第161話 サウダージ・ノーギ篇
伊角家とのバトルを終えた後、俺たちはミランの実家へと向かった。その帰り道で綾城が声をかけてきた。
「さっきの蹴り、すごかったわね。カポエイラ?エディレウザから習ったの?」
「……ああ。あいつから習ったんだ……そう。習ったんだよ、ブラジルのサウダージと共にな……」
「はい?サウダージ?」
綾城は首を傾げている。俺は遠い目で空を見詰める。
「ああ。あれはとても辛い修行だったんだ……」
俺は思い出す。スオウからブラジリアン柔術とカポエイラを習ったあの日のことを……。
小ネタ「サウダージ」
俺はスオウにお願いして自分を鍛えることにした。未来の経験で戦闘技能は高い方だと思っていたけど、スオウみたいな奴と戦って自分の至らなさを知った。だからこそ鍛えねばならぬ。そしてやってきたのは渋谷。
「で、何処で鍛えるの?」
「こっちだ」
スオウに引きずられて渋谷のスクランブル交差点を歩く。ブラジリアン柔術とカポエイラを習うにあたって、スオウは場所取りもしてくれた。それが渋谷だそうだ。そしてやってきた円山町。
「公民館とか?」
「いや違う。ここだ!」
スオウの指さす先にあったのは……。ラブホ……。
「帰っていい?」
「何ヲ言ウ!強くなりたイのだろウ!」
「いや、ここどう見てもラブホやんけ」
「カナタ。寝技で絡み合ウのとセックスするのも似たよウなものだと思わなイか?」
ドヤァって顔しているスオウさんが絶妙にうぜぇ。
「全然ちげーよ!」
「違くなイもン!私も入ッてみたイ!ヒメーナとは入ッたくせに!私の誘いを断って郊外のオ城行くなんて!」
あの日のことを蒸し返されるなんて思わなかったよ。
「なんでバレてるのぉ!ねぇ!女子のネットワークぅ!井戸端会議マジでやめろ!井戸枯らすぞ!」
「ちャンとじューじュつするからァ!ねェッてばァ!」
そのまますごい力でラブホの入り口に引きずられていく。
「ぎゃあ!手が折れるぅうう!」
「さァイこう!」
そのまま俺はラブホテルに引きずり込まれてしまったのだった。
ラブホの中に入ってスオウはあちらこちらを興味津々に物色していた。
「ベットがでかイ!アはは!」
ベットに寝そべってゴロゴロするスオウが可愛くないと言えば嘘になるのだが、柔術を教える気は本当にあるのだろうか?
「じャア、シャワーヲ浴びてくる」
「必要なくない?!柔術だよね?!」
「でも外熱くて汗かイてる。これからいっぱい絡み合ウのに恥ずかしイ……」
そんな乙女っぽいこと言われても困る。てか絡むっていうのやめろ。どこぞの業界用語みたいでやだ。そしてスオウはシャワールームに入ってしまった。てかここスケスケなのでシャツとか脱ぐとこがバリバリ見えるの超困る。スオウは下のタイトスカートから脱いだ。黒タイツに包まれた白系のパンツが鮮やかに見えてしまった。俺は目を反らす。これ以上は自制心が持たない気がする。黒タイツと白い肌の境目なんかすごくほんとセクシーだもの。目に毒だ。
「やァ!オ待たせだな!」
そしてスオウはシャワールームから出てきた。ちゃんと黒帯締めた道着姿で。
「まともなカッコで出てきた?!」
「なンだ?脱イでもイイんだぞ?」
ニチャニチャした笑みが悪戯っ子のようだ。俺はスオウに揶揄われてしまった。でもそれが悪い気分ではない。俺もシャワーを浴びて白帯の道着に着替える。そして俺たちはベットの上に正座する。……いや、なんだこれ?すごくシュール。
「でハこれより修行を始める」
「あ、はい」
スオウの目は戦士のそれだった。ちっともそこに邪心はない。
「ブラジリアン柔術ハ寝技が主体だ。お前の格闘スタイルに合わせると、補助的活用になると思ウ。だから私ガ厳選した技ヲカナタにかけるので身体で覚エろ」
「教え方もまともだ?!」
「ではイくぞ」
スオウの手がさっと伸びてくる。そしてあっと言う間に俺の襟と左手の袖を掴んで技をかけてくる。
「ぎゃあぁああああ!!」
