第76話 大学にいがちなすぐにお持ち帰りされそうになる系女子とさし飲み 後
ちゃぶ台におつまみ並べて、女の子とさし飲みする。きっと大学生の醍醐味の一つだろう。普段はみんなと一緒に飲んでいる子が自分の前でだけ違う顔を見せる。それはきっと幸せな時の一つなのだ。
「それで最近は学科の方も楽しく過ごせてるんですよ!参天楼さんたちも落ち着きが出てきてくれてなんか話してて楽になりました!でも姫よばわりはけっきょくやめないんですよ!うふふ!推しと彼女は違うからセーフって!あはは!」
「あはは!あいつららしいわ!」
俺たちは学科が違うので、休み時間くらいしか一緒にはいない。だから学科での様子が気になっていたが、ちゃんと楽しく学生生活を送れているらしい。
「そういえばさ、俺がいないときの三人ってどんな感じ?」
けっこう気になってはいたのだ。女子同士の関係は男から見ると複雑怪奇に思える。
「あ?それ聞いちゃいます?」
「聞いちゃう聞いちゃう」
楪はいたずらっ子のような笑みを浮かべている。だから大丈夫だってすぐにわかった。
「わたしも女子同士って難しいって思ってたんですよ。実際友達なんていなかったので。でもあの二人は違いますね。伊角さんは人との距離の取り方が抜群にうまいですし、かっこよさげに見えて中身は間抜けだから可愛い人です」
「どーてー!」
「童貞可愛い!かわいいかわいい!うふふ。そして綾城さんはなんか大人な感じなんですよね。わたしと伊角さんのことを見守ってくれてる感じなんですよ。でもリードもしてくれるそんな不思議な魅力があります。素敵な人です」
「そっか。それはよかったよ」
綾城は俺から見ても不思議な女だ。悪ふざけするときはとことん悪ふざけするが、他人への面倒見がすごくいい。俺だって彼女に面倒を見られてる時がある。
「だから伊角さんとわたしはいつも綾城さんのおっぱいをいつか二人でチューチューしようってよく言ってます!チューチュー!」
唇をタコのように伸ばしてチューチューと音を立てる楪の顔は面白かった。
「巨乳のお前がよそのおっぱいでバブりたいとか傲慢だからね!ぎゃはは!」
「えー!いいじゃないですかー!あ!カナタさんもその時はご一緒します?」
「考えておくわ」
「うふふ。あ!そうだ!てれび!そろそろ伊角さんが出る番組やりますよ!」
「まじか!」
俺はテレビをつけてチャンネルをその番組に合わせた。ベテラン芸人が司会のトーク番組のようだ。レギュラーの芸人たちと若い女の子が並ぶゲスト席が映っている。その中にいつものポニーテールを解いて、清純派っぽいロングスカートのミランがいた。
『本日はこれからブレイクしそうなアイドルさんたちがゲストに来てくれました!攻め攻めなトークショーをお楽しみください!!』
「伊角さんって清純派ドル売り女優なんですよね。なんか普段のキャラ知ってると猫かぶり感すごいですよね!」
「たしかにね!ウケるわ!」
俺は楪を後ろからゆるく抱きしめながらソファーに座って、テレビの向こうのミランを見ていた。テレビ越しだとまた違った美人さんだ。普段の快活な感じとは違った魅力に酔いそうだ。
「なんかハラハラします!うちの子ちゃんとトークできるんでしょうか?!」
「あはは!授業参観かよ!でもその気持ちわかる!がんばれー!」
「頑張ってー伊角さーん!あ、ちなみですけど、あそこにいるアイドルさんたちの平均経験人数は2です」
「ねぇねぇその数字、ミランのこと抜いてる?」
「伊角さんの経験値0人を計算に入れても…平均経験2人です!!あはは!」
ミランを抜いたらどんな数が出るんだろう?知りたいような知りたくないような実にやばい数字だ。
「清純派に夢も希望もないことがわかった。いとワロス!ぎゃははは!」
そして番組はつつがなく進んでいく。深夜番組だからこそ、ちょっとお色気的なシーンも入ってる。ミランの紹介PVでもビキニにミニスカで踊るミランが出ていた。
『ミランさん清純派とは思えないセクシーダンスだよね。これ男を何人も食ってる踊りだわー!』
「たしかに伊角さんってときたま、見てるだけでこっちをムラってさせる色気を放つんですよね。いけない子!」
「せやな。確かに俺が知る限り、あいつの踊りを見て、ムラっとしちゃった人みたことあるよ、うんうん」
テレビの中のミランは余裕そうに笑ってる。
『いやーボクは昔から演劇部で男役多かったんで。そのせいだと思います』
『いやいやwww!男の演技してるだけでこんなにセクシーになれるなら、男の俺、いますぐにモテモテになれるはずやで!』
