第124話 彼氏を使ってバトルするのはやめてください!!
キャンパスのベンチでノートPCを広げて、研究データ見てる俺かっこいいごっこしていた時のことだった。
「あ、あの!!」
「あれ?むーちゃん?どうしたの?」
ムーちゃんが俺の目の前に立っている。どこか切羽詰まったつまったような顔をしている。
「お願いがあるの!」
「話を聞こうか…」
お願いしたいことがある→俺にしか頼れない→俺が好き(ワンチャン)。ムーちゃんは俺の隣に座って、俺の手を握りこう言った。
「一日だけでいいから彼氏のフリをしてほしいの!!」
その瞬間俺の全身に電流が流れたような衝撃を受けた。偽の彼氏彼女関係!それは間違いなく確定的好意を持っていることの証!ワンチャン超えたどころか確定じゃん!好かれてるどころか愛されちゃうレベルじゃね?これ!
「とりあえず事情を聞かせてくれないかな?」
「うん。そうだね…実はね、小学校からのお友達と久しぶりに会うんだけどね…話の流れで彼氏がいるなんて見栄を張っちゃったの…」
「へぇ。でもムーちゃんなら俺じゃなくても男友達いっぱいいるよね。そっちに頼むのは?」
「だって…常盤くんが一番…もう…言わせないで…」
ムーちゃんは俯いて顔を少し赤く染めていた。これ勝てる?勝てるよね!?やだあ!こんな素敵な青春イベントが飛び込んでくるなんて素敵!
「わかったよ。俺でよければ付き合うよ」
「ありがとう!常盤くんっていい人だよね!」
こうして俺はムーちゃんの偽彼氏の役を引き受けることにしたのだった。
そしてやってきたのは新宿。ここでお友達とお茶することになっているらしい。
「ムーちゃん!こっちこっち!」
歌舞伎町入口の前にて一組の男女と合流した。ムーちゃんは女の子の方とハイタッチしてキャッキャとはしゃいでいる。
「久しぶりー!ひなちゃんはげんきー?」
「げんきげんき!むーちゃんは相変わらず難しいことばっかりしてるの?」
「そんなことないよー。ほら。こうやってちゃんと彼氏もできたんだよ!」
「どうもカナタです。よろしくね」
俺はさらりと自己紹介する。ひなちゃんとやらは俺のことをジロジロとどこか値踏みするように見て。
「…やばい人?」
「はは。カナタ君はそんなことないよ。普通の大学生さんだよ」
「へーえ。そうなんだ」
あんまり俺に興味がなさそうな反応だった。
「私は野本陽菜乃。で、この人がわたしの彼氏!」
「はじめまして。四月一日八月一日と書いてワタヌキ・ホヅミです。よろしくねカナタ君。それにムーちゃん」
ワタヌキとやらはたいそうなイケメンであった。でもなんか体の動かし方がいちいちかっこつけているという感じを受ける。それに視線がなんか少し変な感じがする。俺へは全く興味なさげなんだけど、ムーちゃんにはすごくジロジロと目を向けている。魅力的な可愛い女を見る男の目も混ざっているけど、それ以上にどこかビジネスライクな匂いを感じるのだ。なにか違和感を感じながら俺たちはカフェに向かった。
適当にお茶を注文し、女性陣は歓談を始めた。小学生時代の話や中学時代の話なんかで盛り上がっている。
「本当にムーちゃん面白いんだよね。サッカー部の人気な子に告白されても、『私は相対性理論がわかる人じゃないと無理かな…』って断っちゃってね!」
中二病の類かな?でもこの子の場合相対性理論をガチで理解できないといけないんだろうな。おれ?当然そんなものわからないよ。
「やめてよーもう!あの頃はちょっとそういうのがかっこいいと思ってただけなの!」
「へぇそうなんだ。じゃあそっちのカナタ君はどうして付き合ったの?どこがよかったの?」
これは…?!まさか女子同士の彼氏の探り合いか?!野本さんからはそういうプレッシャーを感じている。通称彼氏カードバトル!彼氏という存在でお互いにマウントを取り合うという女子特有の争い!
「えーえっとね。……背が高いところかな……あはは」
ムーちゃんの声音には自信がなさげだった。まあ偽彼氏だからね
「たしかに背は高い方だよね。ホヅミくんと同じくらいかな?」
背が高いという俺の属性は向こうの彼氏のスペックにより封殺されてしまった!
