第97話 Wデートは割り勘で!
飯屋を探して適当に渋谷の交差点辺りをぶらついていた時に、五十嵐がなんか良からぬ笑顔を浮かべてこう言った。
「ねぇねぇ。常盤くんはスオウのところに行きたいんでしょ?」
「まあね。今日はその予定」
色々と探りを入れて葉桐と引き剥がす工作をせにゃいかん。彼女のところには行かねばならぬ。すごく課金したいです。
「じゃあさ!スオウを割り勘でレンタルしようよ!」
「おいちょっと待て。色々とツッコミどころが多すぎるんだけど?」
「つまりWデートだよ!!」
「またツッコミどころが増えた…!?」
五十嵐はすぐにスマホをバックから取り出してどこかへ電話をかけた。
「もしもし?スオウ?ねーねーあなたのこと今からレンタルしてもいい?」
電話先の相手はスオウらしい。俺は五十嵐のスマホに耳を近づけて会話を聞く。
『ワタシはレンタル彼女じャなインだが?!それになぜオ前がワタシヲ連れ出したがるンだ?』
「今常盤くんといっしょにいてさぁ。なんかノリでWデートしたいよねって?話になってさー!」
そんな話俺はしてない。だけど五十嵐にそんなツッコミは通じない。もう彼女の中ではこうすると決まったのだ。
『カナタがそこにイるのか?………ちョうどイイ機会かもしれなイな…。わかッた。同伴じャなイ。レンタルされてもいいぞ』
「じゃあすぐきてすぐー!渋谷にいるから。あと水着持ってきてね!絶対だよ!」
『水着?…わかッた』
なぜか話が纏まってしまった。スオウはこれからここに来るらしい。
「水着なんて持ってこさせて何する気?」
「プール行こうよ!せっかく水着買ったし!泳ぎたいの気分なの!」
「うわぁすごくノリで生きてるー。俺水着持ってないんだけど。あとプールってどこ?」
「ジムのプールとかでいいんじゃないかな?お金払えば大丈夫でしょ!あ、スオウの分は私たちの割り勘だよ!それより常盤くんの水着買いに行こうよ!スオウを驚かせるようやつにしようよ!ね!」
「う、うーん。まあ、いいよ」
そして俺たちはスオウが渋谷に来るまでの間に水着を買いに行くことになったのである。男物を…。
近くの服屋さんのビルに入った。男物の水着コーナーってなんかこう寂れてるっていうか閑散としてるっていうか。静かだよね。うん。そこで一人五十嵐だけがきゃっきゃと楽し気に水着を選んでいた。
「これなんかどう?セクチー!じゃない?あはは!」
五十嵐が両手で男物のボクサーな水着を手に取ってびよーんって引っ張って楽しんでいた。
「さすがにそれを着る勇気は俺にはねぇわ」
「えー似合うんじゃない?これ着てこうマッチョなポーズをとってスオウをドキッとさせようよ!」
五十嵐がボディビルダーみたいなポーズをとってきゃきゃしてた。なんか可愛い。
「俺ってごくごく普通の大学生だから無難なやつにしたいね」
「えー!私には注文の多いエッチマンなのに、自分はセクチーしないのってズルくない?」
「むっ!揚げ足を取られた!?仕方ないなぁ。このさいエッチな水着でもなんでも着てやるよ!」
「やったー!これなんてどうかな?!」
五十嵐が持ってきたのはぴっちりしたビキニタイプの水着だった。またのカットのラインがすごくエッチです…。
「うわぁ…とりあえず試着するね…」
俺が試着室に行こうとしたその時だった。五十嵐が通路を挟んだ向かいの店舗を驚いたような眼で見ていた。そこには金髪に赤いメッシュの入ったギャルギャルした美人さんとピンクの髪にゴスロリのかっこをした美少女がいて買い物を楽しんでいた。というか知ってる…!あいつらも真柴みたいな五十嵐の友人たちだ。なんどか未来で顔を合わせたことがある。真柴ほどではないが色々と言われてウザかった記憶があるぞ。
「やば!隠れなきゃ!」
五十嵐は俺の背中を押してきた。そしてそのまま俺と一緒に試着室に入ってカーテンを閉めてしまった。
「ふぅ。危なかった」
「なんで危ないのさ?別に見られて困ることなんてなくない?」
「あの二人ね。昔から私が誰かしら男の子と話してるとすぐにその男の子ことをひどい弄り方するの。常盤くんのこと見たら絶対に酷いこと言ってくるよ!」
「ああ、そういうことなの。ところでそれって葉桐にはするの?」
「ううん。あの二人は宙翔とに助けられてるからそういうことはしないって言ってたよ」
明らかに五十嵐に近づく男を排除する気満々じゃないか。それに助けられたとか言ったな。もしかしてもしかしなくても葉桐とエチエチして沼ってる系女子かな?滝野瀬みたいな目を向けられるのは流石に嫌かな。しばらくここにこもってやり過ごすか。
「ねぇ常盤くん。せっかくだし着替えたら?似合うかどうか見てみたい!」
「え?ちょっと何言ってるの?」
「ん?でもここ試着室だよ」
「いやそうじゃなくてさ」
「あーそうだね!確かにちょっと恥ずかしいよね。大丈夫!ちゃんと後ろ向いてるから安心して!」
そう言って五十嵐はくるっと俺から背を向けてしまった。なにこれ?あれ?んー?なんかおかしいぞ?こういうのって普通男女逆じゃない?じゃない?