芸人の一人がPVのミランの真似のダンスを踊る。その滑稽さにゲストの女の子たちから笑い声が上がる。
「そうですよ!わたしだってモテモテになりたいです!いえー-い!」
楪は立ち上がり、PVのミランと同じように踊る。ダボダボジャージなのに腰のフリがエロく見るし、揺れるおっぱいにドキドキ感が止まらない。
「わぉ!楪!エロカワすぎだわ!」
踊っていた楪のことを後ろから抱きしめて、俺たちは再びソファーに戻る。今度は彼女の正面、腰のあたりに両手を回す。
「いやん!カナタさんのエッチ!うふふ」
楪は俺に体重を預けてくる。その体の柔らかさがとても気持ちがいい。
『てかセクシーすぎじゃない?もしかして男の上で腰振って練習してたりして(笑)!』
なんかヤバ気な発言がテレビから聞こえてきた。カメラがその発言の主であるアイドルにフォーカスする。黒髪ロングで制服っぽい衣装を着ている。ザ・清純派って感じ。
『いやー!今の発言!ギリギリ攻めてくね!さすが大手のアイドルグループさんだわ!潰しに来てるよ!』
芸人がフォローを入れる。どうやら発言した黒髪のアイドルは大手のアイドルグループの一人のようだ。
「カナタさん!こわい!女の子の潰しあい怖いです!てか今の黒髪の人、経験人数5人ですよ!!めっちゃ発言に説得力ありますよ!!」
「楪の発言のほうが下手ホラーより怖い気がするんだけど」
ファンが今の楪の発言聞いたら、心臓止まるかもしれんな。てかあの黒髪ロング(5)はまちがいなく足を引っ張りに来てるよねこれ。
『あはは。別にそんなことないですよー』
ミランが苦笑いで適当に流そうとする。
『えーでも。聞いたよ。よくクラブに出入りして、ダンスしてたんでしょ?かっこいい人いっぱいいたでしょ?そういう人たちに教えてもらったりぃ?きゃはは』
黒髪ロングの子(5)はけらけらと笑いながら、ミランに畳みかける。ミランがどことなく動揺している。芸人の方も困ったような顔してる。このセリフ、たぶん台本とか打合せにはなかったんだろうな。アイドル好きな人の中にはクラブとかみたいな場所を乱れた場所だという偏見を持っている場合もある。だがぶっちゃけて言えば、クラブっていう場所はケーカイパイセンくらいモテないとそもそもワンナイトできない場所だ。クラブにくる女の子はほとんどは閉店まで店で粘るものである。
『いえ。あくまでもバイトで出入りしてただけなんで。あはは』
ミランが押されている。俺と楪は互いに抱き合って、固唾を飲んで見守っていた。そしてこのスタジオの空気感を読んだヅラっぽい芸人が、おそらく大手のアイドルグループに忖度したのだろう。ミランに質問を投げてくる。
『自分、どれくらい彼氏おらんの?』
これはきつい質問来たね。なんかあの黒髪ロング(5)さんと芸人は結託してミランを潰しにきてるみたいだな。芸能界の足の引っ張り合いは恐ろしい。ある意味ではミランの実力が他の芸能人から見ても脅威であることの証明なんだろう。
『え?あはは。えー。そのーずっと…?』
『ずっとって何年やねん?www』
『…ずっとはずっと…で…す…』
『え?つまり彼氏いたことあるってことwww?アイドルなのに?』
そのヅラ芸人と黒髪ロングがニヤリと笑っていた。討ち取れたと思ったのだろう。だがその時だ。ミランは席から立ちあがったのだ。
『うるさい!ボクはモテるんだよ!!でもこの間、言ったでしょ!!浪人女子は交際経験ないこと気にするんだって!わかる!?予備校で彼氏といちゃいちゃいっしょに勉強してる現役カップルを横目に一人で浪人してたボクの気持ちが!!』
『え?いやこの間って言われても…俺たち初めての共演なんだけど?』
『ボクはヘタレじゃないんです!い、い、いつでも彼氏なんて作れるし!その気になったらいつでもエッチとかできる童貞卒業寸前の童貞だし!!童貞は童貞でもギリだし!』
『え?童貞?え?ええ?処女じゃなくて?』
ヅラの芸人だけじゃない。他のアイドルや司会なんかもあんぐりと口を開けていた。謎のカミングアウトにスタジオ大混乱。
『しょ、しょ、処女じゃないよ!童貞だよ!!そうだよ!しょせんボクは童貞なんだよ!!嗤うなら嗤えぇ!!いつも寸止めされてる童貞のこのボクを嗤うがいい!!ふははは!あーはははははは!』
ミランちゃんさん壊れるの巻。言ってることが支離滅裂すぎる。
『ここでいったんCMです!!』
そしてテレビからCMが流れてくる。これ放送事故じゃね?
