第182話 カーチェイス
リムジンにマシンガンから放たれた銃弾が当たる。だが窓は割れない。どうやら防弾仕様らしい。だけどあれだけ沢山撃たれているのだ。いずれは破られるだろう。今葉桐を殺されるわけにはいかない。個人的にはこのまま襲撃に加わりたい気持ちでいっぱいだけど、五十嵐への悪影響を考えると考えるとそんなことは出来ない。
「おらぁ!バイクぅ!ふっとべおらぁ!」
俺はバイクが嫌いだ。前の世界で五十嵐の元カレの一人が俺をバイクで弾こうとした。もちろん避けようと思えばよけられたが、そいつは近くにいた子供をターゲットにしたのだ。俺は子供を庇ってバイクに轢かれて吹っ飛ばされて体を強く打ち三日間も寝込み、一週間も入院する羽目になった。だからバイクに容赦はしない。俺はアクセルを思い切り踏んでバイクに迫り、思い切り跳ね飛ばした。
「すとらいくぅうう!!」
バイクは宙を舞い近くのガードレールまで吹っ飛んでぶつかりそこで爆発した。第三者は巻き込まずに済んだ。死んだのはドライバーの女だけ。だと思った。ぼんっと天井から音が鳴った。俺は嫌な予感がして思い切りハンドルを横にきった。ごろごろと音がしてフロントガラスの方にスカーフを被った女が落ちてきた。そいつは窓枠に手をかけて必死に体を支えていた。
「くっそ!とんでも人間出てきたのかよ!」
そのまま俺はジグザグに車を動かして女を振り落とそうとした。だけどなかなか落ちない。そして気がついたら、リムジンが十字路で曲がっていった。
「あ。逃げたのか」
殺させないためにやったとはいえ、逃げられたら逃げられたで腹が立つのが葉桐クオリティ。俺と女だけが残された。そして後ろからパトカーの音が響いてきた。
「やべ。騒ぎになっちまった」
俺はアクセルを踏み込み、パトカーを撒くことにした。その隙を突かれて、フロントにいた女が器用に助手席に伝わってきて、俺の隣に座ってきた。
「てめざけんな!とっとと降りろ!」
反射的に日本語で怒鳴ってしまった。英語に切り替えよて言い直そうとしたときだった。
「あれ?日本語ですかぁ?私日本語めちゃくちゃできまーす!うぇwwっうぃwww」
女は日本語で返してきた。
「ああそうかよ!じゃあとっとと降りろ!サツに追われてんだよ!身軽にしたい!」
「まあまあ旅は道連れっていうじゃないですか。軒先貸してくださいよ。いっしょに逃げましょ?」
「くそ!シートベルトしろ!飛ばすぞ!」
「りょ!」
女はシートベルトをして、俺はアクセルを全開にする。信号なんて無視の無視。一般市民は轢かないように、だか捕まらないようにひたすら市街地を飛ばす。そして激しいカーチェイスの末に俺たちは警察を撒くことに成功した。
イスタンブールの郊外にて、乗ってきたタクシーからガソリンを抜いて、車体にぶっかけて火をかけた。
「証拠隠滅手慣れてますね?でも日本人?ほんとは日本人のふりしたアメリカのCIAのイリーガル工作員とかじゃないんですか?」
スカーフにサングラスの女も燃える車体に持っていた銃を捨てる。さらにスカーフとサングラスも脱いで、火に投げ込む。曝された女の顔立ちは美しかった。エキゾチックで蠱惑的な甘い顔立ち。コーカソイド系だが、このトルコの人間ではなさそう。髪の色はオレンジ色でまるで太陽のようだ。同じく瞳もオレンジ色でキラキラと輝いている。
「おまえこそどこのだれだ?なんで葉桐を狙った?」
女はニヤリと笑う。小悪魔的で可愛いけど、やったこと考えると笑えない。女は歩き出す。
「おい。待て」
「ここにいたら警察に捕まりますよ。歩きながらお話しましょ」
随分とマイペースだ。俺は女に横について一緒に歩く。古い市街地を二人で歩いていく。
「名前教えてくださいよ。せっかくデートしてるんですから」
「これデートなのかよ。常盤奏久。日本から来た」
「え?まじで日本人なんですかぁ?ハリソン・フォードに似てるからアメリカ人だと思ってました」
女は本気で驚いているようだった。どうやら俺は外国人には日本人に見えないらしい。
「まあいいですけど。私はファルナーズ・アクタール。ペルシャ人の天才人類学者でーす」
「自分で天才とか言っちゃうのかよ。てか人類学?なんでそんなやつが葉桐を殺しに来るんだよ」
「あーそれ聞いちゃう?聞いちゃいます?!でも残念!好感度がたりませーん」
なんかウザい。
「あなたは何で葉桐守ったんですか?あんなくずは死んでもよくないですか?」
「その意見には同調するが、今殺されるとすごくまずいんだよ。だから護った。はぁ。護りたくなかったのに」
まじで俺の心は寂寥感でいっぱいだった。何この虚しさ。葉桐くぅんとか死ねばいいのに、この俺が守る羽目になるとかほんとこの世は理不尽だと思う。
「へぇたいへんそうっすね!」
「そうだよ。大変なの。で、まだ襲撃する気?」
「いや。暫くはしません。相手も貝のように殻に引きこもるでしょう。そういうのを殺すのは難しいです。私は頭がいいのでリスクを犯しません」
「さっきの殺し方は滅茶苦茶頭悪かったけどな!」
やり方がギャングのそれだった。こいつ絶対にこういうことするの初めてじゃないよ。だがこの子が葉桐を襲った理由は気になる。ここトルコに来てから事態が急展開してる。この国には重要な何かがある。
「なあ情報交換しないか?」
「ん?交換ですか?」
「俺は葉桐が進めている陰謀を掴むためにこの国に来た。お前だって似たようなもんだろう?」
「まあそうですけど」
「俺が借りてるホテルがある。静かだからちょうどいい。休憩もできる。来いよ」
俺がそういうとアクタールが両手で自分を抱いて舌をペロッと出す。
「すみませーん。わたしー婚前交渉禁止系可愛い女子なんですぅ。先進国の尻軽女さんたちといっしょにされたくないみたいなぁ?」
「街中でマシンガンぶっ放すような女に手なんか出さねぇよ!」
「でもぉ私ぃ可愛すぎるしぃ。ぜったい間違い起きちゃう……きゃは!」
「ああもう!腹立つ!とにかく俺の部屋に来い!紳士的に扱ってやるよ!」
「私には手を出す魅力がないってことですか?!ひどい!この女の敵!」
「だから女の子のダブスタは嫌いなんだよ!黙ってついてこい!」
俺は歩みを進める。アクタールも俺の後ろを飄々とついてくる。これが俺たちの出会いだった。




