第162話 サウダージ・サンバ篇
スオウが取り出したのはギラギラに輝くTバックのパンツ、それと羽がいっぱいついているチョッキと頭飾り。
「……なにそれ?」
「サンバの衣装だ!」
「誰が着るの?」
「無論、カナタが」
俺はあんぐりと口を開けて体を硬直させてしまった。言っている事の意味がわからない。
「安心しろ!私モ着る!」
そして近くのコンビニ引っ張られて、トイレで俺たちはサンバの衣装に着替えた。着替えてしまった。
「オーレ!!!」
サンバの衣装に身を包んだスオウはセクシーで綺麗だった。ギラギラに輝いているが豊満なのにくびれている綺麗な腰のラインが本当に美しい。大きなおっぱいが羽飾りと共に揺れる揺れる。対して俺はというと、乳首を曝した羽飾りのチョッキに頭にも羽がいっぱいついた謎の髪飾り。そして下半身はTバックのパンツ一丁。とってもセクチーです。
「さァ!サウダージヲ身ニつけよウ!」
スオウは道玄坂をサンバ独特のステップを踏みながら降りていく。
「俺もやるの?!」
「アたりまエだろウ!さぁ!」
俺はスオウの横に立ち彼女の真似をしながらステップを踏み踊る。道行く人たちが俺たちを怪訝な目をしながら避けていく。
「ふン!ビビッてるビビッてる!」
「そんなビビるに決まってるわ!」
スオウさんがメッチャオラついてる。近くにギャルが通りかかれば、挑発的な笑みで彼女たちの周りをまわりながら踊り。コンサバ的な女子が通れば目の前に立ちはだかったりする。はた迷惑すぎる。
「これ本当にサウダージなんですか?」
その質問にスオウは曖昧な笑みを浮かべてスルーする。本当に大丈夫なの?!そして俺たちは道玄坂を踊りながら下っていく。そんなときだ。
「はーい。みなさん今日は道玄坂に来ております!ボクが普段行ってる様々なスポットを紹介するのでぜひチャンネルはそのままで……えぇ?!」
俺たちがすれ違ったのはなんとミランとテレビクルーの人たちだった。カメラマンが俺たちのことをデカいカメラでじーっと撮影している。
「ちょ、ちょっとぉおおお!え?!カナタ君?!スオウさん?!なにやってるのぉおお!?」
俺たちは立ち止まるがステップは続ける。だけど俺は恥ずかしくなって右手で胸を隠し、左手で股間を隠した。
「見てわからンのか童貞女?これハサンバです!」
「そんなの見ればわかるよ!?そうじゃないよ!何でここで!!どうしてそんなことやってるのか聞いてるの!!」
「それハサウダージノためだ」
「意味わかんないようぅ!」
ミランが頭を抱えている。テレビクルーたちも俺たちの突然の登場に動揺しているようだ。
「てかカナタ君。その恰好……」
「やめろ。あえて口に出すな」
ミランが俺の股間と雄っぱいを凝視している。そしてめっちゃ舌なめずりしていた。
「……やっぱり恥ずかしいの?」
ミランは生唾をごくりと飲み込んだ。頬が上気して赤くなっている。心なしか呼吸も早くなっているように見える。
「なンだ童貞女。お前もサウダージしたイのか?衣装なら余っているぞ」
「そ、そんな誘いにボクが屈するわけ……」
「ならこの街ノ視線ハすべて私ノ物だ」
「ううぅ……がぁ…ん……ふぃ!」
ミランが身悶えている。両手で体を抱いてくねくねと体を震わすさまがいとわろし。
「着てもらってかまいませんよ」
そんなミランに助け船を出す奴がいた。テレビクルーの中からカーディガンを肩にかけたいかにも業界人っぽい人が出てきていう。
「テレビは面白ければ何でもありなので」
「このマスゴミがぁ!!」
俺は怒りに震えた。ミランの目はキラキラ輝いている。スオウから衣装を受け取ると近くに止めてあったテレビクルー用の車に乗り込んでしまう。そして暫くしてミランがでてきた。
「ど、どうかな?かわいい?」
「……かわいいよ。うん。かわいいんだよ。おまえはとてもかわいいな」
俺はもうやけっぱちである。バカがもう一人増えた。
「ありがとう……くぅう!でもでもぉ!みんなが見てるようぅ!!あぎゃ!ひひ!」
ミランがくねくねしながら蕩け顔になった。もうひゃくぱー自分のためじゃん。何してんのこいつ。
「では三人でこのまま渋谷の街の紹介をしましょう。カメラ!証明!きっちり撮れよ!」
「「「応!!」」」
マスゴミ共が気合入れてる。そして俺たちはサンバのリズムで踊りながら渋谷の街をカメラクルーと共に練り歩くことになったのだ。
ほんとマスゴミってさ糞じゃね?視聴率さえあれば何でもしてもいいって思ってやがる。前の世界じゃそれでときたま夫婦の時間が削られる羽目になったし、俺なんか五十嵐と結婚してからたまに取材なんかが来て糞うざかった。今もカメラは俺たちを撮っている。俺のきわどいお尻をまるで舐めまわすように。
「いいですねぇ。女性視聴者これ絶対に濡れてますよ。いい」
ディレクターさんがモニター見ながら頷いていた。そこには俺のギラギラ輝くTバックの尻が映っている。俺の羞恥心はもう限界だよぅ!
