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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4.x Cidade do Rei

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第195話 repressão

ファベーラにやってきた。ただ想像してたスラムよりはなんかマシな感じ。だけどね。


「すごいわね。チンピラがAR-15持ち歩いてるわ」


「ばか!あいつらを見るな!」


 綾城の視線の先には若い男たちが無線機もってライフルを肩から下げて笑いながら会話してた。ヴァンデルレイはビビってる。警官の服着てるのに。


「ここが日本じゃないってよくわかるな。すげぇな世界」


「日本が例外なのよ。うちはそう思う」


 街をたむろってるわけにもいかないので、綾城が中心になって聞き込みを開始する。エディレウザとヒカルドの写真片手に街の連中に尋ねる。


「ああ。最近見たぞ。エディレウザはいい子だからねぇ!」


「どこへ行ったか知らないかしら?」


「それはちょっとわからないわね」


 そんな感じで最近ファベーラのあちらこちらで姿は目撃されているらしい。エディレウザはどうもリオのファベーラでは人気者というか顔役のような感じだ。


「お前らが捜してる奴って物騒な奴じゃないよな?」


 ヴァンデルレイが俺たちにあからさまに嫌悪を持っている。怖いんだろうな。まあでも付き合って貰わないと困るので意地でも付き合わせるけど。


「エディレウザはいい子よ。物騒なんかじゃないわ!とても素敵な女の子よ!」


「ただの女の子がファベーラの住人に名前が知られてること自体が不思議で仕方ねぇよ。はぁ。はやく署に帰りたい……」


 だから逃がさないって。そして街をうろうろしていた時だった。ばんっと乾いた音が響いた。すぐに反射的に真柴の肩を抱いて身をかがめる。綾城なんかは伏せながらもすでに銃を構えていた。ヴァンデルレイはビビって腰を抜かしていた。


「ひぃ!だからファベーラは嫌なんだよぉ!こんなの日常茶飯事んなだからな!」


「発砲はすぐそこね」


 そう言って綾城が銃を構えたまま、曲がり角の向こうを覗き込む。そして目を見開いて。


「いやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!あぁあああああああああああああああああああ!!」


 そのまま叫びながら走っていた。


「ヴァン!真柴を頼む!!」


 俺は綾城の後ろを追いかける。綾城は発砲しながら札束を数える三人の警官たちの方へと走っていく。


「よりによって警官?!なんで?!」


 綾城の撃った弾丸は警官たちが持っていた銃を全て弾き飛ばした。そして綾城は一番背の高い警官にジャンプで頭に膝蹴りをぶち込む。そして着地するとすぐに男の胸倉をつかんで、もう一人の男に向かってぶん投げた。そんでもってまだ気絶してない警官の頭に向かって思い切りケリを入れた。そして綾城の頭上に札束が舞う。


「何やってんだ綾城!!」


「そんなことよりすぐ救急車!!子供がぁ!子供が撃たれている!!いやぁ!いやぁああ!!」


 綾城はまだ幼い男の子を抱えて泣いている。子供の胸に銃創があった。血が激しく流れている。


「おいおいまじかよくそ!あー糞!ブラジルの救急車の番号!?ヴァン!救急車!救急車を!!」


「その傷じゃ間に会わない!!」


 真柴がすぐに綾城との子どものそばによってきた。真柴はすぐにゴム手袋をして銃創に触れる。


「貫通してる?でも口径は小さい。まだ脈はある。心臓は逸れてる!」


「なんとかできるの?!あなたなら?!」


「何とかするから静かにしてて!常盤!すぐに近くの民家を借り上げて!!運ぶの手伝って!」


 真柴は真剣でそれでいてこの中で一番冷静だった。俺は真柴の指示通りに近くの民家に駆け込み、札を投げて住人を追い出す。そして子供をヴァンと一緒に中に運び込む。広いテーブルの上に横たえるように指示されたのでその通りにする。


