は、形振り構わず手近な荷載保守機材の陰に飛び込む。全員が相当な数発食らって、2人ほどが足を引き摺っていた。第2カーゴ(貨物庫)から飛び出して来たボナワットたち連も、荷載保守機材を掩体に容赦ない銃撃を浴びせ掛ける。それに応じるように、リムガード(宙域保安局)の連中も掩体機材の陰から半身を出しては、反撃のレーザー・カービン銃を撃ち返す。


「うひょッ・・・!」


いきなり始まった銃撃戦に、これは堪らんとばかりに、シャヴィも慌てて手近なドリー(荷載台車)の陰に飛び込む。勿論、忠実なクーガも跳躍一つシャヴィの背中を追った。飛び交う不可視のレーザー火線が、其処彼処(そこかしこ)に着弾しては、焦げた弾痕を残して微かな白煙が巻き泳ぐ。


「おいおいおいッ! いきなり“マグニフィセント(荒野の七銃士)”かよ!」


這う這うの体で逃げ込んだシャヴィが、大きな息を吐き出してクーガを見遣る。


「──こっちは丸腰の一般人だって言うのに・・・!」


1秒間に数十射するレーザーのエネルギー弾は、被弾するとパルス効果で筋肉が痺れて激しい痛みを覚え、火線が走った痕が黒く焼け(ただ)れる。出血が少なくストッピング・パワーが小さいため、動態被弾で致命傷になり難いとは言え、集中被弾すると流石にショック症状にも似た機能障害を起こして落命する。


威勢よく乗り込んで来たリムガード(宙域保安局)だったが、単純なボナワットの奸計に嵌まり、あっと言う間も無く二進(にっち)三進(さっち)も行かなくなった。左舷エアロック(気密隔室)から出て来た3人が、足早に十字路壁際に攻め寄って、挟撃の銃嵐を浴びせ掛ける。すっかり前後を固められたリムガード(宙域保安局)の査察隊に、ボナワットがせせら笑うように投降を呼び掛ける。


高飛車だった分隊長が、冷静な判断の元に止むなく投降を決断。人質を盾に機艦アルベド039(オースリーナイン)を呼び寄せたボナワットは、この宙域からの遁走をまんまと成功させ、リムガード(宙域保安局)はこれ以上無い屈辱を感じる筈、だった。


ところが──。


唐突に、スターボード・サイド(右舷)のエアロック(気密隔室)内扉が開いたのだ。


勿論、新たに飛び込んで来たのは、後続のリムガード(宙域保安局)増援分隊だった。

これに慌てたのがボナワットの部下、通廊向こう左舷側のエアロック(気密隔室)から攻め寄っていた3人だった。


壁角に半身を覗かせ、機を見て銃弾を撃ち込んでいたので、右舷エアロック(気密隔室)からは丸裸も同然だった。


リムガード(宙域保安局)の分隊が、バルクヘッド・パス(隔壁通口)を飛び出すや否や左右に散る。さすがに銃器の扱いに関しては、一日の長のあるリムガード(宙域保安局)に、無駄な動きはなかった。


十字路壁際に身を寄せていたボナワットの部下3人が、振り向く暇もなく蜂の巣になる。リムガード(宙域保安局)制式銃器である軍用シュトルムカービン・レーザー銃は、ボナワット一味が()びているレイガン(光線拳銃)とは出力も被弾効果も比べ物にならない。形勢が逆転するのに、3秒と掛からなかった。

3人の奸賊が(たお)れると同時だった。


第2カーゴ(貨物庫)から背後を突いたボナワットたちが、次々とグレネード(擲弾)を投げ込んだ。後ろで見ていたシャヴィが、あっと声を上げた矢先。強烈な閃光が炸裂し、耳を聾する破裂音が辺り一面に轟きわたる。ボナワットたちが投げ入れたフラッシュ・バン(閃光音響弾)だった。リムガード(宙域保安局)の連中が(ひる)んだ隙を突き、ボナワットたち4人が咄嗟に(くびす)を返して駆け出した。


其所(そこ)へ追い討ちを掛けるように、増援で新たに突入してきたリムガード(宙域保安局)の連中が、十字路壁際からグレネード(擲弾)を2個3個と投擲(とうてき)する。


投げ入れられたグレネード(擲弾)は、リムガード(宙域保安局)先陣が身を潜める位置を越え、シャヴィの直ぐ近くにまで飛んで来ては一度軽く撥ねた。一条の赤い煙を噴き出しながら、コロコロと甲高い音を立て、グレーチング(格子状踏床)の上を転がって来るグレネード(擲弾)に、シャヴィが本能的に、ヤバい、と(くびす)を返した刹那。


シャヴィの背後で破裂音がして、スモーク・グレネード(発煙弾)から赤い煙が、爆張するように勢い良く噴出した。咄嗟に第2カーゴ(貨物庫)の扉を開くシャヴィを、あれよあれよと言う間に赤い濃密な煙が包み込む。


