第194話 Surgimento
リオに俺たち降臨!なんか体感では日本よりも涼しかった。しかし長かった。24時間も飛行機の中だった。ファーストクラスじゃなかったからしんどかったよこれ。真柴はずっとポルトガル語の参考書を読んでは暗礁して動画サイトを見ていた。綾城はなんか情緒不安定で俺の席で一緒に横になってずっとたわいなおしゃべりを繰り返していた。だけど俺の胸に頭を預けてずっと手を握らせていた。
「カシューの炭酸ジュースうまー」
「緑のガラナがやりおるわ!」
俺たちは現地に合わせた地味目の服を買って着替えた。なお靴は綾城の助言で安全靴。綾城はいつも地雷メイクはやめてナチュラル系でラテン系のくっきりした顔立ちで美しくこの街に馴染んでいた。
「Vós não viestes ao Rio para brincar!Preparai-vos e tende coragem!」
街に馴染んでまったりしている俺たちに真柴が真剣な顔で激励を飛ばしてきた。だけど。
「なんか鎌倉武士みたいに喋るね?ウケる」
「鎌倉武士?何言ってるの?うちちゃんとポルトガル語覚えたんだけど!」
「ブラジルでは二人称は使わないわよ。Vósなんて聖書だけよ」
「え?うち、もしかして時代に取り残されてる?」
俺と綾城はこくりと頷いた。真柴は文法書に忠実に学習したのだろう。結果として二人称単数と二人称複数なんていうブラジルじゃほぼ使われない表現が残ってしまった。ギャルの前に平安貴族が出てきちゃった感じだろう。まあ行きの飛行機の中だけで覚えるのはすごく頭いいけど、使い方が惜しいよね。鯖ちゃんかわいい。
「さて。情報収集なのだけど」
綾城が切り出した。
「ファベーラだってっけ?スラムに行けばいいのか?さすがにそれなら俺一人で行くけど」
「あたしも行くわ。あんただけ行かせる気はないの」
「でも危ないんじゃ?」
真柴の懸念はもっともだと思う。
「スラムに入れるツアー使う?動画サイトで見たけど」
その真柴の提案はごく普通にアリだと思った。だけど綾城は首を振る。
「ガイドは雇う。だけど自衛もしなきゃいけない。だから最高の場所があるわ」
そして綾城のあとをついていく。辿り着いたのは。
「軍警察署?」
「探し人なら警察よ。それにここなら最高のガイドが雇えるわ」
綾城は戸惑う俺を置いて中へと入っていく。警察怖いんだけどな。だけど俺と真柴も中に入る。
「探し人がいるのよ」
「では捜索願を出してください」
実に役人的な対応をされる。受付はまるで興味がなさそう。
「もう一度行ってあげる。探し人がいるの。最高の捜索を頼みたいわ」
そういって綾城は受付の机に100ドル札を置いた。すると受付はニヤリと笑って。
「オフィスに案内しまーす」
受付の婦人警官はわいろに転んだ。そして俺たちは署の中のオフィスに案内される。
「あんたらが人を探してる善良的で模範的な市民だな?」
「ええ。警察の普段の仕事ぶりに敬意を覚えている弱気子羊です。いなくなった友人を探すためにファベーラに入りたいの。手を貸してちょうだい」
そういって出迎えた来た偉そうな警官に今度は500ドルを渡した。
「ふむ。いなくなったそいつはいい友達を持ったな。誰かファベーラに市民を連れていく係やれ!!」
そしてオフィスの中の警官たちに怒鳴り散らす。だけどどいつもこいつもファベーラと聞いて嫌そうな顔をした。
「係長!ヴァンデルレイが暇そうです!」
「ちょ!おい!!」
「ヴァンデルレイか。そうだな。真面目だからいつも暇だよなぁ。お前が案内しろ」
「そんなぁ?!」
そして周りの警官に一人の青年警官が連れてこられる。濃い黒色の肌で黒人かなと思った。だけど髪の毛はウェーブはかかっているけどわりとまっすぐより。天然パーマみたいな緩い髪型。そして顔立ちは鼻筋がすっと高く目が大きい。そして驚いたのが瞳が青いことだ。肌の色とは本来なら組み合わさらない色だからこそとても美しく見えた。顔立ちもとてもいい。だけど気弱そうな表情とどこか芋っぽい雰囲気が生来のイケメン性を台無しにしている。
「係長!いやです!ファベーラなんかに行きたくない!いやだぁ!ひぃい!」
「ふん。とにかく行ってこい。金はもう貰ったからな」
「そんなぁ!?ああ!」
「係長。ついでに銃を貸してちょうだい。予備のマガジンも含めて」
「おういいぞ。だけど心許ない。子供におもちゃを買ってやりたいからなぁ」
綾城はすぐに追加で500ドル払った。
「m4持ってくか?」
「ハンドガンだけでいいわよ」
そしてすぐに俺たちに予備のマガジンを含めてハンドガンが配られた。綾城はすぐにチェンバーをチェックしたりサイトを確認したりする。
「ブラジルのクローンか。まあいいわ。弾が出ればいいのよ」
そして予備のマガジンをポケットに。銃本体はお腹とズボンのすそに挟んで隠した。手慣れてやがる?!
「あんたたちもコンシールドキャリーにしなさい。銃は見せびらかすもんじゃないからね」
俺たちは綾城の指導で銃を装備した。というかさせられた。銃なんて持ちたくないんだけどなぁ。
「お前らは何もんだよ!ファベーラ観光したいなら旅行会社に行け!!」
署の駐車場に来てパトカーに俺たちは乗り込んだ。
「そっちの男と金髪の女にはスペイン語訛りがあるな!でそっちの黒髪はなんか古臭い喋り方してる!お前らは外国人だろ!!」
なんか正体がバレてる。ヴァンデルレイくん、パトカーの運転席ですごく暗い顔している。
「行きたくねぇ。まじで行きたくねぇ。前代未聞だよ。なんでパトカーでファベーラ行きたがる馬鹿がいるのさ。俺はまっとうに務めてるのに。なんでこんなバカどものあいてしなきゃいけないんだよぅ」
「チップなら弾むわ」
綾城が100ドル札を10枚もヴァンデルレイの制服のポケットに入れた。
「金の問題じゃねぇ。命の問題だ。金で命は買えないんだよ。お前らいた国じゃどうだか知らんが、ブラジルじゃそうなんだよ。とほほ」
そういいつつも車をヴァンデルレイは出した。上の命令には逆らえないのがお勤め人の宿命である。
「で、どこのファベーラ行くのさ?」
「正直情報がないのよ。エディレウザ・レイチって知らない?」
「だれそれ?知らん」
「じゃあ今日は適当にどこかのファベーラに入って頂戴。こっちで聞き込み調査するから」
「今日って言った?!今日だけじゃないってこと?!」
「見つかるまで探すに決まってるでしょ。何言ってるの?」
「こいつら頭おかしい!!ぐぁああ。俺生き延びられるかなぁ……」
ヴァンデルレイの背中が煤けて見える。なんか申し訳ない。だけど俺たちだって精一杯なのだ。あとで札束ビンタしてやろう。そう思った。




