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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4  After 『誰よりも輝ける夏』

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第128話 地雷は見えないから怖い

 お買い物を終えて、俺たちはカフェで休憩することにした。スオウはずっと俺の左手に抱き着いていたし、綾城はそれを悔しそうに見ていた。五十嵐はどことなく困ったような顔をしている。


「埒があかない…」


 この二人の関係は少し不健康だと思う。だから何かしらの禊が必要なのではないだろうか?ちょっと強引だが俺は二人の関係にメスを入れることにした。


「綾城」


「なにかしら?」


「スオウはお前の姉ではないんだよ」


 この言葉はクリティカルに効いているようで綾城は俯いて顔を曇らせてしまう。


「スオウ。お前が綾城相手に何かしらのわだかまりを持っているのはわかる。だったら今ここでそれを吐き出せ」


「イや。だが。それは」


 スオウもまた顔を曇らせている。ナイーブなところに乱暴に触れているのはわかる。だけど時にはそれも必要なのだと俺は信じる。


「いいから吐け」


「…ふゥ…。わかッた。ヒメーナ。ワタシはオ前に後ろめたさを覚エてイる。ワタシの過去はもウ知ッてイるだろウ?」


「ええ。でもそれでもあたしは。エディレウザ。あなたを慕うことを止められないの」


「…ワタシはワタシのすべてヲ許してはイなイ。なのにお前のよウに真摯に憧れられて愛されるのは苦痛なンだ。ワタシはオ前が綺麗だと思った幻と同じではなインだ。その気持ちにはもう答エられなイ…」


 少し涙の混ざった声でスオウはそう言った。彼女の過去は悲惨だし人に誇れるものではない。だけどそれを超えて綾城はスオウを愛そうとしている。それが苦痛で重いんだろう。少しだけ気持ちがわかる。前の世界で五十嵐と付き合えた時、自分自身が釣り合いのとれる存在ではないのではないかと感じた不安や哀しさにきっとよく似てる。


