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Act.1 密輸したは良いけれど・1

人気(ひとけ)の無い宇宙船のカーゴ・ルーム(貨物室)に、薄暗い照明が灯った。


たった今開いた両開きのスライド・ドア口から、何やら胡散臭い連中がぞろぞろと入り込んで来た。


先頭に立つテラン(地球人)の男性(おとこ)は、歳の頃なら20になるかならないか。頭の天辺近くで無造作に纏めた(うぐいす)色の後ろ髪が、まるで(ライオン)(たてがみ)のようだ。精悍な表情を浮かべ、樺茶(かばちゃ)色の瞳をした顔付きには、どこか幼さを残している。


メタリックなダークブルーにオレンジのパイピング(飾り縫縁)が施された、シングル・ブレストで立て襟のショート・ジャケットに、マニッシュ・ブラックのボンディージ風カーゴ・パンツを着込み、煤色と白鼠のタイガー・ストライプ迷彩のホールターネック・シャツの上からでも、剛健そうな185センチの体躯がはっきり分かる。バックルが大きいストラップ巻きの、丈夫そうなタンカー・ブーツを履く足取りも、どこか雄々しい。


(あと)に続く7人の族輩(やから)は、目付きも悪いバド人にザラブ人、ワイアール人で、一様に不揃いの、しかも使い古したアウトフィッツ(出で立ち)が、如何にも破落戸(ごろつき)のジャック・アフロート(現役宇宙艦乗り)っぽい。何奴(どいつ)此奴(こいつ)も、これ見よがしの厳ついレイガン(光線銃)をぶら下げているので、剣呑な雰囲気すら漂っていた。


幅50メートル、奥行き35メートル、アイスホッケー・リンク程の広さがある第2カーゴ(貨物庫)には、フレート(積荷)が1つだけだった。庫内中央に、でんと置かれたコンテナ(規格貨物容庫)は長さ12.5メートル、幅5メートル、幾つか種類のあるインターモーダル・コンテナ(国際輸送規格貨物容庫)で最も小さいサイズの、エアプルーフ・コンテナ(気密式規格貨物容庫)だ。


テラン(地球人)の若者が、庫内唯一のフレート(積荷)の元へ小走りに駆け寄ると、コンテナ(規格貨物容庫)の角にあるコンソール・ボード(操作盤)に手を伸ばし、慣れた手付きで解錠コードを打ち込む。コンテナ(規格貨物容庫)が積載されているカーゴ・ルーム(貨物室)は、800メートル級のバルク・キャリア(一般ばら積み貨物船)、タム・オ・シャンタが備える、標準大気構成に標準重力が維持されたエアプルーフ(気密構造)型のペイロード(積載区画)になる。


(しばら)く待ったが、コンテナ(規格貨物容庫)はウンともスンとも言わない。


「あれ・・・?」


テラン(地球人)の若者、シャヴィ・ストラトスが素っ頓狂な声を上げた。


少しばかり慌てたシャヴィがボード(操作盤)をもう一度叩いたが、目の前に横たわる、傷だらけの使い古されたコンテナ(規格貨物容庫)は扉を開かなかった。


「何でェ? どうかしたか?」


耳障りで下品なルパス・ガラクト(狼座域標準語)の土間声が、シャヴィのすぐ背後から聞こえた。


シャヴィが横目に振り返ると、見上げる程のバド人の巨漢が仁王立ちしていた。


バド人は首頭頂中央部が凹んでいて、正面から見るとハート型をしている頭蓋骨が大きな特徴で、男性(おとこ)は頭髪が谷底部と後頭部に生える。耳介上部が尖っていて、肌の色は桜色から赤、赤紫が多い。


その2メートルを優に超える胸板も厚いバド人は、草臥(くたび)れたオリーブ・グリーンのカットソー・シャツの上に(すす)けて小汚い銀のウエアリング(装着衣)を着込んでいて、腰にぶら下げているレイガン(光線拳銃)が玩具のように見えた。


