第181話 トルコアイスのパフォーマンスをデートで堪能したい
俺はトルコのイスタンブールに降り立った。すぐにホテルにチェックインしてから荷物を置いて、ケーカイパイセンのいる金融街へと向かった。大きなビルの前、路上販売のお店の前でトルコ人美女二人を両脇に侍らせているケーカイパイセンを見つけた。
「異国の地でも通常運転ですね」
「お?カナタか。早かったな!ぎゃはは!」
ケーカイパイセンはお店のアイスパフォーマンスで遊んでいた。なかなか掴めないアイスに女たちときゃきゃしてる。そして苦闘の末にアイスのコーンをゲットしてケーカイパイセンたちは三人で一つのアイスをぺろぺろと舐める。なんかエロい。
「葉桐がこの国にいるのも不思議ですけど、あんたもなんでここにいるんです?」
「ん?いやぁインドで悟りを開こうとしたんだけど、うまくいかなくてな!それで腹減ってケバブ食いたくなってトルコ行くことにして、どうせなら陸路で行こうと思ってパキスタンからアフガン行って、そこからイラン行って、ここまで来た」
「よくアフガンなんて通ってこれましたね……」
就活系意識高い奴ならインドにはいくだろう。だがアフガンにはまず間違いなく行かない。
「途中でケシ畑通っちまって、現地のギャングどもに追い回されたのはいい思い出だよ。ぎゃはは!」
ケーカイパイセンはけろりと語るが、まともな神経じゃない。まあこの人の前職を考えればできなくもないんだろうけど。
「まあ世界の闇は見ておきたかった。日本にいるとボケちまうが、世界ってのは生きていくだけで大変なところだって意識しておかないと、日々に感謝して生きられないからな」
女たちとアイスをぺろぺろしながらだが、カッコイイことを言う。だから俺はこの人が好きなんだと思う。
「で、葉桐はどこに?」
俺がそう言うとケーカイパイセンは近くの大きなビルを指さす。
「ああ、あのビルだ。下調べはしておいた。トルコの政府機関のオフィスが入ってる。そこに出入りしてるみたいだ。会った奴は与党の議員や高級官僚、この国のフィクサーみたいな豪華な顔ぶれだ」
「陰謀やってんなぁ」
「みたいだな。だけど目的がわからんのよ。経済権益って感じじゃない。官僚たちの専門は研究行政とか文化保護とかなんだよ」
「文化や研究?ますますわかんないっすね。この国は歴史的に東西の文化が交わる場所だから、優れた文化財はあるんだろうけど」
「だが骨董品の類を欲しがるようなやつじゃねえよな葉桐は。あいつに藝術や文化の薫りを楽しむような品性はねぇ。考えてるのは世俗の権力だけだ。そしてあいつは合理主義だ。だからここには権力へのヒントがあるのは間違いない」
ケーカイパイセンは軽蔑で顔を歪めている。この人も葉桐を嫌っている。葉桐率いる生徒会系サークルと、葉桐の傘下に入るのを良しとしないサークルの調停なんかで散々苦労しているらしい。大学のフィクサーも楽じゃない。
「お!?出てきたぞ!」
ケーカイパイセンの視線の先にビルのエントランスから出てきた葉桐の姿があった。高級スーツを纏ってはいるが、手や足に包帯をグルグル巻きにして杖をついている。葉桐はトルコ政府関係者らしき人物と握手を交わしてから、目の前のリムジンに乗ろうとしていた。その時だ。
「「っ?!!」」
背中にドライアイスが張り付くような痛い冷たさを覚えた。すごく鋭い殺気だ。葉桐から出ているのかと思って奴のことを見てみるが、当の葉桐は落ち着いた様子だった。俺たちのことはまだバレてない。じゃあ誰の殺気だ。俺とケーカイパイセンは周囲を見渡す。葉桐のリムジンの後方に一台のバイクが路肩に停めてあった。その傍にスカーフを被ってサングラスをつけている女がいた。もう夏なのに長袖のコートを着ている。その女は葉桐がリムジンに乗ったのを見てから、自分もバイクに跨った。
「カナタ……。あれ絶対ヤバいぞ!」
リムジンが走り出すと同時にバイクも走り出す。徐々にバイクは距離を詰めていく。俺はすぐに近くに停まっていたタクシーに近づく。俺を客だと思ったのかドアが開いた。だが俺は運転席側に回り込んで、運転手をタクシーから引きづりだす。
「Ne yapıyorsun? Hırsız mısın?」
トルコ語で運転手は喚いたが、すぐに懐からドルの札束を何個も取り出して運転手に渡した。高級な新車が5台は買える金だ。
「これは貰っていくぞ!」
俺はタクシーの運転席に乗り込み発進させた。運転手は笑顔で手を振った。そして。葉桐のリムジンと女のバイクを追いかける。バイクはリムジンの横についた。そして女は懐からサブマシンガンを取り出して、リムジンに向かってフルオートで発砲したのだった。