「カナタさん!見てくださいこれ!」
楪がスマホの画面を見せてくる。SNSがそこには映っている。
『童貞www…俺もだよミランちゃん…』
『処女のアイドルはいるかもしれんが、童貞www俺も童貞だぜ』
『ミラン様、わたしで童貞捨ててください!』
『ミラン様の童貞とわたしの処女を交換したいです!』
なんかプチバズしてるぞ!?発言の多くは好意的なものだった。ミランのアカウントのフォロー数もどんどんと増えていく。
「ネットの向こうの皆さんに言いたい。伊角さんの童貞はわたしのものです!!」
「全国に向かって童貞宣言。ミランは童貞の神だわー」
個人的には浪人が現役カップルを予備校で見るとその日一日ネガティブになるので、マジでつらたんです。そして番組はその後、その童貞宣言をなかったことにして、筒がなく進行し終わった。俺たちは生暖かい笑顔だけ浮かべてテレビを切った。
「楪ー!別のことしようぜ!」
「いいですねー。別のことしましょう!」
俺はクローゼットからガスガンの箱とゴーグルを取り出す。この間のサークル合宿で使ったやつだ。
「楪ってこういうことやったことある?」
「これガスガンですか?!やったことないです!」
「じゃあちょっとやってみるか」
俺は楪にゴーグルを渡す。俺もこの間クズブルーをしばいたときに使ったマスクを着用する。このマスクはサバゲー用なので、ゴーグルの機能も兼ねている。
「カナタさん…!そのマスク!どう見ても反社です!」
「反社じゃないし。むしろこのマスクをするときは正義の味方だし」
俺は楪にモデルガンの使い方を教える。そして籠のついたターゲットを部屋に用意した。ワクワク笑顔で銃のグリップを握る楪はターゲットサイトの紙を狙って引き金を引いた。
「きゃ!すごい!スライドが動いてますよ!本物みたい!」
オタ系趣味持ちはたいていの場合、モデルガンも好きだ。楪はパンパンと実に楽し気に弾切れになるまで撃ち続けた。ターゲットサイトの紙の弾痕はバラバラで全く安定していない。狙いがへたっぴで可愛い。
「ふぅ。なんかすっきりしました。男の人が出すの気持ちいいって言う理由がなんかわかった気がします」
「その発言は綾城菌に汚染されてるよね?メタファーを駆使した下ネタはやめてもらっていいですかねぇ?はい!綾城菌バリアー!」
俺は楪の背中にやさしくくっついて、彼女の両手に腕を重ねた。
「きゃん!ご指導お願いいたしますぅ!」
「まかせろ100発100中にしてやるよ。構えはこうしてね。そんでターゲットサイトを覗いて…」
楪の構えを後ろから修正してあげる。そして楪は引き金を引いた。弾はターゲットサイトのど真ん中に当たった。
「みました!?すごいすごいです!真ん中に当たりました!楽しい!すごく楽しいですよカナタさん!」
「それはよかった」
そして俺が後ろにくっついて反動を殺すようにしながら続けて打ち続ける。楪の撃った弾はターゲットサイトの中心に集中していく。
「これいいですね!すごく楽しいです!サバゲーとかもやってみたくなりましたよ!」
「あ、いいねサバゲー。そのうち機会見つけてやってみるかな」
サバゲーって人数必要だし、なんかこうオタ系でもリア充か陽キャがやるイメージがあるので、前の世界では倦厭してたけどチャレンジしてみるのもありかもしれない。
「はい!みんなで綾城さんに挑みましょう!」
「ん?なんで綾城に挑むの?」
「あれ?もしかして知りません?綾城さんの趣味のこと」
