第160話 神の計略を歪めるヒトの営み
ミランのママの周囲に男たちが集う。彼らは皆俺に戦意を向けている。
「綾城!楪とムーちゃんを頼む!」
「まかせて!」
俺は男たちに向かって駆けだす。まず一人目はストレートの顔面パンチ。襲い掛かってきた二人目をハイキックで仕留める。
「おんや。やはりやるねぇ。おまえたち。同時にかかりな」
男たちは連携を取って俺に同時に殴りかかってくる。だけど無駄だ。俺は一人の手を握ってすぐ横のやつに向かって思いっきり振った。二人の男はそれでもみくちゃになって砂浜に倒れる。その後も順調に男たちをバシバシとぶちのめしていく。数なんて俺には関係ない。戦力は量よりも質である。
「はぁ。やっぱり駄目かねぇ。全く……。王とはこれほどまでに厄介なのか……」
ミランのママは額に手を当てて嘆いている。だけどそこには焦りの感情は伺えなかった。
「なんだ?なんであんたは余裕なんだ?」
「ここのわっぱどもを当てにはしとりゃせんわ。前座はここまで。パパ。やっちゃいな」
「わかった」
後ろから声が聞こえた。俺は驚いて振り向く。そこにはいつのまにか爺さんが立っていた。
「はぁ?な、なんで?!」
「俺は最初からここにいたぞ。憤!」
爺さんは俺の腹に掌底を叩きこんできた。躱せなかった。それに俺は衝撃を受けた。それだけじゃない。全身に鈍い痛みが広がる。息が一瞬止まった。
「っはぁ!かはっ!」
「ほう。今ので倒れんか?たいしたもんだ!」
爺さんは姿勢を崩した俺にさらに蹴りを放ってくる。俺はそれを砂浜を無様に転がるようにして避けた。
「反応はよし。全く勿体ない。その素質があってこの島で生まれていれば俺の弟子にしてやったのに」
爺さんは肩を竦めてやれやれと笑う。
「いつの間に出てきたんだよ……」
「だから言ったろう。最初からいたと。お前らが気づかなかっただけ」
俺は綾城に視線を送る。彼女は目を見開いて首を振った。やっぱり他の人にも感知出来てない。
「ありえないわ!なんなのさっきのパンチ!?」
ムーちゃんが叫んだ。爺さんを驚愕の目で睨みつけている。
「物理学的にあり得ないわ!今の運動量でカナタ君が吹っ飛ぶはずがないわ!なんのトリックなの!?」
それを聞いてミランのママは嗤う。
「トリックなら最初から使っておるよ。この砂浜は小さいが祷際場。儂が主宰する祷りの神域」
そう言うと、ミランのママと男たちが両手の掌を重ねる。そして男たちが何かを呟き始める。日本語なのは間違いないけど、琉球方言の古語っぽい。聞き取るのが難しい。
「祷りがなに?!そんなので物理学が覆されるわけがないでしょ!論理的に説明してよ!」
「説明しておるよ。たしかに物理学は真理じゃろうな。神が定めたろう絶対のルール。この世の掟。だがね、神は寛大で慈悲深くなによりも人にトロ甘い。頑張っている人間にはすぐに手を貸してしまう」
「はっ?!神?!神っていったの?!神学論争なんてしてないんだけど!」
ムーちゃんは怒り狂っている。顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「神学ではないよ。祷りの話をしている。よく願掛けをするじゃろう。その結果スポーツで勝ったり試験に受かったり商談を通せたりする。神頼みと人は言う」
「それは宗教でしょ!心理学的な安心を儀式で正当化しているだけ!」
「違う。祷りが神に届くのだ。その結果、この世界が歪む。祷りは神に届き、神はその者のために世界を歪めて結果を齎す。祷りはもっともエゴイスティックな観測。それが世界を変えるのだよ」
「そんなわけ……え?まさか祷際宇宙論?なの……?」
ミランのママはそれを聞いてニヤリと笑う。
「葉桐の小僧はそう言っておったな。一時期はここ沖縄でユタやノロの研究をしておったし、儂も協力した。実際に彼は観測したよ。儂にはよくわからなんがニュートリノだのクオークだの。素粒子とかいうものの挙動が祷りによってその挙動を変えるとな」
「そんな……。もしかして観測者問題を祷りというアプローチで本当に解決したの?!ありえない?!」
