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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4 混ざる世界と交わらないキミたち

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第98話 鉄板ギャグが滑るの巻

 俺たち三人はプールで遊んでいた。水を掛け合ったり、ガチで泳いでみたり。水の中では遊び方は無限大だ。だからそのうち五十嵐が変なことを言い出すのも必然だったわけだ。


「カタパルトしようよ」


「え?なにそれ?どういうこと?」


 水に浸かりながら俺とスオウは首を傾げていた。一体何がしたいのか?


「あれだよ!?わかんない!?ほら!お父さんの肩の上に立ってさ、お父さんが勢いよく立って、肩からジャンプするの!子供の時いっぱいやらなかった?」


「あーあー。なんかわかった。てかそれ俺が自動的に跳び箱がわりだよね?まあいいけど」


 俺は水の中に潜る。すぐに五十嵐の足が俺の肩の上に乗った。そして俺は勢いよく水面に向かって立ち上がる。


「私が飛ぶとこ見ててよ!とぅ!」


 五十嵐は俺の勢いをそのまま利用して思い切りジャンプした。水しぶきをまき散らしながら宙を飛ぶ姿はまるで女神のように見える。光を水しぶきが乱反射するから彼女の周りには虹のような靄さえ見えた気がした。そして彼女はそのままの体制で着水した。


「た、楽しい!私メッチャ飛んだよ!すごくない?」


「うん。なんか面白かったよ。ねぇスオウ?」


 スオウはどこか渋い顔をしていた。何かを考え込むような深刻そうな様子である。でも胸に「すおう」って書いてあるとなんかなんかそれも間抜けに見えるから不思議。


「どうかしたのスオウ?」


「ン?アア。すまなイ。ちョッと考え事ヲしてしまッた。アれだな。五十嵐はそういうのが平気なンだな。絶叫系とかな」


「うん。私グルグルと回ったり、ドカーンと落ちたりするやつとか好きだよ!だからこんどね。常盤くんと富士興ウルトラランド行くんだよ!すごく楽しみ!」


「冨士興ウルトラランド?そウかそれはよかッたな」


 さっきからスオウはたまに何かを考え込むような素振りがあった。なにか心配事でもあるのだろうか?それを五十嵐も察したのかスオウの近くにすぅーっと泳いでいき彼女に抱き着く。


「ねぇねぇスオウ。一緒に水上バイク乗ろうよ。バイク好きなんだよね?」


「水上バイク?そンなものどこに…アッそウイウことか…」


 五十嵐とスオウは俺のことをじっと見っている。期待されてる?!ここで逃げたら男として負けな気がします!


「ば、バイクのカナタ君だよーどうぞお二人さん乗ってくださいな」


 俺は二人に向かって背中を向けて、そのまま水の上に浮いた。そして二つの柔らかな感触を背中に感じた。スオウと五十嵐が俺の背中の上に座っている。


「エンジンファイヤーあああああああああああああああああああああ!!」


 俺は気合を入れて、両手両足を思い切りばたつかせる。二人を乗せて俺は水の上を進んでいく。


「きゃー!全然そこまで早くない!!あはは!」


「五十嵐。ワタシに抱き着け!スピードヲ上げる!」


 スオウがなんかおかしなことを言い出した!?彼女はそのまま俺の背中に胸を押し付けるように抱き着き身をかがめた。ライダースタイルのつもりかな?そしてわざわざゴーグルを下げて、俺の肩に手を置いてなんかバイクのアクセルを入れるような素振りを見せてきた。やだこの子バイクガチ勢じゃん?!俺はさらに手足で水を押してスピードを上げる。時たまスオウが俺の肩を動かして進む方向を弄ってくる。


「ふッ!今日は調子がイイ気がする!」


「これがバイクデート?!スオウ素敵!きゃはは!」


 俺の上に乗るお二人さんはすごく楽しそう。俺は逆にすごく大変だった。これがすごく疲れる。だけど女の子が楽しんでるんだ。頑張らなきゃね。男の子ならさ。










 ことが終わった後、僕は少しうたた寝していた。目を覚ますと僕の背中に抱き着くように友恵が寝ていた。このまま動くと起こしてしまうだろう。起きるとすぐにぐずるだろうからこのままの態勢でいることにした。もう一度寝てしまおうと思っていたときに、澪がベットにいないことに気がついた。ホテルの部屋の中を見回すと摩天楼が見える窓際のソファーに横たわっている澪がいた。彼女は熱心に本を読んでいた。豪華な装丁に包まれた本。僕が彼女を含めた特別な女たちにプレゼントした特製の本である。

そのタイトルには、

==========================

『王権』


著:アーサー・モーリス・ホカート

訳:葉桐翔斗

=========================

と書いてあった。


「ずいぶん熱心に読んでるね?もう読み終わったと聞いてたけど?」


「この本には何度読んでも発見がありますの。ですから読み終わったなんて勘違いでしたわ」


 澪は本から目を離して僕の方に顔を向けた。


「やはり思うのですわ。わたくしは葉桐様こそが現代の王権を担おうにふさわしいと」


「その言葉は光栄だね。だけど」


「ええ、邪魔者がいます。女神を横から掻っ攫おうとする不逞の輩がおります。粛清しなければ世の秩序が保たれませんわ」


 僕は思わず微笑んでしまう。澪は僕の望みを正確に読み取って実行してくれる逸材だ。


「幸い機会がすぐに巡ってきます。あの男が女神を連れて行こうとしている遊園地はわたくしの所有する企業の一つです。うまくやって見せますわ。あの美しい山の麓で死ねるなんて不逞の輩にはもったいないくらいに派手に鮮やかに」


