第158話 シーズン・0『クリスマス』前編
Merry Xmas!
皆さまはこの聖なる夜をお楽しみいただけていますか?
あなたのそばに愛する人はいますか?
今日わたくしこのアルルカン・阿国が語らせてだきますのはかの王がまだまだ女神を持て余していた時代の一幕に御座います。
すべてはなかったことになってしまったものがたりですが、是非ともお楽しみいただければ幸いです。
シーズン・0 『円卓内戦と灰被りの女神』
「初めてのクリスマス」
俺にとってクリスマスとはいまだに未知のイベントである。世間の人たちは何やら楽しんでいるようだけど、それを横目にただただ家路に帰るだけの日が俺にとってのクリスマスである。そんなのがイブ。と本番と二日もあるんだからたまったもんじゃない。だけど今年は違う。俺もクリスマスを祝わなければいけないがわになってしまったのだ。だけど。
「で、うちのところに来たってこと?仕事をさぼって?」
「はい。助けてください真柴様。クリスマスって何すればいいんですか?」
本郷キャンパスのランチタイム。時計台の下の食堂にて俺は理織世の親友である真柴と仕事さぼってランチしていた。彼女は飛び級でPh.D.をとって皇都大学の助教として勤めているのでこの時間なら割と暇だと踏んでここに来た。
「別に普通にレストラン予約して夜景見てそれでいいじゃない」
「……理織世が…」
「はぁ?なに?」
「夜景のきれいなスポット周辺のレストランの予約取ったんです。でも理織世が仕事で夜遅くまで番組入ってるって…」
「そ、それは御気の毒ね。元気出して。うん。あんたは悪くないと思うわ」
予約はぱぁとなった。理織世はクリスマス・イブは生放送の番組で司会を務めるそうだ。仕事が終わるのは11時ごろだそうだ。
「俺だって普通のクリスマスってやつをやってみたかったんだよぅ!でも仕事って言われたら強く出れないじゃん!どうすればいいんだようぅ!」
半べそかいた男とか情けないけど、でも彼女とそういうイベントを過ごしたかった。それの何が悪いんだろうか。悪いのは彼女を視聴率ゲットのために使うマスゴミだ。
「うーん。でも夜は会えるのよね?」
「会えるけど…何すればいいのさ。それこそクリスマスっぽいことできないじゃん。テレビ局周辺の夜景スポットなんて見慣れてるだろうし」
「普通にお家デートでいいんじゃないの?りりはテレビ局の近くに住んでるわよ」
「…入れてくれないんです」
「え?」
「入れてくれないんです。彼女の部屋に入ったことありません」
「え?そうだったの?!元カレとかはちゃんと彼女の部屋に行ってたけど」
「やめてくんないぃ?元カレの話とかするのぉ?傷つくんですけどぉ」
元カレは彼女の部屋に入ったけど、俺は入れない。何この待遇の違い。
「俺って本当に彼氏なのかな?じつは勘違いしたセフレ君だったりしない?」
「りりはセフレとかは絶対に作らないタイプよ。うちと話しているときはあんたのことを彼氏だって言ってるし、それは信じてあげなさい」
「ましばぁ!」
真柴の励ましが温かく胸に染みていく。抱きしめてやりたくなるぜ。
「で、どうすればいいんだろう。レストランは時間的にもう予約とかも無理。終電まじかで夜景スポットとかムリゲー。もうクリスマス楽しめないじゃん」
結局話がここに戻ってくるわけだ。何をすればいい?何をしたら彼女は喜んでくれるんだろう?
「何をしたら彼女に好かれる彼氏でいられるんだろう?」
「あのさ。あんた勘違いしてる。りりは今のあんたがすきなの。その気持ちをあんたは信じてないの?」
俺は思わずはっとした。クリスマスに何かしないと彼女に嫌われると無意識に考えていた。違うのだろうか?
「そりゃイブとかクリスマスとかは特別な日よ。特に女の子にとってはね。でも特別な事を彼氏がしてくれるからじゃなくて特別な日だから彼氏と一緒にいたい日なのよ」
「な、なるほど」
「普通にお家デートでいいんじゃない?今どきはチキンだってコンビニで買えるんだからさ」
「お家デートかぁ。したことないなぁ。いいのかな?」
「そのレベル?!あんた一人暮らしでしょ!彼女を連れていくくらい普通でしょ!」
「だって俺の家なんて理織世から見たら豚小屋みたいなもんだよ」
「彼氏がいれば豚小屋だって宮殿よ!りりはそういう女の子!あーもう!世話が焼ける!もういい!クリスマスイブはあなたの部屋でお家デート!それで決まり!」
「え?ち、チキンは?!豪華なチキンの予約も無理だぞ!」
「コンビニで済ませなさい!あんたに必要なのはリリ相手に遠慮をなくすことよ!もっとなれなれしく接していきなさい!お姫様扱いだってされたいけど!素朴な生活だって共有したいものなのよ!」
真柴の言葉には確かな熱が籠っていた。俺はそれを信じることにした。
「わかったよ真柴!俺やってみるよ!」
「ええ。頑張りなさい!応援してるわ!」
そしてクリスマス・イブの予定が決まったのである。がんばれおれ!がんばれおれ!がんばれおれ!
小ネタ
さばちゃん「ねぇ。部屋に連れてかないってことはエッチは全部ラブホだったの?」
カナタ「そうだよ」
さばちゃん「むしろあんたがりりをセフレ扱いしているように聞こえてくるんだけど?」
カナタ「そんなわけあるかよ!ちゃんとグレードの高いラブホテルへ連れてってるぞ!」
さばちゃん「でも聞いた話だと割り勘なんでしょ」
カナタ「うん。理織世が頑固だからね。いつも半分出してもらってるよ」
さばちゃん「むしろあんたの方がセフレ扱いしてる気がするわ…いやそんなつもりはないのはわかってるけど。なんだかなぁ。ズレてるわねぇあんたたちカップルって。まあちゃんと距離を詰めるようにしなさいよ。手放したくないんだったらね」
そしてクリスマスイブがやってきた。俺は仕事をすぐに終えてから一度家に戻り車をとってきてからテレビ局近くの駐車場に停めておいた。そしてずっとテレビ局の傍のカフェでコーヒーを飲み続けていた。待つのは苦手だ。いつもデートのとき理織世は俺を待たせない。時間通りかそれより前に来る。こんなに待ったのは初めてだ。俺は椅子に上で少しうとうとしていたと思う。
「ごめん。待たせちゃったね」
俺の肩を振る女がいた。顔を上げるとそこには灰色がかった茶髪の女がいた。
「理織世。いや。今来たとこ」
「大ウソじゃない。もう」
理織世は仕方がないなと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「もう今日は遅いよ。イブだしラブホとかは何処もいっぱいだと思うし、大人しく帰りましょう。でも奏久くんの顔見れてよかったよ」
「やだ。一人で帰る気はない。車ある。俺んち」
「え?」
「俺の部屋に行こう。チキンもシャンパンもないけど。ビールならあるからさ」
俺がそう言うと理織世は目を丸くして、そして満面の笑みを浮かべて頷いた。
「うん。いこ!ずっといきたかったの奏久君の部屋!楽しみ」
理織世は俺の左手に掴まる。そして車に乗って俺たちは部屋に帰ったのだった。