「常盤くん!私は紳士だから絶対に見ないから安心して!」
「え?う、うんありがとう。あれー?」
何かがおかしい気がするけど、とりあえずこっちを見ないでくれるということなので、俺は安心して服を脱ぐことにした。服がこすれ合う音だけが俺と五十嵐の間に響く。そして服を脱いだ俺は水着をするっと履いた。
「もういいぞ」
「あ、うん」
そして五十嵐はこちらに振り向いた。彼女の瞳にビキニパンツ一丁で肌を露出したセクチーな俺の姿が映ってる。俺は胸の筋肉を両手で隠した。
「あんまりジロジロ見ないで…恥ずかしいから…」
「ぶほぉ!!あはは!逆だよぉ!あはは!なにこれおかしいぃ!あはは!」
ほらやっぱり逆だったよ!男女逆なら様式美もあるだろうけどただただひたすら間抜けなだけだ。
「常盤くん!いい体してるね!水着にあっててすごくセクチーだよ!」
五十嵐は両手で親指を立てる。俺の水着姿はお気に召したらしい。
「そう?俺かわいい?」
俺はマッスルなポーズをとって筋肉美をアピールする。
「ううん!全然かわいくないよ!超筋肉だるま!あはは!」
五十嵐はけらけらと笑っている。楽しんでくれたなら何よりだ。そして俺たちは試着室のカーテンから外を覗き見る。ギャルとゴスロリの姿はなくなっていた。試着室から出てお会計を済ませて、俺たちは服屋を後にし、スオウと合流するために渋谷駅に向かった。
渋谷駅でスオウと合流してまずは同伴代というかレンタル代を払うことになった。
「この間はヒカルドがお世話になッたから、今日の同伴、じャなかッたレンタル代は一万円ぴッたりでイイぞ」
たったの一万円しか貢がさせてくれないのか?!こんなひどいことってありかよ!しかも今日は割り勘なんだぞ!!
「常盤くん。私今日は細かいの持ってないの。5千円持ってる??」
「俺も細かいのねーよ。コンビニかなんかで飴でも買う?」
「えーもったいないよー。よし!ここはいつものあれだよ!」
五十嵐は実に楽しそうに近くにある宝くじ売り場を指さす。
「くじなどそウ当たるものではなイだろウに。ガムでも買ッた方がまだ建設的な金の使イ方ではなイのか?」
スオウがなんか呆れているように見えた。だけど五十嵐はそんなの気にしたりするような女ではない。俺と五十嵐はいつものやり方で宝くじを買った。一万円で一枚なのでこれでいい感じに札を崩せた。おつりからお互いに5000円づつ抜いてスオウに渡した。そして俺たちはスクラッチを削る。そして結果。
「やったぁ!!200円当たった!!」
「俺も200円。なおスクラッチ自体も200円。プラスマイナスゼロ。…なんだこの結果。結果的に両替しただけじゃん!」
「でも当たりは当たりだよ!わーい!あはは!」
五十嵐は無邪気に喜んでいた。対してスオウは驚きと同時にどこか五十嵐に怪訝な目を向けていた。
「…なンだ。なンだこの言イようもなイ違和感は…?」
スオウはどこか考え込むような顔をしていた。それはどこか深刻そうに見える。だから俺はパンと手を叩いて、二人の目をこちらに向けさせた。
「じゃあプール行こうか。近くのジムに一般開放の温水プールがあるんだと。夏に向けての水泳の練習をしようじゃないか!」
「わーい!たのしみー!」
「…あ、ああ。そウだな。楽しもウ」
そして俺たちはジムに向かった。大手のデカいジムの受付でスオウの分を含めて三人分のプール代を五十嵐とオレで割り勘した。よくよく考えるとすごくシュールな割り勘だな。だいたいWデートっていうけど、女の子が二人で男は俺一人である。言葉の定義が乱れてるよな。そして更衣室の前で別れて、着替えてプールサイドに出て女子たちを待つ。五十嵐の水着は昼に見てるけど、それでも楽しみだった。そしてスオウ。スタイルがいいのはわかってる。はたして水着姿がどれほど艶やかになるのかが楽しみだった。
「おまたせー」