 澪は獰猛な笑みを浮かべている。上手くいくかはわからないが、一つの示威行為にはなる。それに僕が命じたわけじゃない。それどころか理織世の友人が仕掛けてくるのだ。彼も無茶苦茶な報復はしてこないだろう。それにいいデータ取りになる。エディレウザ・レイチには暴力装置とカリスマ性による人心掌握のみを期待していたが、最近は祭犠に参画しうる素質を示してる。僕に大きく流れが来ているように思える。動乱は火をつける側こそが楽しい。彼にはせいぜい僕の手の上で踊ってもらおうと思う。
































「ごめんね、ひろ。でも、うちにはあいつに借りがあるから」


 




























 めちゃくちゃ水上バイクをしてすごく疲れた。俺はプールサイドに座って体力を回復させていた。五十嵐はまだパワーにあふれていたので、水の中をすいすいと泳いでいた。


「これでも飲むとイイ」


 俺の隣にスオウが座った。スク水のスオウが隣に座ってるとなんか青春のエモさを覚える。俺がきわどいビキニパンツじゃなくて男物スク水をつけてれば完ぺきだったのに!


「ありがとうスオウ。何これ緑の缶?guarana?ガラナ?」


「ブラジルのガラナジュースだ。ワタシが一番好きなジュースだ。ふふふ」


 緑の缶を開けて飲んでみる。北海道のガラナジュースとは違ったガラナの味がする。


「うん。美味しいね」


「だろう。ふふふ。この間の赤のガラナもよかったが、ワタシにはやっぱりこっちの方がいい」


 どこか遠くを見るような目をするスオウの顔は綺麗だった。きっと祖国のことを思い出しているのだろう。こういうのをサウダージと呼ぶのだろうか?


「もうワタシのことはだいたい把握してイるンだろウ?」


「そうだね。嘘をついても仕方がないからいうけど、ブラジルの借金のこととかも調べた」


「そウか。こんなワタシ相手にヒメーナはご苦労なことだ…あの子は本当にワタシのことヲまだ心配してくれているンだな」


 手を額に当ててスオウは俯いた。よかった。スオウはやっぱり綾城のことを嫌っているわけじゃない。


「借金のことは確かに難しい話だ。だけど俺と綾城ならなんとかできるよ。どう?葉桐のところから足抜けしない?」


 俺はストレートに勧誘してみた。だけどスオウは首を振る。


「ワタシは罪深イ女だ。誰からも愛される資格はなイ」


 スオウは自分の右手をじっとやるせなさげに見ている。


「もっといい方法はあった。諦めるべきだッた。アるいは心が壊れるまで体ヲ汚し続けることだッてよかッたはずだ。女ならそウイウ道もアッた。だけどワタシは一番楽な道ヲ選ンでしまッたンだ。罪ヲ負い続けることがワタシへの罰だ」


 抽象的なものいいで正直に言って何を言っているのかはわからない。だけど今はまだ葉桐の下から離れることができないということだけは理解した。


「なあスオウ。その罰って絶対に避けられないのかな?」


「きッと無理だ。イつか罰が罪を追い抜く日が来る。それは誰も逃れらない。ならその日までワタシは楽に生きてイたイ」


 俺は罰を受けた人間だ。罰を受けることはとても寂しい。だから言わなきゃいけない。


「君が罰を受けた後でも、俺と綾城はきっと君の傍にいられるよ」


「…そンなことはきッとできなイ。イイや、できちャイけなイ」


「できるよ。だから考えておいてくれ。俺たちの手を掴むことをね」


 俺は立ち上がる。そしてスオウに向かってこう言った。


「俺はどんなときだってお前のことも笑わせてやれるぞ!見ろ!」


 俺はちょうどこちらにやってきた五十嵐の手を引っ張って彼女の背中側から抱き着く。


「ちょ、ちょっとスオウが見てるよぅ。いやん」


 五十嵐は身をくねくねさせていた。


「一発ギャグ!おっぱいヘッドスパ!!」


 俺は五十嵐の後ろ頭を自分の胸板にくっつけた。そして胸筋を超高速で上下させた。


「え?なに?なんか揺れてる?あれぇなんか気持ちいい…あはっ…ん」


 五十嵐がなんか色っぽい声を出してるけど、それよりスオウの反応が気になった。彼女は口をあんぐりと開けている。やば?!この鉄板ギャグが滑ってる?!


「いやん!もう陽キャになれないぃ!」


 俺はそのまま五十嵐を抱きかかえてプールに飛び込む。


「ちょ、ちょっと!滑ったの常盤くんなのに私もダイブ?!きゃああ!」


 俺と五十嵐は水に沈んでいく。そしてすぐに水面に浮かび上がる。するとスオウは俺たちを見て可笑しそうに笑っていた。


「馬鹿だ。馬鹿がいる。ワタシを笑わせようとする素敵な人たちがワタシにはイるンだ。アア、アはは、アはははは!」


 スオウは笑い続ける。その笑顔がいつか本物になればいい。俺はそう願ってやまない。この祈りがどこへ届けばいいのに。


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