あっと言う間に俺は動けなくなってしまった。スオウの膂力もあるが、同時にブラジリアン柔術が培ってきた『理』の深さに俺は縛られてしまったのだ。
「こウやッてかけるんだ」
「ぎぶぎぶぎぶ!」
「ん?give?もッと欲しイのか?」
さらに別の技をかけてくるスオウちゃんの顔にはSい笑みが張り付いていた。
「give up!って言ってんだよ!」
「Eu não entendo o inglês!」
「ぐゃあぁああああ!!」
スオウの教え方はスパルタンだった。さすがは修羅の国ブラジルといったところなのか。そのまま暫く俺はひたすら技をかけまくられた。
「はぁはぁはぁ」
「下ガベットでよかッた。床なら十回ハ締め落してイるだろウ」
「結果的にここでよかったのがなんかムカつくんだけど!?」
スオウさん容赦がまじでない。ラブホで良かったとかこんな風に思うなんて初めてだよ……。
「ではここで基礎編は終了する」
「今ので基礎なの?!言って一時間以上も技掛けられまくったんだけど?!」
「だが身にハつイただろウ?」
「まあ覚えられましたけどね」
修羅過ぎてなかなかきつかった。
「では実戦編ニ入る。これからノーギを行う」
「ノーギ?!それは一体……?!」
響きから言って奥義のような感じがする。俺は期待感に胸がドキドキし始めた。するとスオウは真顔で帯を緩めて道着を脱いで下着姿になった。淡いグリーンの清楚な感じなのに表情は淫靡に過ぎる。
「ぶっ!?なんで脱ぐのさ?!」
「no-gi!なンだから脱ぐのハ当たり前だろウ」
「ノーギ……no-道着…。no-着?!なにそれ?!」
(筆者注:ノーギはマジであるよ!まあシャツと短パン着るんだけどね!)
「さア。カナタも脱ぐンだ……」
舌をペロリと舐めながら俺にじりじりと寄ってくるスオウ。俺は両手で体を抱きしめる。
「そ、そんな破廉恥なこと!」
「イイからぬげェ!」
「きゃあああああああ!!」
スオウの手によって俺の胴着はびりびりに引き裂かれてしまった。俺はパンツ一丁になってしまう。そしてスオウが俺の両足を掴み、彼女は俺の上に覆いかぶさってくる。
「イイ顔だなァカナタ!」
「だめぇ!」
そして彼女はそのまま太ももを俺の足に絡めてくる。生で触れるプルプルのお肌が心地よいのに、がっちりと組まれて身動きが取れなくなった。
「ぬぎゃあああああああ!!!」
「ノーギハ相手ノ服ヲ掴まずニ絡めとるンだ。だから公民館でハ出来なかッたンだ。ここでなければ恥ずかしくてできなイ」
頬をほんのりと赤く染めてスオウは言う。だけどこいつ絶対に嘘ついてるはずだ。多分ノーギとはTシャツ短パンとかでやるんだろう。下着のはずがない。
「まだまだだ!」
そしてさらに技をかけてくる。俺の背中から掴みかかり首と肩をがっちりとホールドする。頭にとても柔らかい二つのふくらみを感じた。お…っぱ…い…。なのにちっとも嬉しくねぇ!そして俺はそのままスオウ流ノーギによってひたすらに責め続けられたのである。
ラブホを出た頃には俺はブラジリアン柔術のコツを体感したことを体で理解した。
「楽しイ稽古だッたな」
お肌つやつやのスオウがにんまりとだらしない笑みでそう言った。俺から精気でも吸ってるのか?このノスフェラトゥ、本当に恐ろしい!
「では次はカポエイラだが」
「出来れば痛いのは嫌だなぁ」
「私ガ本気ノカポエイラデ蹴ッたらカナタでもただでハ済まなイぞ」
「それはよく理解している!」
この間蹴っ飛ばされた時は往年の暴力系ヒロインに吹っ飛ばされる鈍感主人公並みにぶっ飛ばされた。そんな目に何度もあいたくない。
「だからカポエイラノ神髄ヲ私なりニ伝エようト思ウ」
「神髄?」
「それはサウダージだ」
「サウダージ……」
日本語には訳しづらい言葉の一つと言われている。あえて言うならば郷愁とか憧れとからしいが、日本語を母語にする俺には理解がしづらい。
「だからサウダージを学ぼう」
そう言って、スオウはバックから何かを取り出す。それは……。




