第185話 お姉ちゃんが待ってる!
チャーターした飛行機はそろそろギョベクリ・テペの上空に差し掛かっていた。俺はパラシュートの点検をしながらファルナーズに声をかける。
「いつまでめそめそしてんだ。そろそろダイブの時間だぞ」
「無茶言わないでくださいよ!人は!空を飛ぶようには!作られていないんですよ!!」
壁の隅っこの方で体育座りをしながらペルシャ語で何かをぶつぶつと唱えていたファルナーズが泣きながら怒鳴り散らす。
「街中でマシンガンをぶっ放す奴がよく言うわ。ほらこっち来い!」
「いやぁ!放してぇ!逝きたくない!逝きたくないようぅ!」
俺はパラシュートを背負ってからファルナーズの俺の身体にハーネスで締め付ける。じたばたしているがもうこれでどうにもできないだろう。
「空を飛ぶなんて間違ってます。葉桐もあなたも地獄に墜ちろ!」
「はいはい。じゃあ飛びましょうねぇ」
俺が合図をすると目の前のハッチが開く。そして俺はそちらの方へと歩いていく。
「ごめんなさいこれからはいい子になるからゆるしてくださいわたしいがいのばかどもをじごくにおくってきゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「とおぉ!」
俺とファルナーズは空へとダイブする。夜の空には町の明かりだけが下に見えるだけ。俺はGPSの画面を見ながら身体を反らしたりして風に乗って遺跡の上空へと近づいていく。
「おい見ろよ。遺跡のドームが開いてるぜ。きれいじゃないか」
葉桐たちが作ったドームの上は開いていた。ライトで照らされた遺跡がなんかエモく見える。
「……きゅぅ」
「あ、気絶してやがる……」
ファルナーズが気を失っていた。せっかくの風景なのに可哀そうだなと思った。俺はパラシュートを開いて減速し、ドームの近くの広場に着地する。ファルナーズは放っておいて、パラシュートを急いで畳んでリュックに詰め込んでから、ファルナーズの背中に片膝を立ててからぐっ肩を押して起こす。
「ぷはぁ!重力?!重力がある!地球に帰ってきたんですね!」
ファルナーズは両手でガッツポーズを取っていた。大袈裟なやつである。
「すぐ移動するぞ。警備に見つかっていない今がチャンスだ」
「りょーかーい!」
俺たちはドームに向かって走り出す。丘の下に比べると警備は手薄だった。俺はダクトを見つけてそこを破壊して通風孔に入る。ファルナーズもそれに続く。
「くっさ!映画でこういうとこ移動するの見ますけどマジもんは臭いんですね!」
「そりゃ換気のためのもんだからな。お、下見てみ」
網があったので下の廊下を見る。警備の兵士たちは暢気そうにお喋りに興じている。
「俺たちの存在はバレてないな」
「ううっ。悔しいけど先輩のやり方が正しいのは認めてあげますよ。悔しいけど」
俺たちは先を急ぐ。ダクト内部は入り組んでいたが、だいたい勘でわかるので道には迷わなかった。俺たちはとうとう遺跡のあるエリアまでたどり着いた。柵を破壊してドームに出る。
「わぁあ。すごい……一万三千年前の人々の祈りの場。人々が最初に神を見た場所。素敵」
ファルナーズは色っぽい艶やかな笑みで遺跡を見詰めている。あちらこちらにモノリスが立っている。それらにはトカゲのようなレリーフが掘ってあったり、鳥や牛のような生き物も掘ってあった。建築家としても興味深い。本当なら観光にしゃれ込みたいが、ここへ来たのデータの回収のためだ。ライトアップされた遺跡の中を俺たちは進む。そして大きなサーバーコンピューターが置いてある場所に辿り着いた。そこは広場のように見えた。広い円形で、その外周にモノリスが立っている。
「遺跡の中にこんなの置くとか冒涜的ですね!爆破してえ!」