「ヒメーナ。オ前に慕われて当然な人間なら良かッた。だけどそうはなれなインだよ」


 失望される怖さというものがある。そうされるくらいなら人から離れていきたい。スオウは綾城から離れるという選択をかつてした。


「でもあたしは…それでも…あの日の眩しさを忘れられないわ。それが幻だとは思えないの」


 だけど綾城は離れていっても追いすがってそばにい続けようとしている。お互いにお互いを見ているのにその手が交わることはない。それは悲しいと思う。


「よくわかんないんだけど。二人はちゃんと仲直りしたいってことだよね?」


 沈黙する場で五十嵐が声を上げた。


「だったらまずは形から入ってもいいんじゃないかな?それでだんだん慣れていけば自然と仲良くなれるんじゃない?」


 なんとも能天気な意見だ。だけど悪くはないと思う。案外人間なんて一緒に過ごしていればお互いの過去のことなんてどうでもよくなるものだ。


「形から?それはどウすればイインだ?」


 意外にも食いついてきたのはスオウだった。なんだかんだと綾城のことをスオウなりには好いているのだろう。それは素直に嬉しい。


「うーん。そうだねぇ。同じ恰好とお化粧してみるとか?いいんじゃないかな!スオウも綾城さんみたいな恰好似合いそう!」


「おいちょっとまて。形から入るってそういう意味だっけ?」


 思わず突っ込みを入れたくなった。


「素晴らしい意見だわ!流石ね五十嵐さん!!」


 綾城はすごくお目目をキラキラさせている。なんでか知らんが琴線に触れたようだ。


「…なるほど…つまりワタシからヒメーナに歩み寄ることで関係ヲイーブンにするとイウことか。流石だなリリセ」


「でしょでしょ!じゃあ早速やってみようよ!」


 かくしてスオウちゃん地雷系デビュー作戦が発動したのであった。女子の世界よくわかんない…。





 俺と五十嵐は吉祥寺駅そばの公園で鳩にパンくずをあげながら、綾城とスオウがやってくるのを待っていた。二人は今地雷系ショップでお買い物中のはずである。


「いっそのことお前も地雷系デビューしてみたら?」


「うーん。それすると嫌がる人がいるからねぇ。私は遠慮しておくよ」


 五十嵐は鳩相手にくるっくくるっく言いながら俺の提案を聞き流した。まあ想像しても似合わない気がする。だけど嫌がるやつって誰?誰に忖度してるの?考えたくない。


「お待たせしたわね!」


 綾城がドヤ顔しながら俺たちのそばに仁王立ちしている。そしてその後ろには黒髪がちらちらと揺れているのが見えた。どうやらスオウが綾城の後ろに隠れているようだ。


「エディレウザ!世界一可愛いあなたを二人にみせてあげなさい!」


 綾城は後ろに隠れていたスオウを俺たちの方に引っ張り出した。


「「お、おお!!」」


 俺と五十嵐はその変化に驚きを隠せなかった。パチクリしたお目目ともともとのくっきりした顔立ちが意外にも合っていた。ツインテールの黒髪とピンクのフリルシャツが抜群に合っている。それと白い手に映える黒いネイルがすごくつよつよなアピールポイントになっている。


「素晴らしい地雷だわ…早く踏み抜きたいわね!!」


 綾城さんはすごく興奮してる。さっきからスマホでパシャパシャとスオウを撮りまくっている。


「ど、どうだろうか?」


 もじもじしながらスオウは俺にそう聞いてきた。


「おう。綺麗でかわいいよ。なんか新鮮でありだね」


 いつもは男をバリバリ搾取しまくっている夜の蝶みたいな感じだけど、今は逆にオラオラホストに貢ぎまくってそうなか弱い感じがあって個人的にはありだ。


「うんうん。可愛いねスオウ!記念撮影しよう!いえーい!」


 五十嵐がスオウに抱き着いてセルフィーしている。なかなか面白い組み合わせに見える。女子同士はきゃっきゃと話を盛り上げていた。こうやって女の子同士は仲良くなるのかもしれない。こういうのっていいね。まあ男の俺は蚊帳の外なんだけど…。


「はい!では地雷系デビューを記念いたしまして。エディレウザの地雷アピールタイムしまーす!うぇーい!ルールは簡単!常盤に向かって地雷感全開の一言でアピールしましょう!はい!3・2・1!ドーン!」


 綾城の謎のトークと共に俺の目の前にスオウがたった。スオウは両手を組んで目をウルウルさせながらこう言った。


「いッしょにブラジルに帰ろ?」


 ひぇ?!すごく地雷です…?!いますごく背筋が凍りそうになったよ!ヤバいってマジで地雷を踏んでしまったような緊張感を覚えたもん!


「こわ?!スオウすごくこわ!!重すぎるよぅ!やばいってそれ!」


 五十嵐がガクブルしてる。女の子でもひくような重さが今のスオウにはあった。逆に綾城はげらげらと笑ってる。


「常盤を地球の裏側にご招待!ウケるわ!いーひひひひ!あははは!」


 スオウの地雷度は本物だった。だけどやっぱりそう言う意味では綾城とスオウは相性がいいのかもしれない。二人は腕を組んで笑っている。それはとても自然に思えた。























 だけど本当の『地雷』は踏み抜くことさえできないくらい深いところにあると、その時の俺たちは気づきもしなかったのだ。


















小ネタ~オタク度~


カナタ「まあ普通にアニメも漫画も嗜むよ」


ヒメーナ「ラノベは好きよ。中二病時代に読み漁っていたわ。異能学園!!すごく通いたい!!」


ミラン「この間二次元の舞台出たよ!あとアニメの声優もやったことあるよ!」


ムーちゃん「コスプレサークルに一応在籍してるよ!」


キリン「あんまり興味はないかな」


トモエ「実は女性向けネット小説をスコップするの好き…悪役令嬢とか」


リリセ「流行ってる漫画は読むよ。それくらいかな」


ユズリハ「ラノベ書きは死狂いでごわす!」




 そう。みんな忘れていた。俺も含めて。楪にはネット小説家という顔もあることを…!


















