第168話 波のトンネル
俺がBBQ会場に戻ってくると、波打ち際で女子たちと水かけっこして遊んでいた五十嵐がパタパタと傍に寄ってきた。
「常盤くーん!戻ってきたんだ!それ何?なに?!」
俺が持っているボディボードを見て五十嵐がワクワクと目を輝かせている。
「ボディボードだよ。やってみるか?」
「うん!やってみたい!」
俺は他の荷物を置いて、五十嵐と共に海に入る。そしてある程度の深さのところまで行ってから、ボディボードを水面に浮かせる。
「これで波に乗るんだ」
「それで立てばいいの?」
「別に立たなくても面白いよ」
俺はボードを抑える。そこに五十嵐が手を突いてボードの上に乗っかる。そして俺は波の様子を見て、高い波が来た時にボードを押した。
「きゃあ!わー!速い速い!!」
ボードに乗った五十嵐はそのまま波打ち際まですーっと波に乗っていった。そして砂浜に届くとこっちに手を振って笑顔を浮かべていた。俺も手を振って笑う。
「これ面白い!もう一回!もう一回!」
五十嵐は俺のところに戻ってきて再び波乗りする。すいーっと進む五十嵐はまるで人魚のようだ。
「気持ちいい!ねぇ常盤くんもやってみてよ!」
傍まで寄ってきた五十嵐は俺にそう言った。だから俺はボードの上に乗っかり、そして五十嵐の両脇に手を差し込んで持ち上げてお姫様抱っこする。
「きゃ!常盤くん?」
「くくく。真の波乗りを見せてやるよ」
俺はそのまま波が来るのを待ってボードを走らせる。そして波に乗り、砂浜と平行になる様に進む。
「わー!すごい!すごい!きゃ!まえまえ!波に飲み込まれちゃう!」
「大丈夫。おりゃ!」
波がトンネルを作るように落ちてくる。俺たちのボードはその中をすいーっと進んでいく。
「わぁ!波のトンネルだぁ!」
俺たちは波が作ったトンネルの中を進んでいく。そしてトンネルが終わったところで、俺はボードの先をビーチに向けて、砂浜まで戻った。
「なんかすごかった!もういっかい!もういっかいやって!」
「いいよ」
俺たちは再び海に入り、深いところへ行く。そして例によって俺が五十嵐をお姫様抱っこしてボードに乗り波に乗る。すいーとボードは波の上を進んでいく。そして高い波を捕まえて、そのトンネルの中を進む。
「キラキラしてる…素敵だね」
五十嵐の瞳の波のトンネルのきらめきが映っていた。そしてその瞳が俺の顔に近づいてきて。俺は五十嵐にキスされた。
「ちゅ。んっ」
「……っあ」
波のトンネルは俺たちだけの世界だった。そしてトンネルを抜けるころ、五十嵐は俺から唇を放した。俺たちの視線が交じり合う。俺は彼女の瞳に夢中だった。それが駄目だった。
「あっ!」
「きゃ!」
俺はボードの制御を失った。ボードはがくがく揺れて俺たちの身体を海に投げ出した。
「ぷはぁ!五十嵐?!大丈夫か!」
「もう!常盤くんのへたっぴ!うふふ。あはははは!」
五十嵐は俺の胸に寄り添いながら俺の失敗を笑っていた。その笑顔はきっとダイヤモンドよりも輝くきらめきを持っていた。俺たちの夏はまだ終わらない。




