第183話 同盟
泊っているホテルにアクトールと戻ってきた。アクタールは入るなり部屋中をきゃきゃと見渡し始める。
「きゃー!ここってスイートってやつですよね!すごーい!常盤さんってお金持ちー!パパって呼んでいいですかぁ?」
「ざけんな。そんな年じゃねぇよ」
アクタールはベットの上に座って艶めかしいポーズを取る。
「常盤さんってぇ。身長6フィートあります?」
「6フィート?183cmだからあるな」
「この部屋泊ってるってことは、収入も6桁ですよねぇ」
「まああるかもな」
「シャツ捲ってくださいよ。6パックに腹筋われてます?」
「当たり前だろ。鍛錬は欠かさない」
「じゃ、じゃあ。あれは?あれは6インチありますかぁ?」
「あれ?……おい」
「6インチ!6インチ!6インチ!」
「まああるけどさぁ。どうなの女の子がそれ口にするの。てかなんで6にこだわるの?」
さっきから言ってることの意味がよくわからない。6が四つあるとなにがいいのさ?
「6の法則知りません?高身長、高収入、腹筋、otintin様の6の法則ですよ。男はこの6を満たしてないとダメなんですよ。常盤さんはごーかくでーすぅ。私の処女あげましょうか?きゃはは!」
「俗物的ぃ。そんな基準で選ばれたくねぇなぁ」
「でも男だって年齢とスリーサイズで女選ぶんだからお互い様でしょ?」
「まあそうかもしれんが」
「人類らしく性的魅力を交換するのが健康にはいいと思いますよぉ」
アクタールはニチャニチャ笑ってる。まあ揶揄われているんだろう。そろそろ本題に入りたい。
「で本題に入ろうか」
「それなら酒くらい飲みましょ。葉桐殺し損ねて私機嫌悪いんです。プンプンなんです。お酒入れて忘れたいですよぅ!」
俺は部屋にあるバーカウンターから高級なウィスキーを持ってくる。
「ロック?水割り?」
「そんなおじさん臭いの飲みたくないでーす。カクテルプリーズ!」
イラ!俺はしぶしぶモヒートを作って、彼女に渡す。
「いいですねぇ。このミントの清涼感ある薫り!じゃあ乾杯!」
「乾杯」
俺たちは酒に口をつける。
「で?お前はなんで葉桐を殺そうとした?」
「はい?ああ、はいはい。私は人類学者です。ハルバルド大学の3年生なんですけど、トルコのとある人類最古の遺跡を研究してたんですよ」
「遺跡?考古学者でもあるのか?」
「いえ。考古学は人類学の一分野でもあります。私は他にも生物学とか分析化学とかも用いてます。人類は何処から来て何処へ行くのか?それを日々探求しているのです」
アクタールはうっとりとした目で語る。学問には誠実なようだ。どこかマッドサイエンティストのような気も感じるけど。
「あなたもインテリ感ありますけど、大学で取った学位はなんですか?」
「いやまだ大学生。皇都大学の一年。建築学専攻」
「え?一年?ん-?どう見ても私より年上ですよね?」
「大学入る前は3年間大工やってた」
「ありゃ。ってことは人生って点では先輩ってことですか?キャー常盤せんぱーい!私は三年なのに一年生の常盤せんぱーい!」
「やめてこれでもけっこう年のこと気にしてるの!弄らないで!」
アクタールは玩具見つけたみたい子供みたいに笑っている。
「話を戻すぞ。トルコの人類最古の遺跡って言うとチャタルホユックのことか?」
「あら。さすが建築学専攻。よくご存じで。ですが違います。私の研究対象はチャタルホユックじゃありません。人類最古の神殿遺跡。ギョベクリ・テペです」
俺は目を見開いた。人類最古の神殿?それは葉桐が成そうとしている祭犠なるなにかに繋がりうる可能性を感じさせた。
「ギョベクリ・テペはすばらしい遺跡です。なにせ農耕開始以前に人類は宗教的背景を持つ権力によって神殿を建設していたんです。もともと定説では農耕以降余剰作物の分配をめぐって権力が生じたとされてきたのにね。国家よりも都市よりも農耕よりも先に宗教があって狩猟で荒野を彷徨う人類を共同体として結んでいたのです。ううん!ロマン!」
難しい話はわからないが、人類史にとってその遺跡はターニングポイントとなりうるもののようだ。
「お前の研究についてはわかったが、それがどうして葉桐を殺すことにつながる?」
「ええ。だからですよ。葉桐宙翔はトルコ政府に働きかけてギョベクリ・テペの発掘事業を独占しました。私の属するハルバルド大学のチームは追い出されました。今は葉桐の息のかかった皇都大学の考古学チームが遺跡の発掘を進めています。ざけんじゃねぇ!」
アクタールは酒を飲み干してグラスを壁に向かって投げる。グラスは割れて辺り一面に破片をまき散らす。
「あの遺跡の謎は私が解くんです!この私を除け者にしやがった!葉桐はぜってぇぶっ殺す!」
やっぱりマッドだぁ。アクトールは怒りに顔を歪めている。今にも銃を持って葉桐に突撃しかねない雰囲気がある。でもこれは俺にとってはチャンスだ。
「なあ。協力しないか?」
「協力?」
「その遺跡の発掘データ。これから盗みに行かないか?」
俺はそう提案した。祭犠に関わる根幹の何かがギョベクリ・テペにはある。ならばその遺跡のデータ。俺らが戴こう。俺一人じゃどうにもならないが、目の前にはそれを解析できる人類学者がいる。それに戦闘力もある。
「へぇ?常盤せんぱーい。イケてますねぇ。まじかっけぇ!いいですねぇ!いきましょいきましょ!」
アクタールはじつに悪い笑みを浮かべている。俺たちは握手を交わす。
「苗字呼びだと共犯者っぽくないですよね。私のことはファルナーズでいいですよ。ファルちゃんでもいいです」
「そうか。俺のこともカナタでいいぞ。みんなそう呼ぶ」
「わかりました。カナタせんぱーい!よろしくね!」
こうして同盟は成立した。俺たちは葉桐の陰謀にこれから挑むのだ。