「我がオブリガータ社ハ現在『プリンセス・ネモレンシス』ノ第三章ヲ絶賛配信中だ」
「ボクも声で出演してます!よろしくお願いします!」
女子二人はサンバのリズムを刻みながらインタビューに答えていた。ちゃっかり自分のビジネスを紹介するあたりスオウさんまじで悪徳商人。ミランはミランで自分の仕事を紹介するあたり一端の芸能人だ。だけどあの二人の踊り本当にセクシー。腰の振りで男心を煽る煽る。道行く男たちがみんな彼女たちの姿に足を止めて夢中になっている。ついでに俺のことを見てもいるわけで心臓がふっとぅーしそうだようぅ!そして俺たちはハチ公前までやってきた。
「では即興で歌います!王様のサウダージ!!」
ミランが歌いながら即興の振り付けで踊る。俺たちもまたサンバのスタイルを維持しつつもミランに合わせて踊る。
王様のサウダージ 歌詞 園業公起
ねぇ王様。今日も甘い甘いお菓子を下賜してください。
ねぇ王様。私の愛を上奏してもいいですか?(Eu te quero)
私はかつてはお姫様。王子様を待つ様は何様だったのかしら?
でも王様に出会って変わったの。
ぎゅっと私を支配して。
姫は秘めごとを胸にしまって、道化になって王に尽くす。
見返りなんていらないの。だから王様、私をぎゅっと支配して。
ねぇ王様。今日も甘い甘いお菓子を下賜してください。
ねぇ王様。私の愛を上奏してもいいですか?(Eu te quero)
ミランの甘い歌声の中で俺は何かを思い出していた。それはかつての甘い愛の日々の記憶。彼女がまだ俺の隣にいた頃の思い出。俺は涙を一筋流す。
そうか、これがサウダージか。
そして即興ミニライブが終わった。見ていた人たちからは拍手喝采だった。
「スオウ。俺、サウダージを掴んだ気がするよ」
「そウか。なら良かッた」
スオウは微笑む。俺もまた笑う。こうして修業は終わったのである。
「っということがあったんだ」
「……控えめに行っても馬鹿ね」
綾城さんの目が白い。そして彼女はスマホを弄りだす。
「あ、動画アップされてるわね。すごい。一億再生?!」
「はぁ?なに?!どういうこと?!」
スマホの画面を見ると俺たちのサンバの動画がアップされていた。しかもテレビ番組の公式チャンネルで。
:この腰振りで童貞か('ω')
:もうこれ精神的非処女だわぁ(*‘ω‘ *)
:童貞ビッチwww
ミランへのコメントが圧倒的に多い。
:隣の黒髪の外人さんがすごく可愛い。
:その人ベンチャーの女社長だぞ
:腰つきがエロい
:おっぱい
次にスオウへのコメント。そして。
:男の尻が一番エチチすぎるの草
:顔がハリウッド系反社なんだけど
:うーん。これはスポンサー激怒ですね!
やめて。反社って言わないで。泣いちゃうよ?
「エディレウザがバズってるわね。素敵。次やるときはあたしも誘ってね」
「もう次は絶対にやらない!やらないからな!」
後日になってダメージ返ってくるとは思わなかったよ。俺はサンバしない。見るだけでいい。そう決めたのだった。