「葉桐の小僧は祷りという多くの人間の『世界へのエゴに基づく観測』によって空間や素粒子なるものが変化することを実験的に証明したと言っておった。だがそんなものは儂らノロや神職についているものからすれば当然のことを言っているまでのこと。神は偉大なる計画を持って世界を廻している。だが神は祷りを聞き届ける。そして神は世界を変えるのだよ。祷りだけが唯一、神の計画を変更することの出来る人間の細やかなる営みなのだ」
ムーちゃんが絶句している。俺にはよくわからないが葉桐が悪いってことだけはわかった。
「……ミランママ。ようはみんなで応援すると強くなるってことか?」
「ほう。そういう理解か。……はぁなるほど……美魁が見込んだだけはある……理論に打ち負かされるようなものならば王にはなれない。やはりお主が王か」
俺は再び構えなおす。爺さん、てか多分ミランパパに相対する。
「ミランパパはあんたらの祷りの力でメッチャ応援されてるから強いんだろう?ならこっちもそうしてやるよ。綾城ぉおおおおおおおおおお!」
「わかったわ!頑張れ♡頑張れ♡常盤!」
綾城が腰を振りながら足をあげたり手を振ったりする。それを見て楪も続く。
「なるほど!祷りまくればいいんですね!頑張れ♡頑張れ♡カナタさん!」
胸をブンブン上下させながら飛び跳ねて楪が応援する。
「……り、理論どおりなのになんかばかっぽいぃいいいいいい!頑張れ♡頑張れ♡!カナタ君!」
ムーちゃんがやけくそ気味に踊り始める。
「元気カムチャッカーファイヤーうーーーーーーーーーーーーーーらーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
美女たちの応援で俺の身体に力が湧いてくるのを感じた。祷りは量より質。むさい男たちよりも美人さんたちの応援の方が神様だって祷りを聞き届けてくれるだろう。だから俺は地面を蹴ってミランパパに殴りかかる。
「これだから若いもんは……愚かで実に良き!」
ミランパパが笑って拳を振り上げる。俺たちは互いにクロスカウンターで頬を殴り合った。
「へぶぅ」
「ぐはぁ!」
「「まだまだぁ!」」
俺とミランパパは互いの胸元を掴みあい至近距離で殴り合い蹴り合う。時たまさっきの謎掌底が入ってくるが、相手の胸元を掴んでいるので吹っ飛ばされずに済んだ。
「お前は才能に溢れてるだが、俺はものごころついて100年!一日たりとも琉球空手の研鑽をやめたことはない!」
膝蹴りを喰らって俺の身体一瞬宙に浮く。
「ながいきしすぎぃ!だったら引導を渡しちゃるわい!」
俺は浮いたままミランパパの肩に手を置いて彼の身体の上で逆立ちする。
「曲芸なら効かん!」
「ちがう!これは友から習った技!」
ブレイキングというのが最近はやっている。スオウがそれを見てカポエイラに似ていると言っていた。そこからこの技を俺は思いついた。
「くらえおらぁあああああああ!!」
俺は爺さんの肩の上で身体を回転させる。その回転が爺さんに伝わりミランパパの姿勢が崩れた。
「な、な?!」
「ここからじゃい!勢!!」
そしてそのままミランパパの正面に回転しながら落ちていき横の回し蹴りを首に叩きこむ。
「ぐう!だがこの程度」
「あいにくだけど。回転は横だけじゃない!!」
さらに俺は縦に空中で回転して踵落しをミランパパの額に叩きこむ。
「がぁ?!」
俺はその縦の回転でもって地面に無事に降り立つ。爺さんは俺の蹴りを二連荘で喰らってふらつきながら倒れた。
「カナタ君!」
ウェディングドレスを着たミランが俺に抱き着いてくる。その瞳には涙が溢れていた。
「かなたくん!かなたくん!かなたくん!!」
「泣くなよミラン。似合わないよ。お前は綺麗でとても可愛い女なんだからさ」
俺は指先で涙をぬぐう。
「うん。うん!」
そしてミランは笑ってくれた。
---作者のひとり言---
祷りとは神様に思いを伝えること。
ならばそれで奇跡が起きたならば、それは世界を歪めたことになる。
作者はそれを神様は優しいから、人の祷りに応えてくれると解釈しました。
わかりましたね?
なぜヨッメーがチアをやらされたのかを。
伏線回収できました。やったぜ( ゜Д゜)




