第184話 お姉ちゃんはつおい(震え声)
俺とファルナーズは葉桐の監視をケーカイパイセンに任せてギョベクリテペ遺跡へと向かった。
「なああれが噂の遺跡か?」
俺は双眼鏡で近くの荒野から遺跡を監視していた。
「そのはずなんですけどねぇ。あそこまでやるとは……侮れないな葉桐ぃ」
双眼鏡で遺跡を覗くファルナーズは歯ぎしりしている。なぜならば遺跡があるはず丘の上には最新鋭のドーム型の建物があったのだ。どうやら遺跡を保護するため、あるいは侵入者を入れないためだろう。
「すごく人が出入りしてるな。だけどチェックが厳しいぞあれ」
丘の上へと続く道全てにライフルで武装した傭兵が検問している。動きからしても只者じゃない。大国の退役軍人を雇ったPMCのようだ。
「あんなのどうすりゃいいんですか?!侵入できっこないですよぉ!もういいです!いまからイスタンブール戻って葉桐ぶっ殺しましょう!」
「落ち着け。どんな砦も隙はあるもんだよ。うん?あれは……ヘリポートか?」
ドームの外にはヘリポートがあった。爆音が響いてヘリコプターがそこへと着地する。中からスーツを着たインテリな連中が出てくる。
「アジア系ですねぇ。あ!学会で見たことある!皇都大学の考古学研究者たちだ!」
「ほう。うちの大学ってことは葉桐の手下たちってことか」
「くやちぃいいいいいい!遺跡がNTRちゃったようぅ。私が先に掘るはずだったのに!」
「色々誤解を招きそうな表現やめろ」
ファルナーズは滂沱の涙を流している。よほど悔しいのだろう。その気持ちは痛いほどわかる。葉桐に寝取られるとかまじでこの世の終わりだもの。
「ん?なんだあの女?カナタせんぱいぃ。あの婆みたいな紫色の髪の女の人知ってます?なんか研究者たちがぺこぺこしてるんですけど」
「紫色の髪?」
俺はファルナーズが見ている方へ視線を向ける。研究者たちが揉みてしながらぺこぺこと紫色の髪の女に頭を下げている。女は背が高かった。ハイヒールの高さを抜いても目算だが175cmは超えてそう。サングラスをして、パンツスーツを優美に着こなしている。あとおっぱいデカい。シャツのボタンを大きく開けて谷間を見せびらかしている。おっぱい!
「知らねぇな。だけどあの偉そうな雰囲気は……」
誰かを連想させる。尊大さがとくに。そしてその時だった。女がこちら側に目を向けた。
「え?うそ!?気づかれた?!あり得ないでしょ!あそこから一キロ以上も離れてるんですよ!」
ファルナーズが驚いている。だけどあの女のサングラス越しの視線は明らかに俺たちに向けられている。そして女はサングラスを外した。狼のような金色の瞳が現れる。そこには意志の強そうな光と、獰猛な影が宿っていた。女はニヤリと笑った。美しい女だが底冷えするような怖気を覚えた。
「あれ?あの女の顔、葉桐に似てません?」
「知ってる……。あいつは……」
俺は彼女を知っている。前の世界。浮気バレ後に何度か会った。俺を蔑むような目で見ていたのが印象に残っている。
「って?!やば?!」
俺が茫然としている間に女はこちら側に対物ライフルを持ってこちらに銃口を向けていた。俺はファルナーズを抱えてすぐにダッシュする。すると先までファルナーズがいた場所に激しく砂ぼこりが舞った。
「ぎゃぁあああ!?あんな口径のライフルをあんな適当な撃ち方で正確に当ててきた?!」
ファルナーズは顔を真っ青にしている。俺だって焦っていた。そして次から次に狙撃される。走り回っているからこそ当たらないが、弾丸はすべて俺たちのスレスレを通っていった。
「びっくり人間め!!」
俺はファルナーズを抱えたまま、崖から飛び降りる。そして下に停めてあった車の上に着地して、そのまま乗り込む。
「シートベルト!シートベルト!」
「あああああ!遺跡ちゃーん!私の遺跡ちゃーん!!」
俺はアクセル全開にして遺跡から遠ざかる。結局何もできずに逃走してしまった。
遺跡の近くの街で俺たちは休憩を取ることにした。荒野に立てたパラソルの下でシートの上に寝そべる。
「ねぇねぇ建築屋さーん」
「なんだい人類屋さん」
「どうやってあそこに侵入するんすか?」
「無★理」
「だよねぇー」
建築のプロから見てもお手上げだった。もっともあの紫色の髪の女に気づかれていなければ、方法がなかったわけではないのだが。
「やっぱり葉桐殺しに行きます?ってかさっきの女って誰なんすか?」
「あいつは葉桐の姉ちゃんだ。葉桐絃翔。仕事は政治家秘書だ」
未来では衆議院議員だった。今の時代は政治家秘書だってことはちょっと前に鯖にゃんから聞いてた。もっともトルコにいるってことは秘書って肩書はあくまでも表向きの物でしかないのだろう。
「私権力者きらいなんですよねぇ。なんかこう偉そうな奴見ると無性に反抗したくなりません?」
「お前は本当にパンクだな」
こいつの性格ほんと終わってると思う。だがともに戦うパートナーとしては心強い。
「実は侵入方法が一つだけある」
「お!さすがハリソン似ですね!どうやるんすか!?鞭とか使って登るとか!?」
「そんなファンタジーなやり方じゃねぇよ。もっとスマートにやる。あれだよ」
俺は空を指さす。そこには飛行機が高度を飛んでいた。
「飛行機?……まさか?!」
「高高度ダイブだ。安心しろ。経験はある」
前の世界で五十嵐の元カレの一人と鬼ごっこしてたときにアフガンの山脈にダイブしてタッチしに行ったことがある。その経験が生きるとは、元カレには感謝しかない(棒)
「私そんな経験ないんですけど!?てかやだ!高いとこ苦手なんですよ!私は地面が好きなんです!空はいや!いやぁ!!」
「覚悟決めろ。お前は大事なもんをNTRっぱなしでいいのか?俺は嫌だね。奪われた者は必ず奪い返す」
「ええ……ああ…そ、そんなぁ」
「安心しろ。ダイブするときはお前を抱えて飛ぶから、お前は目を瞑ってるだけでいいよ」
「なんですかその初夜のアドバイスみたいなの!いやだぁ!初めてはちゃんと相手の目を見つめ合ってやりたいぃ!」
「ファルナーズ。俺を信じろ。大丈夫。気がついたら気持ちよくなってるからよぅ。ひひひ」
「ううっ……優しくしてくださいぃ……」
涙目ながらファルナーズは覚悟を決めた。俺たちは遺跡に乗り込む。たとえどんな障害が立ちはだかろうとも。
---作者のひとり言---
ファルナーズ・アクトール 162 F
葉桐絃翔 178 H
そんな感じでーす!
対物ライフルをくそ雑に扱って1km先の的に当てられる葉桐姉。控えめに言ってもバケモンである。