なぜかローテンションな五十嵐が俺の傍にやってきた。緑の水着とパレオ姿はプールサイドで見るとやはり映えていてすごくかわいいくてエロくて色っぽい。大きな胸を包むビキニは否応なく俺の視線を奪っていくし、くびれから腰の線の美しさったらもう滾る。パレオから覗く太ももの柔らかそうな印象が目に眩しい。前の世界じゃ結婚生活までしてたのに、まだ見飽きたりしない美しさを五十嵐という女は持っている。
「やっぱりその水着可愛くて素敵だね」
「う、うん。…ありがとう常盤くん」
五十嵐は少し頬を赤くしてパレオを指でつまみながらかわいらしくカーテシーした。五十嵐なりに恥ずかしさをごまかす素振りなのかもしれない。そう思うと本当に愛らしく思える。
「ところでスオウは?一緒に来ると思ってたけど」
「…スオウは…うん。あれはそうだね。個性だよね…」
どことなく五十嵐は気まずそうに俺から目を反らした。なんだこの態度。
「すまない。待たせたな」
スオウの声に俺は振り向いた。そこには水着姿のスオウがいた。スオウの体の線もまたそれはそれは綺麗なものだった。大きな胸とくっきりしたくびれと艶めかしい腰。紺色の水着から延びる白く滑らかな手足。肌の露出の少ない水着だけど不思議と男心を煽るような雰囲気がスオウにはあった。だけど一つ気になることがあった。胸元に大きく「すおう」と書かれた白い布が貼ってあった。それにメッシュの水泳キャップを被っていてゴーグルも額にかけてある。紺色の水着のデザインは日本で学校に通ったなら見たことがないものがいないであろう。
「可愛くない…可愛くないよスオウ…」
五十嵐は首を振って嘆いている。確かにその水着ではスオウの本来の魅力は伝わりづらいと思う。だが俺のような青春コンプレックス持ちには事情が別だ。それは中学の頃の思い出だ。クラスメイトの男子と女子が付き合い始めた。そしてほどなく二人で卒業したと俺は聞いた。そして夏のプールの授業で彼女の水着姿を見たときに、なんかこう大人っていうか色気っていうかそういう何かを感じた。スオウの今着ている水着はその彼女の来ている水着と一緒だ。それを人はスク水というのである。
「スオウ…君の水着姿はすごくsaudadeだよ…!」(*サウダージって言ってるよ!)
俺はうっすらと涙を浮かべながら微笑みを浮かべた。スオウはどことなく落ち着きなくもじもじさせていたが、頬を染めて口を開いた。
「obrigada!」(*ポルトガル語でありがとうっていってるよ。なお発声者が男性の場合はobrigadoと言うそうです)
「二人が何を言ってるのかいろんな意味でわかんないよぅ!!」
五十嵐が頭を抱えて唸っている。まあ普通の女子にとってはスク水は可愛いもんではないよな。
「スオウはなんでスク水なの?!」
「スク水?この水着ことか?客から貰った。日本の伝統的な水着だと聞イてイる」
「騙されてるぅ!騙されてるよそれぇ!そのお客さんは出禁だよ出禁!同じ日本人として恥ずかしいよ!その人は!!何も知らない外国の人にその水着を勧めるなんてサイテーだよ!!」
スオウは不思議そうな顔をしている。スク水のことをよく知らないのだろう。だから俺はかくかくじかじかでスオウに説明した。するとスオウは水着をどこか愛おし気に見詰める。
「そウか。これは学生が着るものなのか。羨ましイ。私も学校に通ッてみたかッたなァ…これはその気分だけでも味わエるのか…素晴らしイ」
ガチの闇が溢れてるぅ!五十嵐も俺もそれ以上何も言えなくなってしまった。スオウはファベーラというスラムの出身で学校にも行かずに働いていたと聞いている。いっぱい貢がなきゃ(使命感)。
「と、とりあえず泳ごう!ね!」
「そ、そうだね。泳ごう泳ごう!」
俺と五十嵐はスオウの両側に立って手を引っ張る。そして三人で一緒に手をつなぎながらプールにダイブした。