楪が首を傾げている。
「あいつの趣味ってファッションとか法学とか教育とかだろ?あと人を弄ること」
「はい。そうです。でも他にもあって…。あ、綾城さん、カナタさん相手に猫かぶった?!」
楪はスマホの画面を取り出して、俺に動画を見せてくる。どこかの野外で人形を模したであろうターゲットがならんでいる。間違いなく射撃場だ。そこに迷彩服にタクティカルベストをがっつり着込んだ綾城が映っている。サングラスをかけている綾城は笑顔を浮かべてカメラに向かって手を振っている。手にはごついライフルが握られている。
「なに?あいつサバゲー好きなの?言ってくれればいいのに」
「いえ。ここから先があれなんです」
画面から英語が聞こえてくる。流暢な英語で綾城はこう言った。
『じゃあ射撃を始めるわ。タイムカウントはじめて』
するとベルが鳴って、綾城は素早くライフルを構えて、撃ち始めた。
バンバンバンとすごい音が響く。そしてライフルを全弾打ち尽くしたあと、綾城はライフルから手を放し、腰のホルスターからハンドガンを抜いて、撃ち始める。そしてカメラはターゲットの方にズームアップする。ターゲットである人形の頭と胸のところに弾痕が集中していた。それも複数あるターゲットすべてにである。まじかよ?!
『パーフェクト!!さすがはヒメーナ!どうだい!大学を卒業したら軍に入らないか?君ならグリーンベレーもデルタもシールズもどこだって入れるぞ!!』
迷彩服を着たおじさんがヒメーナのことを褒めている。
『遠慮しておくわ。趣味だから銃は楽しいのよ。仕事にしたら楽しめなくなるわ』
そして動画はカメラに向かってドヤ顔する綾城の姿で終わった。
「今の何?!実弾だよね?!」
「GWの海外旅行で、アメリカの親戚のところに行って、ついでに射撃場に遊んできたそうですよ。小さい頃か銃には慣れ親しんでるとかなんとか」
「うわぁ…。人間には意外な面があるんだなぁ…」
「でも綾城さんも女の子なんですね。うふふ。カナタさんにはお転婆なところを見せてくないんですね」
「お転婆…?そ、そうだね!でも意外な魅力があるよね!あはは、あははは!」
俺は驚きが隠せなかった。人間には見えない部分が必ずある。それを肝に銘じなければいけないなと思った。
そして遊び疲れた俺たちはベットに横になった。楪は俺の胸に顔をうずめている。
「胸筋ぴくぴくさせてくださいよ」
「いいよ。ほら」
「きゃん。本当にぴくぴくしてる!うふふ。こうして頭をのせて!雄っぱいヘッドスパ!」
俺の胸筋の動きに合わせて楪の頭が少しだけ揺れる。なにこの一発ギャグ。ちょっと笑ってしまった。
「カナタさん。わたし今すごく幸せです。ちょっと前は息苦しい田舎にいて、頑張っても頑張っても認めてもらえなくて、誰も優しくしてくれなくて、でも今は違います。優しい人がいっぱいいます。楽しい日々が続いてます。それはカナタさんがいてくれたからです。あの日、わたしと出会ってくれてありがとうございました」
そう言って楪は微笑み、俺の頬にキスをした。
「だからカナタさん。何かあったらいつでも言ってください。次はわたしがあなたを助けますから」
「うん。ありがとう楪。俺も君に出会えてよかった」
俺は楪を優しく抱きしめる。そして俺たちは静かに眠りに落ちた。なお二人とも寝過ごしてしまい、午前の授業をさぼる羽目になってしまったのはご愛嬌というものである。