 話は少し夏休みが始まる前にさかのぼる。それはいつものランチタイムのことだった。


「勝ちたいでごわす!」


「いきなり何を言っているのかしら?唐突過ぎて戸惑うのだけど?」


 楪はひどく真剣な目をしていた。それはまるで捨てがまりを実行しそうな薩摩もんみたいな修羅の顔だ。


「すみません。取り乱しました。皆さんわたしがネットで小説を書いていることはご存じですよね?」


「うん。それは知ってるけど。そう言えば最近更新してないね?ボク続きが早く読みたいんだけどなぁ」


 ミランも俺も綾城も楪の小説の読者だ。お世辞ではなく普通に面白いので毎回楽しんで読んでいた。だけど最近更新が滞っていた。学校が忙しいのだろうと思っているのだが。この気配は何か事情がありそうだ。


「そうですね。ええ。わたしも続きを書きたいんです。でも書けないのです」


「あらスランプってやつかしら?なにか協力できることがあれば言ってちょうだい」


 綾城が相変わらずお母さんみたいな優しさを溢れさせている。きっと誰でもおぎゃりたくなるような慈悲深い笑みを浮かべている。


「違います。スランプなんてわたしには関係ありません。書きたいことだらけでスランプってる暇なんてないのです。溢れ出るアイディアを早く世に解き放ちたい。うずうずしまくりなのですよ!!」


「じゃあ何で更新しないのさ?ネット小説って更新頻度が大事なんだろ?俺も他の読者も続きを待ってるぞ」


「わかってます!でも勝ちたいんです!わたしは勝ちたいんですよ!!」


 俺たちは首を傾げる。勝ちたいってなにさ。いつも論理的な楪が珍しく非論理的な意味不明なことを言っている。


「勝ちたいって何に?」


「決まってるでしょう!小説で勝ちたいんです!」


「いや。何にって聞いてんだけど?何でとは聞いてない。小説なのは自明なんだから」


 文脈がぐちゃぐちゃだ。楪はいまとりあえず言いたいことが先にあって、そのあとに理屈が着いてくるような感じに見える。


「うーん。ボクよくわかんないんだけど、楪ちゃんの小説ってヨムカクのラブコメ部門で累計50番の中に入ってるよね。フォローも1万超えたんでしょ?すごくない?」


 楪は普通にすごい順位にいるのは間違いない。リワードもけっこう稼いでいるそうだ。


「でもわたしは勝ちたいんです!これでも趣味として六年以上小説を書いてます!センター試験の日も!本試の日だって更新しました!!小説はわたしのライフワークそのものです!!」


 こいつ?!ヤバいガチ勢だった。というかそんなことしながらこの大学に受かってるの?どんだけ頭いいんだよ。


「ねぇ楪。あなた目が逝っちゃってるのだけど。何に悩んでるの?力になるから話してちょうだいな」


「綾城さん…。わたしは。わたしは…そう勝ちたいのに。勝てないダメ小説家なのです!ぴぇーん!」


 そして泣きながら楪は訥々と語り始める。


「わたしは最近やっとヒット作を出すことに成功しました。それがすべての元凶の始まりです。どんどん伸びていく★。どんどん増えていくフォロー。どんどん賑やかになる感想欄。すべてがわたしの幸せでした。ですがある日のことです。自分より後に始まった作品が書籍化しました。でもそれはよくあることです。ですがさらにわたしよりも後発の作品が書籍化を次々とキメていったのです!そして気がついたときには累計ランキングで書籍化作品にサンドイッチされていました。わたしが置いていかれているのです!わたしは嫉妬に苛まれました!自分よりも星が少ないのになんで?!フォローが少ないのになんで!感想数だって少ないのになんで!?わたしの方がずっとずっと何もかも勝っているはずなのになんでなんでなんで!?…そしてわたしは悟ったのです。わたしは小説で負けたのだと。でもでもぉ!勝ちたいって気持ちが消えてくれないんです!それなのに怖いんです!また抜かされたらどうしようって!?書いても書いても抜かされていくんです!わたしを抜き去った作家さんたちはキラキラと星のように輝いていて。意識高そうな呟きを垂れ流してわたしを追い詰めるんです!!びえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんんんん!なんでわたしは仲間外れなんですかぁ!?なんでわたしはそこに行けないんですか!?彼ら彼女らよりもずっとずっとずっうぅうぅと面白いものを書いているはずなのにぃ!!!」


