第134話 短いタイトスカートと深いカットの谷間の白シャツの似合う意識高い系女社長
楪は堂々とコスプレブースに出た。そして。
「わたしチェスト!わたしチェスト!わたしチェスト!キエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
などと供述しながら、楪はカメラ小僧たちの群れの中に突っ込んでいった。
「え?なにあれ?なにしてんの!?」
楪は猿声上げながら、カメラ小僧の群れをかき分けていき、サークルの中心にいるムーちゃんに向かって走っていった。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」
「え?ちょ?!なに!?なんなの?!」
ムーちゃんはひどく驚いている。そりゃそうだ。コスプレしながら奇声を上げる奴が近づいてきたら誰だって驚くだろう。そして楪はムーちゃんの背中の後ろに回り込み、両手を頭の後ろで組んで胸を強調する悩まし気なポーズを取った。やってることは意味不明だけど、ポーズはエロ可愛い。カメラ小僧どもは楪相手に一斉にフラッシュをたく。
「何やってんだあいつ?」
「解説が必要かな?」
俺の左隣にすっといつの間にかスオウが立っていた。実に満足げに楪とムーちゃんのことを見ている。
「ユズリハは己の武器ヲよく知ッてイる。同時に自分自身の弱さもだ。ユズリハ個人ではカメラ小僧のサークルヲ作れても維持はできなイ。ならば他人の作ったサークルに乗ッかッてしまエばイイ」
「ああ、なるほどなぁ…。でもそれなんかマナー違反っぽいなぁ」
コスプレイヤーが自分で作ったカメラ小僧のサークルに誰かが入ってきたらいい気分はしないと思う。実際にムーちゃんはむっとした表情をしている。
「ちょっと!私の作ったサークルなんだけど!」
「だからなんですか?!わたしはあなたの背中を守ってあげてるんですよ!むしろ感謝して欲しいくらいですね!!」
「背中を守る?!むしろ背中だって撮られたいのにぃ」
サークルの中で二人はぼそぼそと小声で言い争っているようだ。
「ユズリハは相手のサークルの半分ヲ奪イ、同時に相手の背中側の撮影ヲ封じた。これは高度な一手だよ」
「コスプレ撮影ってそんな頭脳戦みたいなものだっけ?」
「さらにイエば正面からの戦闘では楪は超重量級の破壊力ヲ持ッてイる。見ろ」
強調されたおっぱいはじつに立体感のあるいい仕上がりを誇っている。そして今度は両ひざに手を置いて胸を強調するポーズを楪は取った。
「うーん!おっぱい。だめだ。理屈じゃねぇ!抗えないようぅ」
おっぱいは大正義である。サークルの人の群れの密度はやや楪の方へと傾いていった。
「三鼓さん。あなたのおっぱいどれくらいですか?」
「むぐぐ!」
「まあ言わなくてもいいですよ!わたしのHカップに比べたらないようなもんですからねぇ!キエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
おーっと!ユズリハがおっぱいでムーちゃんにマウント取りに行った!!このコスプレ勝負ではスタイルの良さが当然勝敗を左右する。おっぱいのデカさは言わば攻撃力そのものである。
「意外だなぁ。このままだと楪が勝つのかな?」
「カナタ。コスプレ勝負はそんなに甘イものではなイ。ワタシはかつて歌舞伎町でナンバーワンでブイブイ言わせてイたホステスだからわかる。女の魅力とは必ずしもおッぱイだけではなイとイウことヲ!!」
スオウの目線の先にはムーちゃんがいた。彼女は目を瞑っていた。そして目をカッと見開き。そして瞳をウルウルと潤ませてぺたんと女の子座りをして顔を上げる。それはまるで雨の中で段ボールの中に入っている捨て猫のような哀愁漂う可愛らしさ!!
