第126話 地雷爆発ヒメーナちゃん!
地雷とは爆発するものだ。俺は今まで彼女を爆発させたことなかった。でもそれはたまたまに過ぎなかった。そう思う。
授業はないけど俺は大学に来ていた。図書館で勉強したあと学食にやってきた。すると学食のメニュー表の前で悩んでいる金髪の女を見つけた。いつもと違って地雷系ではなくナチュラルなメイクに髪を下しただけの素朴なスタイルの綾城がいた。格好もひざ丈くらいのスカートに白系のブラウスという地味な出で立ち。格好だけ見たらいつもよりも地味だ。だけど顔立ちだけ見るといつも以上に目立っている。ラテン系のくっきりした顔立ち。堀深く鼻梁が高く白い肌。それに蒼い瞳。この国では目立って仕方がない容貌だ。それだけではなく美しいのだから人々の視線を多く浴びている。だけど美しい女というのは、どうしてもトラブルを引き寄せがちでもある。
「hey!Can I help you?」
いかにも爽やかで意識高そうな国際サークルの代表勤めてそうなイケメンが綾城に英語で声をかけた。同じ男だからわかるけどたぶん善意は80%くらいはある。きっと彼には綾城が日本語のメニューの前で困った外国人に見えているのだろう。そしてそういう風に見えることはきっと間違っていない。
「あっ?!なに?今あたしになんて言ったのお前は?!」
綾城は誰もがビビりそうなくらい顔で男の方に振り向いた。にらみつける目には冷たさしかない。
「え、いや。その困ってるのかと思って…それで…」
男はあわあわと戸惑っている。俺は可愛そうだと思った。彼は決して悪くないと思う。
「だから英語?は?なんで?どういう意味?なに?は?あたしには日本語ができないとそう舐め腐ったってこと?」
綾城の怒りのボルテージは上がっていく。
「そ、そんなつもりじゃ…!」
「でも見た目で決めつけたんでしょ?違うの?違うなんて言わせないし言い訳は聞きたくない。反吐が出るのよそういう仕草。なに?困ってる外国人を助けて悦に入りたいっていう地球市民様かしら?どんだけ偉そうなの?鬱陶しい!」
舌打ちをしながら綾城は目の前の男を睨む。その圧に耐えきれなかったようで、男は肩を落として学食から逃げるように出ていった。そして綾城はどこか荒んだ目つきのまま学食の列を離れて外へ出ていってしまった。俺はそれを追いかける。
「綾城。大丈夫か?」
「あら常盤?…ふぅ…今の見られちゃった?」
「まあね。見ちゃったね」
綾城はどことなく気まずげに恥じているようだった。とりあえず近くのベンチに俺たちは座った。
「以前に行ってたアイデンティティクライシスってやつかい?」
「ええそうね。いつもはああじゃないわ。たまに。ごくたまにだけどクリティカルに言動が刺さるとね…」
「わかってると思うけど、相手は善意だったよね」
「ええ。そうよね。だけど気に入らない。人と違うから善意を持ったのでしょう?謝る気はなれないわね」
相手から見ればまるで地雷だな。
「でもだからこそいやになるわ。相手の私への言動は気に入らない。でも私がしたこともひどく見苦しいのよ…痛いわ…。すごく痛いの…」
苦しそうに綾城は胸を抑えている。その気持ちは推量しかできない。綾城の持つ属性とそれによる生きにくさは知識としてはわかっても、決して体感的にわかることはないのだ。絶対的な断絶を感じてしまう。だけどそれだと寂しい。俺は綾城を自分の方に抱き寄せる。
「キャ!…もう。ねぇこういう時って何か言葉で慰めたりするものじゃないの?」
そうは言いつつも綾城は俺に体重を預けてきている。頬を少し赤く染めているのに愛しさを覚える。
「言葉ねぇ。でも俺は口下手なんだよね?どんな言葉が欲しい?教えてくれればいくらでも言ってやるよ」
綾城の手が俺の頬を撫でる。そして彼女の唇は俺の耳元に寄せられる。
「そうね。『みんなあなたが羨ましいだけなのよ。だから許してあげなさい』」
「ふむ」