 それは魂の慟哭。脆いエゴの剥き出し。寂しくて悲しい叫び声だった。


「うう。その気持ちわかるよ!ボクもわかる!うん!すごくわかるよぉ!うぇえええええんん」


 ミランは楪に抱き着いてボロボロ泣いている。ミランも最近までは下積みだったわけで、きっと燻っている頃の気持ちってやつがよくわかるのだろう。俺だってわかる。美大に落ちたとき、自分の絵はなんで評価されないんだろうって思った。それが悔しくて悔しくて仕方がなかった。前の世界では建築家になって自分が設計デザインした建物が評価されるようになってその気持ちは報われてくれた。そう。悔しさとは勝つこと以外で報われることがないのだ。


「なるほど…なかなか業の深いことね…楪。一つ。現状を打破する方法を考えてみたのだけど聞いてくれるかしら?」


 綾城は真剣な表情で続ける。


「同人誌書いてみない?」


 同人誌。個人的にはオタクの中でもリア充たちが創っているイメージが強い。陰キャには眩しい提案に思える。


「そんな同人誌なんて…わたしには無理ですよ。わたしは負け犬作家なんですから。誰も手に取ってくれませんよ。あはは…」


「いいえ。そんなことはないわ。あたしたちがいるものあなたの小説を同人誌にして世に出す。そしてバズらせて書籍化への道を繋げてあげるわ!聞いて頂戴!」


 綾城は勢いよく立ち上がる。少しスカートがふわっとなったけどパンツは見えなかった。代わりに白い太ももが眩く見えた。


「同人誌は何でもありの世界よ。あなたの小説をイラスト付きの文庫にして売るの!忘れてる?ここには反社イラストレーターの常盤がいるわ!」


「反社じゃねぇよ。でもイラストなら描けるよ。あれ?この提案すごく現実的なんじゃ?」


 綾城はドヤ顔でさらに続ける。


「ASMRなんて言葉が今はあるわ。そこには現役の役者がいる!!美魁なら複数のキャラクターだって演じ分けられる!同人誌のおまけに音声のダウンロードも特典としてつけるのよ!!」


「たしかに!?ボクなら出来るぞ!あれ?まじでこれってすごくいい提案なんじゃ?」


さらに綾城はドヤ顔を深める。ドヤドヤ顔でさらに続ける。


「さらにコスプレ写真集もつけましょう。あたしがあなたの作品のキャラクターの衣装をつくってあげるわ!それだけじゃない!あたしと常盤と美魁の三人でコスプレ売り子もやってあげる!これぞ最強の布陣!」


 どやどやドヤァあああって感じの笑みを浮かべて綾城は両手を広げる。


「あたしがあなたを勝たせてあげる!さあ!返事を聞かせてちょうだい!」


 綾城は手を楪に伸ばす。そしてその手を楪は掴んだ。


「みなさんお願いします!わたしを勝たせてください!!」


「ええ、まかせて頂戴」


 そして俺たちのコミケ参戦が決まったのである。





次回予告!



順調に売れていく同人誌!だがそれでもなお高き壁が楪の前に立つ。


「事象の局所境界面がEPRパラドックスを肯定しシュレーディンガーの猫が可愛いようにあなたは私には決して勝てないのよ。それがこのネット小説界の絶対法則!」


そしてはじまるコミケの姫を選定する運命の決闘!


ラノベ道は死狂い。君は死線を超えることが出来るのか…。次回を期待せよ!





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