「やめとけ。とりあえずデータを抜き取ろう。ほら手伝え」
ここら辺には監視カメラがなかった。恐らく内部で行われている研究を秘匿するためだろう。こっちはおかげでバレずに済むが。サーバーの傍のデスクにおいてあるPCを見つけた。サーバーにケーブルで繋がっているのが見えた。俺たちはそのPCにケーブルを挿して持ってきた大容量のHDDにデータを転送する。
「重!時間かかりそうです。暇です。なんか面白い話してください」
「そうだなぁ。この間のことなんだが、葉桐のクレカでシャンパンタワーを立てた話とかどう?」
「なんすかそれ?!超面白そう!てかなんで私のこと呼んでくれないんですか?!全部飲み干してやるのに!」
「この前知り合ったばかりだろうが。それでな葉桐のクレカの残高がわかんねーからとりあえずシャンパンだけじゃなくて……」
「あの多額の請求はあなたのせいだったのね」
女の声が聞こえた。俺たちはその方向へと体を向ける。モノリスの影から紫色の髪の女が出てきた。葉桐絃翔。バリキャリOLみたいなパンツスーツにハイヒール。だけど胴には剣帯を巻いている。そこには大中小の三本の刀の鞘が差さっていた。
「全く困ったモノね。私がたまたまここに来ていなかったら、データはまんまと盗まれていたのでしょうね。イスタンブールでの襲撃騒ぎもあったし、ていうか助けたのはあなたなんでしょう?常盤奏久くん?私の弟もなかなかついてるわね」
不敵に笑いながら姉桐は近づいてくる。背中から太刀を抜き、左の腰から小太刀を抜きながら。
「弟を助けてくれた恩もあるから見逃してあげてもいいわ」
「随分お優しいな。あいつの姉とは思えないね」
「私は王の姉。王女よ。人民には寛大にあらねばならないわ。たとえ敵であっても、恩は恩。返さずに殺すのは筋が立たないわ」
「じゃあこのままデータだけ貰っておさらばしてもいいんだよな?」
「それは駄目。だから選びなさい。私を倒してデータを持って帰るか?大人しく逃げるか?好きな方を選ばせてあげる」
どうやら戦闘は避けられないらしい。俺はため息を吐いた後にファイティングポーズを取った。
-----作者のひとり言-----
('園')<「いとかちゃーん。なんで銃を使わないの?」
絃翔「そんなもの使って遺跡を傷つけるわけにはいかないでしょ」
常識人だ!
皇都大学工学部建築学科助教授常盤せんせー!
助教授「はい。今日も質問コーナーやりまーす。では五十嵐さんどうぞ」
五十嵐「はいせんせー!ケバブ丼にハマってうめぇさんからお便りです!『ケーカイパイセンとカナタ君ってもしかして同い年?ほらカナタ君って四年生の今給黎と同期だし。むしろ上?』だそうです!浪人頑張ったんだよねぇ常盤くん偉い!」
助教授「うるさい!俺は実質一浪じゃ!結論から申し上げますと、ケーカイパイセンは俺より年上です。ケーカイパイセンも社会人として■■にお勤めした後皇都大学に進学しました。ちなみに円満退職ではありますが、書類送検一歩手前のやんちゃ行為を行っているので、結構ダーティーな人です。不起訴なのでセーフですがね」
五十嵐「へぇそうなんだなぁ。よかったねぇちゃんと気まずくならない先輩がいて。私は嬉しいよ!」
助教授「だからやめて!浪人ネタでいじらないで!お願いだから!堪忍してぇ!」
五十嵐「ちなみに絃翔ちゃんは三月に皇都大学卒業したので、ちょうど入れ替わりです」
助教授「お前、あの人のことちゃんづけなの?」
五十嵐「うん。昔からそうだよぉ。よくお買い物とかいくよーあとお部屋にお泊りに行ったりするんだ。お料理上手なんだよ」
助教授「なんか意外な側面を知ってしまった。では本日はここまで!」
「「またねー!」」