「それから『異なる国同士の違う背景を持って生まれるのは素敵なことなのよ』」
「ふむふむ」
「こんなのはどう?『ダブルチーズバーガーにカロリーハーフなマヨネーズな子って可愛いわよね。わたしも将来はそんな子が欲しいの!だからガイジンと結婚する!』」
「ふむふむふむ」
そう。きっと全部が全部大嫌いな言葉なんだろう。嘘つき女め。
「ね。だから言葉をいっぱい頂戴。ね?」
綾城は俺にそう囁く。だから言葉をくれてやろうと思う。
「いつも思ってるよ綾城。お前がいるから楽しい。なによりも胸が高鳴ってドキドキと熱くなるんだ」
そう言いながら俺は綾城の耳にキスをする。
「あっ…。もっと…くれる…?」
「お前に触れられるといつも痺れるんだ。ゾクゾクして震えるほど甘い」
耳から俺は彼女の首筋に唇を這わせていく。そして鎖骨のあたりで止まって強く吸う。
「…っぁ…ん…ねぇもっとぉ。もっと。寂しいの。お願い言葉が欲しいの。いっぱいかけて…」
綾城の手が俺の首に絡まる。彼女が俺の後ろ頭を撫でる手がとても心地いい。
「かわいいよ綾城。いつもお前は可愛い。無理やりにでも欲しくなるほど綺麗で美しいよ」
彼女の腰を撫でながら俺は彼女にそう囁き続ける。
「ときわぁ…胸がきゅってするよぅ…ああ…素敵…」
俺と綾城はおでこを重ねて見つめ合う。彼女の瞳は濡れていた。
「それでいつも君が頑張ってることを俺は知ってるよ。君はみんなが笑顔になれる夢のために頑張る素敵な女の子だ」
そして彼女は涙を一筋流して頷く。
「…うん…。あたしは…いつも…頑張ってる…ありがとう常盤。傍にいてくれて…」
綾城は俺にぎゅっと抱き着いてくる。少し泣いている。だから俺は彼女の頭をいっぱい撫でてあげたんだ。
そして落ち着いたころに綾城がぽつりぽつりと自分語りを始めた。
「地雷系メイクって素敵よね。誰でも同じように可愛くなれるの。高校もそれで通った。制服をバリバリ改造してギラギラに目立ってた問題児。今となって黒歴史ね。まあ楽しかったけど」
「まじで中二病だな」
「まあ女の子がぐれるなら男に走ってビッチになるか、ファッションを奇抜に自己主張するかの二択みたいなところあるしね。そう言えば最初にエディレウザがあたしの地雷系ファッションを見たときはすごく動揺してたわね」
「まあスオウは真面目系だもんな」
「そうよね。彼女は真面目なのよね!そこも素敵なところよね。見てこれ!」
~メッセアプリのトーク画面~
綾城姫奈
この間、裏原のショップで可愛い熊さんのシャツ見つけちゃったの!素敵でしょ!見て見て!
【アップされた写真】
包帯を巻いた熊さんのプリントTシャツ
エディレウザ・レイチ
怪我しているのは可哀そうだと思います。
綾城姫奈
今度一緒に買いに行きましょう!
エディレウザ・レイチ
いま会社が忙しいので無理です。
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「まじで真面目だ?!」
ファッションに真面目にツッコミ入れちゃってるのマジ真面目過ぎると思うの。というか前にメールを貰った時もそうだけどネットだと敬語キャラなのね。
「それに会社にすごく集中してるみたいで今プライベートでは全然遊べてないんだって。一緒に遊びたいけど忙しいなら仕方ないわよね…ふぅ…」
スオウならこの間俺んちに来たぞって言ったらもしかしてヤバい?というかスオウよ、もしかして綾城のこと避けてる?
「最近だと返信も全部スタンプなのよね…きっと読む時間も惜しいくらいに忙しいのね…。でも寂しいわ…」
でも俺が電話かけるとわりとすぐ出るぞ。けっこう長電話はしょっちゅうだって言ったらもしかしてしばかれる?
「ふぅ…会いたいわねエディレウザ…」
綾城はすごく寂しそうにそう呟いた。なんか可哀そうになってきた。これはいっちょ俺がセッティングしてやるべきだと思った。




