第175話 花火
日が沈み始めた頃、俺たちは花火を用意し始めた。浜辺で花火。いとリア充。
「花火散る。俺の心はは。燃え上がる」
詩になってんのかはわからないが、俺は車から花火を持ってきてうきうき気分だった。そんなときだった。五十嵐とすれ違った。彼女は俯いてもじもじしている。
「どうかした?」
「あー。その。えへへ。うーん。そのぉ」
言葉が上手く編めないらしい。でも頬は赤くほんのりと染まっていた。なにか大事なことを言おうとしている。だけどこのまま待っても意味のある言葉は出ない。そんな確信があった。
「ちょっとみんなのいないところで聞くよ」
俺は五十嵐の腰に左手を回す。そうすると五十嵐は控えめに頷いた。俺たちは寄り添いながら浜辺を歩く。
「今日はとっても楽しかったなぁ。面白い写真いっぱい撮れたよ!」
「じゃああとでシェアしよう。俺が印刷するよ。アルバムにしたらいい」
「ほんと?嬉しい……」
他愛もない会話。劇的な展開はない。だけどこの時間が愛おしい。俺たちは皆から離れた砂浜で二人並んでしゃがみこむ。五十嵐は俺のことを優し気に見詰めている。
「花火しないの?」
「そうだね。しようか」
俺は花火の一本を五十嵐に渡す。俺も一本持ってそれらにライターで火をつける。
「きれい……」
「ああ。きれいだね」
淡い光が俺たちの顔を照らす。ぱちぱちと弾ける火花が可愛らしく思えた。
「でもすぐに終っちゃう。一瞬だけ」
「だけど繰り返すことは出来るよ」
また新しい花火に火をつける。少し熱を感じた。それは火花だけではなく。隣の五十嵐の身体から感じるものでもあった。
「ねぇこうしたら長持ちする?」
「かもしれないな」
五十嵐がそっと花火を俺の花火に近づけてくる。俺もまた彼女のやつに近づける。二つの火花は重なった。より激しく燃え上がり辺り一面を光に染め上げる。
「砂浜で花火するのはじめてなの」
「そうか。そうなんだ」
「うん。だからはじめては常盤くんがよかったの」
彼女は艶やかに笑う。その笑みにはきっとどんな男も魅了する美しさと可愛らしさがあった。だから俺も例外じゃない。俺は優しく彼女の唇に触れる。
「ちゅ……ねぇ。私たち何処まで行けるのかな?」
それはとても曖昧な問いだった。
「この花火みたいに一瞬で燃え上がってお終いかな?でも私はそれでもいいよ」
だけど俺は一瞬なんて嫌だと思った。だっては火は本当は一瞬じゃ終わらない。俺は燃え尽きそうな花火にもう一本足した。
「火は終わらないよ。こうやって続くんだ。俺たちが続けたいって思い続けるならば」
俺なりに答えは示したつもりだ。
「たとえお前が自分を呪い続けてもだ」
五十嵐はそれを聞いて曖昧な笑みを浮かべて目を伏せる。呪いとはなんだろう?呪われたと言った。だったら呪った者は誰だったんだ?俺はそいつを許すことは出来そうにない。俺たちは花火の様に思いを燃やす。だけどその火種は何かに燃え移って燃え続ける。そうさせるのだ。俺はそう誓う。五十嵐と俺の火を俺は絶対に絶やさない。
予告
今宵はようこそお越しいただきました!この物語の語り部を務めさせていただくアルルカン・阿国です。
この物語はなかったことになってしまった世界の断片に過ぎませんが、皆さまの心に強く刻まれんことを祈り奉ります
俺はただただぼーっと見詰めていた。
顔の深い傷の痛みさえ忘れて。
二対の蝶のような羽を纏う巨人の肩に灰色の烟るような髪色の女が立っていた。
圧倒的な力で敵を殲滅した彼女は戦場を悲し気な目で見詰めていた。
皆が彼女を女神と呼ぶ。だけど俺には一人の女の子に見えたんだ。
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これは人に焦がれた女神が堕天する神話。
そして彼女が償いきれないほどの罪を犯す呪いの物語だ。
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女神を護る巫女騎士
「ボクは君を補完するために生まれた騎士だ。だから必ず君を守り切る。だけど願わくば……他の夢も見てみたかったよ」
世界を救う勇者たる王子様
「僕は必ず理織世を護り人類に勝利を齎す!」
呪いの物語を読むことしかできない賢者
「うちは何も選べない。ごめんねりり。すべてを押しつけてしまって」
「私は宇宙卵を発見し、女神を観測した瞬間にその名を思いついた。理をもって世界を織る。だから理織世。そう名付けた」
「だから女神よ。世界を救っておくれ。我が娘。お前がすべての人を救うのだ」
仮面の王様
「現世の救済なんて俺は認めない。俺たちはこの世界で生き続ける。たとえどんなに苦しくてもどんなに辛くてもいくら繰り返しても世界を愛し続けるんだ」
よめうわ・シーズン -1
天彁神謡集 ディンギル・リル
いつか公開予定!!
--作者のひとり言--
彁って字は幽霊文字というやつです。
唯一意味を持たない漢字だそうです。