何時(いつ)の間にやらシャヴィの背後を、7人の族輩(やから)が囲むようにして立っていた。これだけ胡散臭い連中が一同に集うと、息苦しい上に見苦しい。


「──クーガ・・・!」


前髪の掛かる額を軽く掻きながら、シャヴィが振り返る。


ワォン、と低い唸り声がして、1体のヴェルテブロイド(動物型義工器械)が族輩(やから)連中の中から飛び出した。それは四つ脚の獣で、確かに大型の“犬獣”だった。


クーガと呼ばれた人造犬が、小気味よいトロット(速足)で駆け寄って来た。


深く黒光りする体躯は大型肉食獣の(ライオン)並で、肩までの体高が100センチ近くもあり、太い頚から突き出す鼻梁の長い頭部は、シャヴィの胸下にまで届く程だ。勿論、外皮は体毛に被われた生身ではなく、曲面を描くシリコン・カーバイド・ファイバー(炭化珪素繊維)製の外骨格のような外殻を纏っている。


脚先が靴下を履いたように銀色をした四肢を繰り、クーガはシャヴィの脇に立つと、自らのハンドラー(命令権者)を見上げた。


「よーし、クーガ、此奴(こいつ)のロックを()じ開けてくれ」


シャヴィは銀色の鼻筋をしたクーガの頭を一撫でし、後ろ首筋にあるカバーを開く。


ヴェルテブロイド(動物型義工器械)であるクーガは数種の人語を聞き分けられ、学習によってハンドラー(命令権者)の表情と仕草、口調を読み取れるため、割とアバウトな指示でも実行できる。更には補助的な機能として、ハンドラー(命令権者)が端末を装着しておけば、ハンドラー(命令権者)のバイタル(生体活動状態)を四六時中モニターできるシステムを備えている。


「犬っころの力を借りねェと、開けられないのかよ? 大した(おつむ)だな、お前ェの(おつむ)は」


再び土間声が、シャヴィの頭の上から浴びせられた。


「振ればカラカラ鳴るような、あんたの頭と一緒にするなよ、ボナワット」


シャヴィがクーガから、ミューチュアル・マネージメント・リンク(相互管理連携)用の端末コードを引っ張り出す。


ミューチュアル・マネージメント・リンク(相互管理連携)は、異なるオペレーティング・システムで稼働しているディジタイジンング・プロセッサ・システムを双方向に連絡させるために開発されたインターフェイスだ。


薄さ1ミリ、直径15ミリの円形をしたコードの先端を、頑なに扉を閉ざすコンテナの角にあるボード(操作盤)のオペレーティング・インターフェイスのラバリィ・ポリマー(高弾性重合素材)の蓋を開け、端末を貼り付けるように接触させてから、再び蓋を押し付け閉じる。


クーガには主幹システム制御とは別系統のバッファ・オプション・システムに、ハッキング・システムをインストール(導入)してある。勿論違法なプログラムで、複雑な認証システムや生体認証は無理だが、簡単なシステム・セキュリティなら突破が可能だ。


「ヒャヒャヒャヒャ、良く出来た(おつむ)なら、お前ェもオッド・パーン(半端な宇宙船乗り)なんぞやって無ェって・・・!」


下品なべらんめえ口調に奇っ怪な哄笑で、巨漢のボナワットが腹を揺する。どうやらボナワットは、シャヴィが解錠コードを度忘れした、と思い込んだらしい。


“だが実際の話、打ち込んだ解錠コードは間違ってはいない──”


何故開かないのか、シャヴィにも分らない。


インターエージェント(受け渡し仲介者)から聞いたコードを、間違う筈は無いのだ。何せ中身は、非合法輸送のタンタライト原石のサンプル1トンだ。


手っ取り早く言えば密輸品であり、それこそオッド・パーン(半端な宇宙船乗り)のシャヴィも承知で、先の寄港地であるマデルーク太陽系から、ウェスデン向けの他の積載荷物に紛れ込ませて持ち出すように誘われたジオッバ(仕事)だった。




