第191話 書籍発売記念フォロワー向けメール配信SSの公開
大学と言えば?多くの人はサークル!って答えると思うんだ。その例に漏れず俺たちは入るべきサークルを探していた。
学内にはサークルのブースと呼び込みの熱気で包まれていた。
「ううっ。人に酔いそうですぅ」
楪が顔を青くしている、その背中をミランが優しく撫でていた。
「大丈夫大丈夫。別にいじめられるなんてことはないからさ」
呼び込みの人たちは基本的には優しい。まあ入った後は知らないけど。俺たちは呼び込みの中に入って行く。様々なサークルの人たちがチラシを渡してくる。
「どう?うちの飲みサー来てよ!」
「うちのパーティーサークルマジヤバだよ!」
ミラン、綾城、楪はチャラい系サークルのチラシを大量に受け取っていた。俺?誰も来やしねぇ泣。
「ミスコンサークルなんですけど!そこの三人!ぜひうちに来ませんか!」
ミスコンと言えば大学の花形の一つだ。そこに誘われるなんてすごい。だけど三人は曖昧な笑みだけ浮かべて手を振って離れていった。
「ミスコンいいじゃん。だめなの?」
俺がそう聞くと綾城は渋い顔で言った。
「あたしは外見がちょっとコンプレックスだから嫌ね」
ミランは苦笑いして言う。
「一応芸能人だし、出ちゃうのは大人げないかなって」
余裕の発言だった。勝てる自信があるらしい。まあ確かに勝てそう。
「ミスコンなんて出てドベだったらどうするんですか!一生立ち直れませんよ!」
楪らしい言い分だと思う。俺はいい線行けると思うけどね。
「あんたはどうなの?ミスターコン出たいと思わないの?」
綾城にそう言われるが、ふと悩む。
「うーん。そうだなぁ。なんか見栄えする特技があれば考えるけど」
今のところそういう人前でウケる特技は持っていない。なんだかんだと陰キャ寄りの趣味ばかりなので、ミスコンで勝つのはむずそう。
「カナタさん。審査員に常盤組の代紋見せれば一発ですよ!」
「やめてぇ!大学のミスコンで反社行為するとかダサすぎるよぅ!」
反社はミスターになってはいけないと思います。そして俺は反社ではない。
「あはは。でも見栄えする特技ならボクが教えられるし、出るって決めたら応援するよ」
ミランは朗らかに笑っている。この子からダンスやなんやらを習えば確かにウケそうだ。案外ミスコン制覇も夢じゃないのかも?と思うと楽しくなってくる。
「なにより葉桐が悔しがるはずよね。いいんじゃないミスコン。出たらいい嫌がらせになりそう」
その言葉にめちゃめちゃ揺らぐ俺がいた。葉桐に合法的に嫌がらせできる。サイコーじゃん!ミスコンは本格的に検討してもいい気がしてきたぞ!
大学サークルはニッチなものもある。恐竜だけ愛でるサークルとか各地の城跡をめぐるだけのサークルとか色々ある。だけど気をつけなきゃいけないことがある。
「カナタさん!聞いてください!わたしはこの世界の真実を知ってしまったんです!」
「へ、へぇ……」
あ、これ絶対にロクな奴じゃない。
「この世界は秘密結社リギハによって裏から牛耳られていて、彼らは人類の滅亡を企てているそうなんです!うちの大学にも彼らのスパイが紛れ込んでいるそうです!大変なことになりましよ!」
大変なのはお前の頭だ。オカルトサークルはいい。だけど陰謀論に染まったサークルは予後が悪い。
「だけどこの懐中電灯で照らせばスパイを見分けることが出来るそうです!特別価格一万円で買ってきました!お友達にも友情価格で譲ってくれるそうです!カナタさんもどうですか!」
「あ、そう。勢!」
俺は楪から懐中電灯を奪って拳で挟んで粉々にする。
「きゃあああ!特別な懐中電灯が!」
「楪、お前騙されてるからね」
俺は楪に懐中電灯を売りつけた連中を見つけてそのブースを蹴り飛ばす。
「おうおうお前らぁ。いい商売してんじゃねぇかぁ!」
「ひぃひぃいいいいいい」
陰謀論サークルの人たちは震えあがっていた。
「上京したてのいたいけな女の子を騙して手に入れる万札は美味しいか?あん?何が秘密結社リギハだ。こちとら常盤組じゃい!返せよおらぁん!」
こういう輩がサークル勧誘に混ざるから大学は危ない。カルト、マルチ、極左集団、右翼団体。それらの下部組織が大学で蠢いて人を集めている。そういうのに人生を飲み込まれれば御先は真っ暗だ。
「お、お返しします」
俺は万札を取り返して楪に渡す。
「てめぇらみたいなやつらは二度とうちの敷地をまたぐんじゃねぇぞ。あん?ほら!今すぐに消えろや!」
俺がそう一喝すると陰謀論サークルは脱兎のごとく逃げ出した。
「すばらしいわ常盤。まるで地上げ屋の見本みたいだったわよ」
綾城の笑みが眩しく見える。
「ボクも興奮しちゃったよ。あとで是非ともボクをじあげしてくだしゃい!ふひ!」
ミランの笑みをしばき倒したい。
「ああ。そっか。わたし騙されちゃったんですね。でも助けてくれてありがとうございます。カナタさん!やっぱりあなたがわたしのヒーローです!」
楪は俺に抱き着いてくる。柔らかな感触が好ましい。まあこれくらいは役得ってことで、しばしば堪能しようと思う。
大学はたしかに恐ろしいところだ。だけど光になる部分ももちろんある。
「わたし、ここに入りたいって思いました!」
そこは文芸サークルだった。地味だけど品のいい感じの男女がニコニコと呼び込みをしている。ここなら大丈夫だろう。
「いいと思うよ。いい人そうだし、きっと楽しめると思うからね」
俺は楪の頭を撫でる。彼女は心地よさそうに笑みを浮かべる。あとは俺のさーくるくらいだ。
「ぜひこの美術サークルに入れてくれないか?」
「すみません。反社はお断りなんですよ」
「反社じゃねぇーよ!入れてー!お願いだからサークル入れてぇー!俺も美術したいんだよぉー!入れてくれぇ!」
ひと悶着はあったが、最後は反社じゃないことを理解してくれて俺は美術サークルに入れた。さあ、俺たちのキラキラ青春はこれからだ!