「やだ?!すぐにでも拾ってあげたい!そんでもってよしよししたい!かわいいよ!ムーちゃんかわいい!」
「ふッ。男心ヲ刺激するのは何もオッぱイだけではなイ。可哀そうは可愛い。男は女を庇護したがる習性がアる。ムムミはそこに漬け込む魔性の女だよ。だが同じ女としては無性に腹が立つ。ぶりッ子め。ファベーラ送りにしてやりたイ」
なんか珍しくスオウが目くじら立ててる。ムーちゃんって同性にマジで嫌われるタイプの女子だよね。守ってあげなきゃ。そしてサークルの人だかりがムーちゃん側に傾いていく。ムーちゃんのぶりっ子ポーズ作戦は功を奏した。
「きー!姫気取りめ!理ケジョの恥!この理系陰キャのオナペットめ!いい加減宇宙の形くらい確定させ見てせくださいよ!物理学めぇ!」
「あらぁ!おっぱいとしか武器のない雑魚理ケジョが何か言ってるわ!ざぁっこ!ざぁっこ!素数の一般項の式でも永遠に考えてろ数学ぁ!!」
二人は背中合わせにポーズを取り合いながら、延々と言い争っている。だけどそれははた目から見ると。
「なぁ。あの二人…なんか尊くないか?」
「ああ、互いに罵り合っても背中を預け合うような戦友なんだろうな」
「素晴らしいキャラ演出!こんな素晴らしいコスプレタッグは二度とお目にかかれない!」
そして二人を囲うカメラ小僧は自然と流れるプールのようにぐるぐると移動し始める。
「なにあれ?!意味わかんない!?カメラキッズどもなんであんな行動してんの?!」
「来た!来た来た来た!勝ッた!アははは!ワタシは賭けに勝ッたぞ!」
スオウは俺に抱き着いてほっぺに何度もキスしてくる。そんなに嬉しいの目の前の意味不明な光景が。
「ワタシは今日アの二人ヲ見てて可能性に気づいた。煽ッてやれば、互イに高め合うコスプレヲしてくれるのではなイかと。成功だ!アーキバスとアマラウの百合営業にワタシは成功したぞ!」
「うわぁ。スオウ。お前の商売への姿勢はいろんな意味で悪い奴だなぁ」
楪とムーちゃんは互いに罵り合いながらもイキイキとした魅力的なポーズを取り続けていった。それは確かにスオウのいう通り、キャラクター同士の尊い関係を再現しているように見えたのだ。
「くくく。見エる!見エる!ガチャが狂狂と廻る未来がァ!!!」
スオウはまさに絶頂といったような笑顔で嗤っている。楪のおっぱいが揺れるたびにフラッシュは眩く輝く。ムーちゃんのお尻がぷりんと震えるたびにフラッシュが激しく煌めく。そしてその光は日が暮れるまで耐えることはなかったのだ。
そして結果発表の時間がやってきた。
「勿論勝ったのはわたしですよね!」「いいえ私でしょう!」
二人は額をこすり合わせながら睨みあっている。ヤンキーかよ。
「では結果ヲ発表しよウ。なんと当社のsnsのバズ解析によると!なンと!なンとォ!」
「「早く言え銭ゲバ」」
楪とムーちゃんは息ぴったりだった。仲いいのかな?
「ちッ。まッたく風情がなイ連中だ。同着だよ」
「「はぁああ?!」」
同点だと告げられて二人はあからさまに不機嫌になる。だけど俺的には甲乙つけがたかったし、妥当な結果な気がする。
「なぜ同着か説明しよう。今回snsでもっともバズッたのは『尊い百合コス』というワードだったからだ。大衆はどちらかではなく、二人ヲセットで認識してイたのだ」
「「セット?!わたしたちが?!はぁ?!」」
息ぴったりだなぁ。もうユニット組めばいいよ。
「まア。個人的には同着とイウよりも、二人で勝利したと感じたがな。良かッたじゃなイか。どちらかが地面に這いつくばることもなく、誰かと勝利を分かつことが出来るのだ。それはとても幸せなことだとワタシは思うぞ」
スオウは優し気ににっこりと笑った。そこに嘘はないようだ。
「「勝利を分かちあう…」」
二人は互いに静かに見つめ合い、ぷっと笑いだす。
「なんだか馬鹿みたいですね。わたしたち」
「ええそうね。絶対に馬鹿よね」
そして拳を突き出し合って、こつんと軽くぶつけ合う。
「「でも楽しかった」」
二人はいつまでも楽しそうに笑っていた。こうやって人は仲良くなっていく。それは確かに尊いと俺は思ったのだった。
小ネタ『悪徳商人スオウさん!』
スオウ「二人とも勝ッたので、シナリオの発注は二人に同時に行わせてもらウことにする。確かに費用は倍だが二人の勝利にわが社は惜しみない称賛を送ろウ」
ユズリハ、ムーちゃん「わーい!ありがとう!」(二人はルンルン気分で更衣室に向かった)
カナタ「うん?待てよ。むしろ話題を掻っ攫った二人に同時にシナリオを書かせるって、それこそバズってガチャがガチャガチャ回るんじゃ」
スオウ「カナタ。WIN-WINならなンでもイイと思わなイか?イイ話で終わッただろウ?」
カナタ「あっ(察し)。まさかさっきの同着も…」
スオウ「Eu não entendo o Japonês」(すたすたと去っていく)
カナタ「おいこら!誤魔化すんじゃないよ!おいこらまてぇ!お仕置きじゃい!」




