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100回死んで地獄を制覇したら、異世界がヌルゲーになっていた  作者: 新米オッさん兵士


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第15話:残り88回、一気に制覇する

別荘の朝、リリアが俺の胸に寄りかかりながら小さな声で言った。

「今日は……一気にやるの?」

俺は彼女のお腹を優しく撫でながら頷いた。

「うん。もうほぼ無敵だから、残り88回をまとめて終わらせる。

今日で八寒地獄全層を制覇して、閻魔の奴を解放してやるよ。」

リリアが少し不安げに俺を見上げる。

「無理しないでね……。

この子も、お父さんが無事に戻ってくるのを待ってるよ。」

俺は彼女の唇に軽くキスをして微笑んだ。

「心配すんな。もう地獄なんて、ただの散歩だ。」

【地獄の呼鈴】を起動。

鈴の音が響き、俺は一気に地獄の深層へと飛び込んだ。

八寒地獄の残り層が、次々と俺の前に広がった。

第四層「阿鼻寒地獄」。

無間地獄の寒さバージョン。

体が永遠に凍りつき、砕け、再生を繰り返す。

かつてなら魂が削られるような苦痛だったが、今の俺にはただの冷たい風にしか感じない。

俺は立ったまま、目を閉じて耐え続けた。

数時間……いや、数日分に相当する時間を一瞬で消化。

【任意14回目完了】

第五層「黒風寒地獄」。

凍てつく黒い暴風が体を切り裂き、魂を削る。

俺はただ腕を組んで立っているだけで、風が俺の周りで無力に渦を巻く。

「もう、こんなもんか。」

【任意25回目完了】

第六層「極寒剣山地獄」。

地面から無数の氷の剣が突き出し、体を刺し貫く。

かつてなら一刺しで絶叫していたはずだが、今は剣が俺の体に触れた瞬間、粉々に砕け散る。

俺はゆっくり歩きながら、ただ層を突破した。

【任意40回目完了】

第七層「大寒叫喚地獄」。

凍てつく叫び声が魂を直接攻撃する。

耳をつんざく絶叫と、極寒の業火のような冷たさが同時に襲ってくる。

俺は小さく笑った。

「地獄の針山や業火に比べりゃ、子守唄だな。」

【任意60回目完了】

最後の第八層「無間寒地獄」。

ここは文字通り「」のない苦痛の極致。

体が無限に凍りつき、粉砕され、再生し、再び凍る。

存在そのものが消滅しそうな感覚。

でも、俺はもう無敵だった。

寒さも痛みも、ただの背景に過ぎない。

俺は静かに立ったまま、全てを受け止め、耐えきった。

【任意88回目完了】

【八寒地獄 全層制覇】

【地獄周回者 進捗:100/100(任意モード完遂)】

業ポイントが爆発的に跳ね上がり、

【全耐性統合 完全MAX】

【地獄の覇王(真解放)】スキルがステータスに刻まれた。

地獄の最深部――引き継ぎの間。

真っ白な空間に、玉座に座った閻魔様が待っていた。

その顔には、長い疲労と、安堵の色が混じっていた。

「お前……本当に、一気にやってのけたか。」

閻魔様の声が少し震えていた。

俺はゆっくりと歩み寄り、玉座の前で立ち止まった。

「約束通り、残り88回を全部消化した。

八寒地獄も完全に制覇したぞ。」

閻魔様は立ち上がり、俺をまっすぐに見つめた。

「佐藤太郎……お前は俺が何百年も待っていた、後継者だ。

引き継ぎの儀式を行う。

お前がこの座を受け継げば、俺は解放される。

異世界に転生し、普通の人間として生きられる。」

俺は静かに首を振った。

「座はいらねえ。

俺にはリリアと、これから生まれる子供がいる。

地獄の管理者なんて、俺の人生じゃねえよ。」

閻魔様の目が大きく見開かれた。

「……本当に、それでいいのか?」

「ああ。

でも、お前をこのまま縛り付けておくのも嫌だ。

だから、引き継ぎは拒否する。

代わりに、地獄のシステムを自動浄化モードに変えてくれ。

誰も苦しまない、ただ罪を洗い流すだけの地獄に。

お前は……もう十分働いただろ?」

閻魔様は長い間、沈黙した。

やがて、その厳つい顔に、ゆっくりと笑みが広がった。

涙が一筋、赤い頰を伝う。

「……ありがとう、佐藤。

お前は、本当に優しい男だ。

俺は……ようやく、この座から降りられる。」

空間が輝き始めた。

地獄全体が淡い光に包まれる。

業の裁きが、罰から「浄化」へと変わっていく感覚がした。

閻魔様の体がゆっくりと光の粒子に変わり始める。

「俺は異世界に転生する。

角は消え、記憶も薄れるだろうが……

お前の別荘の近くに、きっと現れる。

その時は……本当に、ビール奢ってくれよ。」

俺は笑って手を差し出した。

「約束だ。

冷えたやつを何本でも用意しとく。

お前が冴えないおっさんになったら、一緒に愚痴大会だ。」

閻魔様は最後に、穏やかな笑顔を浮かべた。

「楽しみだ……本当に、楽しみだ……」

光が爆発し、閻魔様の姿が完全に消えた。

地獄の玉座が空になり、システムが自動化されたことを告げる通知が響く。

【地獄システム 自動浄化モード移行完了】

【誰も苦しまない地獄が、新たに生まれました】

俺は静かに息を吐き、別荘への扉を開いた。

リリアが玄関で待っていた。

お腹を両手で抱き、俺を見て駆け寄ってくる。

「太郎さん……!」

俺は彼女を強く抱きしめた。

まだ少し冷えていた体が、リリアの温もりで一瞬で溶ける。

「ただいま。

全部終わったよ。

閻魔は解放された。

地獄はもう、誰も苦しまない場所になった。」

リリアの瞳に涙が浮かぶ。

「本当……?

もう、地獄に行かなくていいの?」

「ああ。

これからは、ただ家族で幸せに暮らすだけだ。」

俺はお腹に耳を当て、小さな命の動きを感じた。

「名前、決めよう。

男なら『陽』、女なら『花』……お前はどう思う?」

リリアが嬉しそうに笑う。

「素敵……。

温かくて、優しい名前だね。」

その夜、バルコニーで星空を見上げながら、俺は静かに微笑んだ。

隣の家がいつか空き、家主が引っ越してくる日を想像する。

角のない、冴えないおっさんが、ビール片手に

「よお、佐藤。一杯やろうぜ」

って笑う日が、きっと来る。

異世界は、もう完全にヌルゲー。

でも、それでいい。

俺はただ、リリアと子供と、穏やかな毎日を過ごす。

それが、俺が地獄を制覇した、本当の報酬だった。

(完)


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