「ライトが弱い。常盤!これ持って!傷を照らして!」


「わ、わかった!」


 俺もゴム手袋をさせられてライトを持たされて傷口を照らす。


「あたしもなにか」


「あなたは静かにしてて!冷静になれない人はいらないの!!」


 真柴は綾城を一喝した。そしてバックから袋を取り出してジッパーを開いて広げた。中にはメスやそのほか医療器具が揃っていた。注射器を出して、子供の腕に注射する。


「おい、今の麻酔か?まさか?お前?」


「今からオペする。黙ってうちの指示に従がって。大丈夫。慣れてる」


 慣れてる?どういうこと?こいつ医学部ですらないのに?だけどその自信は本物のようだった。だから信頼して任せることにした。すぐに真柴はメスで傷口を開く。


「ライト。早く」


「お、おう!」


「大事な血管は……ちっ!少し掠めてる!すぐに縫合!」


 糸と針で血管を縫っていく。


「血が足りなくなる。常盤。バックの中にある青い液体のパックとって」


「はい」


「これで当面は……やばい!心臓が止まった!」


 真柴はすぐに子供の口に自分の唇を合わせて息を吹き込む。そして術創部に直接手を入れて心臓を揉む。それをなどか繰り返すと心臓が自発的に動き出した。


「セーフ!まだ縫うところはあるけど峠は越えた!」


 さらに傷ついたた血管などを縫っていき、手術は終わった。子供はうめき声を出しているが、生きている。


「はぁ……何とかなったぁ……」


 ここまで数分で全部処置した。すごい技術だ。


「お疲れ様。でいいよな?」


「ええ。そう言ってくれる方がいいかな」


「この子は助かったの?!」


 綾城が心配そうに言う。


「ええ。大丈夫。後は病院に運べればおっけー」


「君は医者だったのか。だから二人称なんか使ってたのか。納得した」


 ヴァンがなんか変な方向に納得してるけど、この子は医者ではないはずなんだが。


「葉桐のネットワーク使って病院に入れる。うちこれでも無免許だしね」


「それはそうだが。というかなに?どういうこと?医者できるの?」


「訓練は受けた。生物学の応用でしかないからね。簡単だった。ひろの下で闇医者やってたわ。そこらの医者より救急と先進の保険未適応手術は得意」


 なんかとんでもない奴が増えちゃったぞぉ。まあいいか。子供が助かったんだ。それでいいだろう。


「あれ?綾城さんは?」


 真柴に言われて綾城が部屋の中にいないことに気がついた。俺はすぐに外に出る。綾城がさっきの伸びてる警官たちに向かって歩いていくのが見えた。嫌な予感がした。綾城は銃を抜いて、そいつらに向かって引き金を引いた。


「なにすんだ馬鹿やろう!!」


 俺は直前で気がついて銃口の先を手で払った。銃弾は警官たちには当たらなかった。


「こいつらが子供を撃った!!けだものは駆除しなきゃいけない!!」


「冷静になれ!!気持ちはわかるがそれはお前の仕事じゃない!ヴァンもいる。警察に引き渡せばいい!」


 ヴァンが銃声を聞いて駆けつける。


「全くなんなんだよ。警官殺そうとしてたのか?やべぇ奴だな……」


「常盤……甘いわ……ヴァンデルレイ。こいつら逮捕する?」


「え?いや。それは……」


 ヴァンはオロオロしている。ああ。そうかそういうことか。腐敗しているんだ。ヴァンもどこか申し訳なさそうにしている。


「出来ないわよね!ここはそういう国よ!!司法なんて当てにならない!だから自力救済するしかないのよ!!」


「だからってお前が撃つのはやめろ!!」


「お前ら俺らをなんだと思ってんだ?!ああん?!!」


 俺たちが騒いだからか、警官隊がふらふらしながらも起き上がった。


「いいわねぇ!眠ってるうちより起きて後悔する方がずっといいものねぇ!!」


 綾城はがぜんやる気を出して、銃を警官たちに向ける。


「なんだこの糞女!役漬けにして売春宿に売ってやろうか!?俺たちを舐めてんのか!俺たちはミリシャだ!お前みたいなただの女なんていくらでも人生終わらせられるんだよ!!」


「そのまえにあなたたちの人生を終わらせてあげるからけっこうよ!!」


「銃を振り回すな綾城!!頼むから撃つな!撃つなよ!」


 なんで悪党を俺が庇わなきゃいけないんだ。だけどヴァンは当てにならない。このいざこざから目を背けてる。俺だって心情的には綾城よりではある。だけど綾城に人殺しはさせられない。


「お前らミリシャっていったな?なんで子供を撃った!?」


 とりあえず警官共の話を聞いて時間を稼ぐことを試みる。


「なにって。表通りでこいつはスリやりまくっててな。表通りの店からクレームが来たんだよ。だから金貰って、殺してついでにガキが稼いだ金をいただこうと思っただけだが」


「……はぁ?なんだよそれ……」


 なんだこの不条理さは。警官が一般人から殺しを請け負ってる?そして殺しのターゲットが子供でその子の犯罪で稼いだ金まで奪う?


「おい!ヴァン!お前の連れだろ!こいつら黙らせろよ!」


「いやその先輩。あの。さすがに度が過ぎて……」


「小遣い稼ぎくらい普通だろうが!すくねぇ給料埋めるのにこっちも必死なんだよ!邪魔しやがって!!」


 殺しになんも罪悪感を抱いていない。搾取に後ろめたさもない。これがミリシャ……。腐ってる。


「生きてる価値もないわね。じゃあ死んで……」


「だからやめろ!!」


 綾城は容赦なく引き金を引いたが、俺はまた銃口を払って止める。綾城が俺を睨んでる。いつもみたいな可愛らしさはない。荒んだ目をしている。


「あの。いいかな?」


 ヴァンが俺たちに申し出てきた。


「今のミリシャは昔とは少し違う」


「違うから何よ」


「今ミリシャのトップは、誰かは不明だけど、王って呼ばれてる。そいつは子供の殺しを認めないことをミリシャに通達してるんだ」


「そんなの有名無実じゃないの?かっこつけてるだけでしょ。裏社会の掟気取り?くだらない」


「いや。本当だよ。多分そろそろ……」


 その瞬間だった。音もなくミリシャの警官たちが崩れて地面に倒れた。


「はぁ?!え?死んだ?!」


「額には銃創がある」


 綾城は警戒して銃を屋根の方に向けてあたりを見回している。遠くの民家の屋根の上に女の姿が見えた。女だとわかったのはなんか体にぴっちり張り付いたメタリックなスーツをつけていたから。マスクをして顔は見えない。だけど灰色がかった青い長い髪が風に揺らいでいる。


「殺気も感じさせずに?!すごいスナイパーね……」


 綾城は女に向かって銃を向けているけど、当たる気がしない。そして女はスナイパーライフルを抱えてそのまま屋根伝いに走って消えた。


「噂は本当だったな。ミリシャの女王。青い髪の粛清者。……ぁうあ。殺されずに済んでよかったぁ……」


 ヴァンがその場にへたれ込む。俺たちはただただこの裏の世界の圧倒的暴力に茫然とするほかなかった。

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