表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・3 願いと祈りと分かち合いと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/197

第77話 ラブコメテンプレイベントを横で見ている人の気持ちを少しは考えてほしい

 東京五大学野球の歴史は長いそうだ。もともとは速応大学と詣義大学の対抗戦からはじまり、そこに皇都大学、法明大学、池教大学が合流して今に至る。大会は総当たり戦で、勝ち数がもっとも多い大学が優勝となる。今日はその開幕式が都内の野球スタジアムにて行われていた。


『宣誓!我々選手一同は!』


 以下略。どんなコネを使ったのか知らないけど、選手宣誓は葉桐がやることになった。まじで目立ちたがりだと思う。能力と性格が全くと言っていいほど釣り合っていない。ひどくちぐはぐで歪んだ人間性の持ち主だ。どうしてそうなったのかは知りたくもない。そして開幕式が終わり、ユニフォームから私服に着替えて控室の外に出ると、そこには五十嵐と鯖ゲロ女がいた。あとメガネの男子と真面目そうな女子がいた。うちの大学の学生っぽい。


「あ、常盤くんやっほー」


「おう。どうしてこんな汗臭いところにいるの?」


 五十嵐はのほほんとした顔で答える。


「皇都大学新聞部さんと一緒に野球部メンバーにインタビューだよ」


 後ろの学生さんはどうやら新聞部さんのようだ。

 

「まじか。優勝は俺たちが奪います。期待しててください!」


 俺は親指を立てて、最高のスマイルを決めた。五十嵐は俺に合わせて親指を立ててくれた。だけど隣にいるゲロ鯖女はジト目で言った。


「いや、インタビューの対象はあんたじゃなくて、部長とひろだからね」


「ああ?あの野郎!新聞部にもアピールすんのかよ!どんだけ目立ちたがりなんだ!ざけんな!きー!」


 皇都大学の新聞部の発行部数ってけっこう多い。全国の受験生でも皇都大学に入ることを意識しているひとなんかが購読してたりするのだ。顔出しによる知名度アップはかなり高い。


「知名度は力になる。当然の理だよ。悔しいなら、君ももっと自分を売り出す努力をするべきだね」


 冷たくて鋭い声が後ろから響く。まだユニフォームを着たままの葉桐が控室から出てきていた。


「俺はお前と違って謙虚なんだよ」


「謙虚さが評価されるのは、いいところ小学生くらいまでだよ。美徳というには弱すぎる思想だね。くだらない」


 葉桐はああ言えばこう言う男なので、何を言っても無駄だ。俺たちは互いに目を反らす。五十嵐はそんな俺たちを見て苦笑いをしていた。そんな時だった。


「五十嵐さん!来てくれたのか!?」


 ユニフォームを着たままの今給黎が五十嵐のそばに駆け寄ってきた。


「え?ええ…っとその取材の助手で…」


 五十嵐は今給黎のぐいぐい来る感じに戸惑っているようだ。


「この間の続き?!なんでも答えるよ!どんどん質問してくれ!」


「え?いやあの…」


 そろそろ会話に割り込もうと思ったときだった。葉桐が声を上げた。


「今給黎先輩。お久しぶりですね。まだ野球続けてたんですか?」


 ドスの効いた聞く者の心を凍えさせるような声だった。今給黎はどこか怯えるような表情を見せている。


「あ、ああ。スポ薦だから部活をやめることはできなかったんだ…」


「そうですか。まあ口約束ですしね。あなたが僕との約束を守らなくても仕方がないですかね?」


「うう…。あれは!そう!あれはあくまでも冗談だから!」


 なんか二人の間には因縁がありそうだ。五十嵐は首を傾げている。だけど鯖ゲロ女は今給黎を睨んでいるので、事情を知ってそうだ。俺は鯖ゲロ女に小さい声で尋ねる。


「何があったん?」


「今給黎がりりにちょっかいかけてきたから、ひろが今給黎に野球で勝負をふっかけたの。ひろのピッチングしたボールを打てなかったらりりのことを諦めて、ついでに部活もやめておとなしくするって約束で」


「じつに葉桐くぅんらしいやり方だねぇ」


 相手の土俵で確実に心を折りに来るあたりがエゲツない。マウント(ちから)に溢れておるわ!


「で、また懲りもせずにうちの理織世にちょっかいをかけに来たと?」


「ちょっかいなんかじゃない!俺はプロになることが決まってる!五十嵐さん!!俺と結婚を前提にお付き合いしてください!!」


 その場にいた全員に衝撃が走る。今給黎の思い込みはついにここまで進化してしまったらしい。重い…。いや俺も前の世界じゃ結婚するまで付き合ったのだし、似たようなものか。五十嵐はひどく動揺しているのが見て取れる。


「お断りします」


 そうすっぱりと断ったのは、五十嵐ではなく葉桐だった。


「なんでお前が言うんだよ!俺が聞いてるのは五十嵐さんなんだよ!!」


 今給黎の抗議はもっともだと思う。


「理織世に聞く必要なんかないです。お断りします」


 なんだこれ?例えば五十嵐が戸惑って返事をできないなら、葉桐が庇うとか、そういうのならわかる。だけど五十嵐が何か反応をする前からこの男は声を上げた。なにこれ?


「…またかよ…また…お前が邪魔をするのかよ!」


「邪魔ではなく決定事項を伝えているだけです。話はこれで終わりです。お引き取りを」


 葉桐は冷たく今給黎をあしらう。だけど今給黎とて引くことはなかった。


「なら勝負だ!この五大学野球でうちとお前の大学の試合で俺が勝ったら、五十嵐さんと俺は結婚する!負けたら俺は二度と五十嵐さんの前に姿をみせない!それでどうだ!!」


 なにを無茶苦茶なことを言っているのだろう?とうの五十嵐を放置して結婚とか決められるわけがない。だが葉桐は冷たく微笑して。


「いいですよ。まあどうせ僕が勝ちますからね。それでかまいません」


 葉桐と今給黎はまるでライバルのように睨みあう。だけど二人の論点である五十嵐のことは置いてきぼりになっている。


「おいちょっと待て!?お前ら何言ってんだ?!五十嵐の意思を無視するな!何勝手に景品みたいな扱いをしてるんだよ!!本人の意思を考えろ!!」


 俺は至極まっとうなことを言ったつもりだった。だけど激高している今給黎には通じない。


「黙ってろ常盤!前もそうだった!この男が五十嵐さんを縛っているんだ!だから俺が五十嵐さんを解放して幸せにしてみせる!!」


 話にならない。縛っている云々は同意するけども、言っていることはめちゃくちゃだ。


「理織世が景品?それにはあたらない。だってどうせ僕が勝つのだからね。誰が勝つかはもう決まってる。僕が一番になると決まっているんだからね」


 その自信はどこから来るのだろう?まったく話が通じない。だから俺はとうの五十嵐に声をかけようとした。


「おい。五十嵐。お前それでいいのか?自分の運命がどこかの誰かに勝手に決められるんだぞ?!」


「……なるようにしかならないよ。私はそう決まってるもの…」


 まただ。またいつものように曖昧な笑みを浮かべている。これ以上は踏み込めない。彼女はそこから先に他者を踏み込ませない。今の俺にはこれ以上に踏み込める力がない。そう悟った。こうして五大学野球はキラキラした青春イベントから、一人の人間の運命を左右するおぞましい決闘の場になってしまったのだ。俺には勝たなければいけない理由ができてしまった。五十嵐の行く先々で争乱が吹き荒れる。シンデレラは男たちを互いに殺し合わさせるのか?ガラスの靴はいま誰の手にあるんだろう?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