第196話 シーズン・0 常盤家のお正月
新年あけましておめでとうございます!アルルカン・阿国です!
今回語られる物語はもうなかったことになった物語ではありますが、かつて幸せだった彼らのことを誰かが思い出していただければ幸いです!
【シーズン・0 常盤家のお正月】
最近、理織世の様子がおかしい気がした。仕事嫌いのくせに夜遅いときが多々あり、酒の匂いがよくしていた。帰ってくるとすぐにシャワーを浴びて、さらに酒を飲む。何か悩みでもあるのかと聞くと、なんでもないとただ俯く。セックスレスもないし、むしろ回数は増えていく一方だったくらいだ。そのくせクリスマスはイブも本チャンも俺と共に有休をとって家から出ようとしなかった。ちょっとコンビニに行こうとするのすら止められた。そんでもって年末に入ってすぐに彼女は全部仕事を休んだ。俺の仕事納めが終わって五十嵐家へのあいさつに何を持っていくか悩んでいた時だ。
「なにもお土産買わなくていいよ」
「それは俺が困るんだけど」
「じゃあ行かなきゃいい」
理織世は実家に帰るのを嫌がった。何でかはよくわからないが、もともと両親となんか関係がよくないのは察している。とは言えども行かないとなあと思っていた時にすごく泣きそうな目で見詰められた。
「じゃあ別のところ行く?」
「旅行?!行きたい!!」
「つーても今からじゃあとれるチケットは限られてるから、うーん、俺の実家とかでいい?」
「奏久君の家?……行きたい!はい!行きたい行きたい行きたい!!すぐにチケット取ろう!!」
スマホで俺がチケットを取るのを理織世は隣でじーっと見ていた。取りそこなうなんてしないんだけどなぁ。そしてそのまま次の日には北海道へと俺たちは飛び立った。
「すごい!雪だ!あはは!!」
雪だらけの札幌の街に理織世は楽しそうにはしゃいでいた。道民の俺には別に珍しくないものだけど、彼女にとっては別なんだろう。別に邪魔はしない。郊外の公園に行って子供たちも遊んでいない広場で雪合戦やって理織世は本当に楽しそうだった。そしてまた飛行機を乗り継いで俺の実家に向かった。地方都市なので、行くのは不便だけど、その道中の光景を理織世は楽しんでいたように見えた。
「なんか北海道の森って妖精しそう!かわいい!」
「熊ならいるけどな」
「熊の妖精?ありだね!」
熊はおっかいないけどなぁ。まあ実家には猟銃はあるので安心だけど。そして実家に来た。両親は首を傾げていたけど、暖かく出迎えてくれた。妹夫婦は旦那の実家に行ってるので、俺たちだけで過ごした。両親はすぐに寝てしまった。俺と理織世は外で鍋を叩きながら除夜の鐘ごっこしてた。周りに人がいない田舎だからできる遊びだ。
「煩悩退散!退散!退散!!」
理織世はひたすら鍋を叩いていた。煩悩ねぇ。なんかよくわからないけど、払いたい厄でもあるのなら好きにやって欲しい。できればその厄がなんなのかを話してくれるならいいのだけど。昔から理織世はどこか俺に踏みこませない部分がある。すべて曝け出せとは言わないけど、寂しいところはいっぱいあるんだ。庭に作ったかまくらの中で俺たちはおつまみを摘まみながら酒を飲む。
「新年もうすぐだよね。来年は……いい年だよね?」
「そうだね。いい年にしたいねぇ」
最近昇進したし来年は新規のハウスデザインの指揮に取り掛かれる。正直仕事に憂いはなかった。
「……変化はあるかな?」
「そうだねぇ。変わろうと思うならいくらでもあると思う。なにに変わりたいのか次第なんだろうけどね」
「変わりたいものかぁ……でもあなたの妻はやめたくないよ」
それを聞いてなんか嬉しかった。変わらないものもある。この先もこの女が人生の傍に居る。それは幸せなことだ。そんなぼうっとした幸せ感のなかで、ふっと外からがさりと音がした。
「ちょっとここにいて!」
俺はすぐにかまくらの傍に置いておいた猟銃を構えて茂みに銃口を向ける。
「何かいるの?……あ、妖精さん?」
そこにいたのは子熊だった。まだ幼い。まずいな。これだと近くに母熊がいるかもしれない。すぐに周りの気配を探る。理織世を背中に隠して警戒を怠らない。
「あ、お母さんかな?」
「みたいだな」
幼いクマの傍に大きな母熊がやってきた。こっちをじーっと見つめている。銃口は反らさない。
「ねぇお母さん熊は、子供が一番大事なのかな?」
「そりゃね。だから危ない」
「……羨ましいなぁ……自分以外に大事な何かがあるんだね……素敵……」
そして熊たちは森へと帰っていった。撃たずに済んでホッとした。
「ねぇ……奏久君」
「なに?」
「変わるってああいう感じ?さっきのお母さん熊みたいに私がなったらどう思う?」
言ってることがよくわからない。子供が欲しいってことかな。それだったら嬉しいけど。
「そうだな。うん。子供がいて、お母さんしてたらきっと俺は嬉しいよ。……そうだな。そういう風に変わるのはいいだろうなぁ……」
近い未来のことだとは思う。別に届かない夢じゃない。なんだ。俺たちの未来は明るいんだな。何も恐れることはないんだ。
「子供……じゃあ……うん。準備はしておかないとね……邪魔なものもいっぱいあるし……」
理織世はなにか深刻そうに呟いた。子供を持つならそりゃ準備はいっぱい必要だろう。だけど邪魔とはいったい?まあ妊娠だって簡単なことではないだろう。タイミングを計らないと案外うまくいかないとかよく聞く話だ。
「じゃあそろそろね、ね、ベット行こうよ……暖めてよ……ぎゅってして……」
理織世が俺の左手に抱き着く。俺たちは家へと戻る。未来はきっと明るく待っているはずだから。