「クーガッ! 此方(こっち)だッ!」


顔を伏せ口を覆うシャヴィが、開き掛けた扉の隙間から、滑り込むように身を()じ入れる。赤い煙を巻き込みながら、咳き込むシャヴィが内壁のボード(操作盤)に飛び付く。と同時に艶消しに黒光りする大きな影が、跳ね飛ぶように入って来る。開き掛けていた扉が閉じ始めた矢先、赤い煙が充満するグレーチング・トレッド(格子状踏床通廊)で、ばたばたと駆け抜けていく人の気配がしたが、此方(こっち)には気付いていない様子だった。


もわもわと入り込んで来る赤いスモーク(煙幕)を、バッサリと叩き切るようにしてカーゴ(貨物庫)の扉が閉じる。催涙効果で目を潤ませながら、胸を撫で下ろしたシャヴィが床にへたり込んだ矢先、今度は全艦警報が鳴り響く。


「──おいおいおい・・・ッ?」


急転直下、次から次へと変わる状況に、シャヴィも焦りを隠せない。


警告音に交じって、船内管理システムの警告メッセージが無機質な声で流れ始める。


「船内環境に異常発生。エアプルーフ・ペイロード(気密積載区画)にて、船内環境汚染を感知。非常事態における船内環境維持のため、アコモディション・デッキ(乗居区画)のバルクヘッド(隔壁)を閉鎖します。クルー(乗船員)の当該デッキ(区画)からの速やかな避難を勧告します。繰り返します──」


“──あのスモーク・グレネード(発煙弾)だな・・・!”


余計な事をしやがって、とシャヴィ軽く唇を噛む。


この保全システムの反応は当然といえば当然だが、ナビゲーション・ロガー(航宙情報記録装置)には確実に残る。


“こりゃ絶対に、ストレート(真っ当)なオッド・パーン(半端な宇宙船乗り)じゃ、食って行けなくなるな・・・”


暗澹(あんたん)たる思いで、シャヴィが深い溜め息を吐き出した。


ボナワットの連中が形勢逆転されても、何とかマデルークのリムガード(宙域保安局)を押さえ込んで、そのままウェスデンにでも遁走出来たら、痛み分けに持ち込める。ウェスデン宙域に入ってしまえば他国領域、さすがにマデルーク当局も権限を行使出来ない。しかもタム・オ・シャンタ自体は、ウェスデン宙域内では違法行為をしている訳ではないので、ウェスデン当局から見咎められる(いわ)れは無い。


マデルークのリムガード(宙域保安局)の連中は、ウェスデン領宙内の適当な宙域でランチ(装載艇)にでも乗せて放り出せば、救難信号でウェスデンのリムガード(宙域保安局)が駆け付けてくれる。後は違法入国者として、外交ルートで無事本国に帰還できる。


ところが、この大騒ぎだ。


あの情勢では、ボナワット一味がリムガード(宙域保安局)に制圧されるのは時間の問題で、この貨物船タム・オ・シャンタはマデルーク宙域を離脱できず、そのままマデルーク当局に差し押さえられるのは確実だ。


「──矢っ張り開かないか・・・」


壁際のコンソール・ボード(操作盤)に指を走らせたが、カーゴ・ルーム(貨物庫)の扉は開く気配がない。試しに幾つか他の操作もしてみたが、全く受け付けない。


恐らくは異状を感知したシステムが、船内環境の現状維持を最優先しているのだろう、船内に汚染を広げるような環境変化をシステム側で全てロックしてしまっている。


「ま、此処は、(ほとぼ)りが冷めるまで、(しばら)く待つ方が得策か・・・」


一時と離れない傍らに座るクーガを見遣って、シャヴィが小さく肩を(すぼ)める。


何にしろ、外では結構派手な銃撃の応酬を演じていた。下手に飛び出して巻き添えを食うのも馬鹿らしい。


“それよりも、先ず頭を巡らせて置かないと不味(まず)いのは、マデルークのリムガード(宙域保安局)への、ボナワット一味が乗り込んでいた言い訳だ──”


マデルーク当局とボナワット一味は、船内(なか)で実際に銃火を交えたのだ。当局がこの御襤褸(おんぼろ)フレーター(貨物船)、タム・オ・シャンタを放って置く筈がない。そのうち増援の艦船も派遣されて、逃げ場もなくランデブー(軌道会合)されるか強制併航された揚げ句、事情聴取されるのは避けられない。


“──密輸を持ち掛けられた・・・若しくは、脅された、と言う線で行くか・・・”


その(つい)でに、奴らが欲していたのが、タンタライト原石だ、とそれとなく情報を漏らしてやって、弁明に信憑性を持たせながら見返りに見逃してもらう──苦しい釈明に知恵を絞りながら、船倉のど真ん中にぽつんと鎮座する、開けっ放しになっているコンテナ(規格貨物容庫)へ首を巡らせた。




★Act.1 密輸したは良いけれど・5/次Act.1 密輸したは良いけれど・6

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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