タンタル核異性体を多く含むタンタライト鉱物は、超光速航行機関であるグラヴィトン・パータベーション・スプラッシュ・ドライブ(重力子摂動跳撥航行)システムの製造には欠かせない。中でも808五酸化タンタルの核異性体は、リノーマライズド・パータベーション・フィールド(繰り込み摂動場)の起動誘因素材であるトポロジカル対称性可遷移相体が製造できる唯一の、非常に貴重な天然資源だ。


マデルーク第5惑星の周回衛星から産出される、808五酸化タンタル核異性体含有のタンタライト鉱石は特に良質で、その採掘から精製、流通まで、戦略資源として国家から厳しい規制が掛けられている。




シャヴィにとってこの違法に持ち出した荷の届け先は、目の前で徒党を組んでいるボナワットを筆頭にした山師連中、すなわち鉱石ブローカーだが、ボナワット自身もその先への仲介を担っているだけで、このタンタライト原石のサンプルを本当に欲しているクライアント(発注元)など、シャヴィが知る(よし)もない。


コンテナ(規格貨物容庫)の解錠コードも、内容物確認の際に受け手側が開梱するために(あらかじ)め聞いていたものだが、何故開かないのかシャヴィにも分らない。


だが馬鹿正直に打ち明けて、段取りの不味(まず)さを印象づける必要もない。ボナワットの奴らに足元を見られ、受け取る報酬を値切られるなんて真っ平御免だった。


不意にクーガが、クゥンと鼻声を上げる。


クーガが、何かに気付いたかのようにシャヴィを見上げていた。勿論、硬質ファイバー素材のヴェルテブロイド(動物型義工器械)に、表情が浮ぶ筈もない。


シャヴィが少しばかり訝しがったものの、何でも良いから開けちまえ、と大仰に顎をしゃくってクーガを急かした。


インストルメント・ボード(制御計器盤)にある一際大きなランプが、アンロック(解錠)を示す緑に変わった。クーガが解錠に成功したのだ。


長さ12.5メートルのコンテナ(規格貨物容庫)が、唸りを上げ始める。


「待たせたな、ボナワットの旦那──」


クーガから引き出していたミューチュアル・マネージメント・リンク(相互管理連携)用の端末コードを仕舞いながら、シャヴィ取り巻き連中を振り返った。


「お宝を確認してくれ」


グン、と音がしコンテナ(規格貨物容庫)の側面全体が、くの字に折れ曲がりながら静かに跳ね上がる。

実際の積み荷はタンタライト原石サンプル1トンが、保護ケース4箱に収まっている筈、だった。


ところが──。


目の前のコンテナ(規格貨物容庫)で運ばれて来たのは、本当の荷物とは似ても似つかない、アンビュランス・ポッド(可搬救急対処台機)だった。


アンビュランス・ポッド(可搬救急対処台機)は、長さ3メートル、幅1.5メートル程のエアプルーフ・カプセル(気密式完全収容)型の傷病人搬送器だ。自動医療マシンではないので、止血、注射、服用などの実際の処置は人力が行う必要があるが、酸素供給マスクを始め数種の処置機器を収納してある。付属のセンサーを繋げる事で収容者のバイタル(生体活動状態)を常時モニターし、必要な対処方法を指示して来る。小型の核融合電磁励起エンジンを搭載しいるので外部からの動力供給が不要な単独運用が可能で、底部にパワー・アシストのキャスターを備えており、付属のグリップハンドル(握り把手)による操縦で自走移動させられるが、重量は300キロになる。


コンテナ(規格貨物容庫)の中央にぽつんと置かれたポッド(可搬救急対処台機)は、まるで何があっても1ミリたりとも動かないように、8本のタイダウン・ブライダル(機材固縛鋼索)と3本のビンディング・ストラップ(機材固縛帯)で、コンテナ(規格貨物容庫)内の床にがっちりと縛り付けられていた。




★Act.1 密輸したは良いけれど・1/次Act.1 密輸したは良いけれど・2

 written by サザン 初人(ういど) plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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