第188話 ゲーム
ゲームが始まった。今回は月面のクレーター基地ステージだった。
「……変。コクピットの重力が1Gのまま」
五十嵐が能面のままそう呟く。
「何言ってんの?ゲームなんだから重力の再現なんて出来るわけないでしょ」
「ゲーム?シュミュレーターじゃないの?」
俺は思わず黙ってしまう。何だこの変な感じ。
「ズレが気持ち悪い」
五十嵐は機体を上昇させて基地を俯瞰できるところまでやってきた。
「おい。それじゃ隠れてる奴らに狙い撃ちされるぞ!」
「だからだよ。あぶりださなきゃ」
案の定あちらこちらからミサイルやらビームやらレーザーが飛んでくる。警報音でコクピット内は喧しくなる。だがそれらの攻撃を五十嵐はいとも簡単に避けてしまった。それどころか敵の攻撃がやってくる方向に向かって加速さえつけている。
「おいおい!むちゃむちゃむちゃ!」
「ちょっと黙ってて」
五十嵐の機体はすべてのビームをスレスレで回避して、敵機体の懐に飛び込んだ。そして背中からビームソードを抜いて相手の機体を縦に真っ二つにする。
「すご!」
「だから黙ってて」
さらに先の攻撃で位置を掴んだ相手たちを次々と高速移動しながら切り裂いていく。五十嵐、このゲーム初めてのはずだよね?なんでこんなに上手いの?操縦桿を握る指使いもペダルを踏む足使いも早すぎる、その上無駄が一切ない。沢山あるボタンやスティックなどを自由自在に使いこなしている。
「……組み始めたね」
「はい?ああそういうこと」
このバトルは全員が敵同士のバトルロワイヤルモードだが、どうやら五十嵐の活躍を見て彼らは自然と協調行動をとり始めたようだ。三機の敵機が編隊を組んで五十嵐にビームの嵐を浴びせてくる。だがそれらも五十嵐の前には意味がない。五十嵐はまるでステップを踏み踊るかのようにそのすべてを華麗に避けてみせた。それだけじゃない。両手に持ったライフルで敵の装備のすべてをカウンターで破壊しつくしてみせた。
「ビット展開」
五十嵐がそういうと、イェーシェンのスカートが全て空へと飛んでいく。あのスカートはすべてビット兵器でできているのがこの機体の特徴だ。そしてビットは三機の敵編隊に向かって飛んでいきビームを撃ちまくる。
「あれ?なんでビットがオートで動いてるの?」
「オートって。ビットは全部AIで動く仕様だけど」
「マニュアル操作は?」
「そんな機能ゲームにあるわけないだろ」
「ゲーム?あー。これはゲームなんだね。そっか」
ビットたちは武装を失った三機をビームでタコ殴りにして破壊した後にイェーシェンの腰に戻ってきた。
「使えないビットだな。無駄撃ちしすぎ。だからAIは駄目」
その言い分だとあのビットたちをマニュアルで動かせるってことなの?五十嵐さん何言っちゃってるの?意味が分からない。その後も敵たちは皆がこぞって五十嵐を狙ってきた。だけど五十嵐はその動きのすべてを読んでいた。無駄なく回避してはカウンターを叩きこみ撃墜スコアを増やしていく。
「さっきから変なところからビームが飛んでくる。だれか隠れてる」
「まあそういうプレイヤーはいるよね」
「宙翔とだって女の後ろに隠れはしても、まだ目立ちたがりなのに。ずるい奴だね」
残った敵はあと一機だがどうやらずっとこそこそと隠れ廻っていたようだ。
「鬱陶しいなぁ。全フレア射出。翅と鱗粉の展開」
五十嵐が操縦桿のボタンを素早く操作する。すると周囲にフレアがまき散らされた。そして背中のウィングが展開されて二対の蝶のような羽が広がった。
「目立っちゃうんじゃない?」
「だからだよ。狙いやすいでしょ」
そして五十嵐はステージをあちらこちら高速で飛び回る。鱗粉を散らしながら飛ぶその姿はまるで妖精のようだ。そしてやっと背中の方からビームが撃たれた。五十嵐はそれを見もせずに躱してすぐにその場で回転して、飛んできた方へと加速する。
「見つけた」
そこにいたのは重武装型の追加装甲を纏ったディンギル・アンだった。
「……レイ?違う。違うよね。レイはそんなやり方絶対しない。宙翔とは違うもの。先頭に立つ男だった」
レイって誰やねん。
「あなたにその機体は相応しくない」
五十嵐は相手の直上からビームソードを振るって右手を切り落とす。そして次に左手を斬り、両足を膝から切り落とした。そして相手の機体の首根っこを掴んだ。勝負はあった。
「彼の王道を穢したね?痛い目にあおうか?」
五十嵐はビームソードの出力を下げて、短くしてコクピットに徐々に近づけていく。
「おいちょっと!もう勝負はついてる!」
「だから静かにしてよ」
そして五十嵐はコクピットにビームソードを差し込んでいき、それはボディを貫通して敵機体は動きを止めた。その瞬間画面にYOU WINの表示が出る。
「ノーダメージクリア。嘘だろ……」
「ダメージウケたら駄目でしょ。戦争なんだから一撃で致命傷だよ」
いやこれはゲームだ。さっきから五十嵐の様子が本当におかしい。
「え?あれ?戦争?私今なんて言ったの?ねぇ常盤くん?今私何をしたの?」
俺は答えられなかった。五十嵐の名伏し難い表情に何を言っていいのかわからなかった。
「一回やめて休憩しよう。な。そうしよう」
「え?でも戦争は終わってないんじゃない?」
五十嵐は左手で顔を抑えている。
「俺たちは戦争なんてしてないよぉ。五十嵐、お前……」
俺が五十嵐の背中に手を伸ばした時だった。画面に挑戦のコールが響いた。相手の名前はプリンセス・キャッスルというらしい。機体はディンギル・ムルという高ランク機体が表示されている。
『さっきの戦い見てたわ。あたしと勝負しなさい』
余計なタイミングで挑戦が入った。無視しようと思った。だけど五十嵐は顔に当てた手の指の隙間から画面を見ていた。そしてボタンを押して決闘を了承した。