「カナタ君はコーダイ生だよね。でもムーちゃんも同じだし。まあ同じ大学で付き合うって普通だよね」
「ぐはぁ」
ムーちゃんが地味にダメージを受けている。コーダイ生の彼氏というカードはけっこう強いのだが、彼女も同じコーダイ生である場合はその効力は無効となるのだ。
「ふーん。ひなちゃんの彼氏ってどこの人なのかな?何をしているの?」
ここで果敢に攻めていくムーちゃんのメンタルがわりと頼もしく感じる。
「えーそれ聞いちゃう?聞いちゃうの?ふふふ」
だけど相手の反応は間違いなくトラップにかかったカモを見る笑みである。そしてカードオープン!!
「ホヅミ君はね。地下アイドルなの!」
「ぎゃはぁ!!」
またもムーちゃんがダメージを受けた。将来安定のコーダイ生よりも、地下アイドルと付き合っている方が女子的にはつよつよである。
「もうファンからいっぱいプレゼントをもらっててね。わたしがなんどもお部屋を片づけ手上げてるのにすぐにプレゼントで散らかっちゃうの!ぷんぷんだよ!」
「ぶろろぉ!」
女子のマウントって怖い。今の台詞だって『私の彼氏ってぇ超モテモテ!でも私はその彼氏の部屋に自由に出入りできる一軍の女なんだよ!ざまぁ!』って感じだろう。なんでこんなに国語力試されちゃってるんだろう?偽彼氏イベントってこんなにきついイベントだっけ?
「ふ、ふふふ!あははは!」
あ、なんかムーちゃんの目が逝っちゃってる。度重なるマウントダメージで心がきっと壊れてしまったのだろう。いつぞやの楪とのバトルのときと同じような目をしてやがる。
「地下アイドル?へぇ?すごいけど、カナタ君もすごいんだよ。今は引退してるけど、浪人時代は札幌一のホストだったんだよ」
で、でたー!禁じ手カード!彼氏はホスト。ホストとは女子から見た男子カーストランキングナンバーワンの男たちである。だけどホストと付き合ってるとは客としてなのか本命としてなのかでカードの攻撃力が劇的に変わるのだ。
「へぇホストなんだぁ。でもそれってムーちゃんに本気なの?」
「うん。だって私一回も貢いだことないからね!告白だってカナタ君からだったし!」
すらすらと嘘が出てくるのこわ!これが理ケジョ姫の話術なのか?!
「ホスト時代のカナタ君ってホントすごかったんだよ。ドンペリは当たり前タワーは立てまくりだったのでも枕は一切やらないしそれどころか後輩ホストたちに女の子たちを貸してあげちゃうくらい女には困ってなかったみたいなレベルで営業スタイルは正統派の王子様営業だけど嵌った女の子たちはきっちりと風呂に沈めてたんだよワイルドな笑顔に良く似合うDV営業に痺れる女たちが店の外まで長蛇の列を作っちゃってホント大変だったんだっていまでも私がカナタ君の部屋でくつろいでるときだって昔のお客さんたちがDVされに訪ねてくるんだから!私はその列を捌くの本当に大変なんだよねでも私には甘えん坊さんでかわいいんだよふふふ」
やめて!?俺がDV常習犯みたいなのやめて!?一回もそういうことしたことないよ!男子の名誉を泥に塗ってまで女子は彼氏カードバトルに修羅になってしまうのか…恐ろしいぃ?!
「す、すごいんだね。はは…」
向こうもひいてる!ドン引きしてる!二人の俺を見る目がすごく冷たい。人間の屑を見るような目だ。
「そ、そうだ!これからホヅミ君のライブやるから二人も来てよ。超かっこいいんだよ!チケットはただであげるし」
野本さんはそう言ってチケットを差し出してきた。そしてそれを受け取ってライブ会場に案内される。すでに女の子たちが列を作って待っていた。
「じゃあ二人は表から入ってね。私とホヅミ君は裏から入るから。打ち上げで会おうね」
二人は手を振って去っていった。そして偽のカップルの俺たちだけがその場に取り残された。
「ごめんね!DVの王子様扱いしてごめんね!でもどうしても悔しくってぇ!」
「いや。まあべつにいいけど。なんでそんなに張り合ってるの?野本さんと仲は良さそうにみえるけど」
「私はもともと他の人とうまくやれなくて。いつも本ばかり読んでるような子だったけどひなちゃんだけが友達でいてくれたの。おしゃれもお化粧も教えてくれた。大好きな子。だけどいつも嫉妬してたの。明るくてみんなに好かれててそんな彼女が羨ましかった。だから今日くらいはちょっと。一回くらいは女の子として勝ってみたいって思って。でも駄目そうだね。偽の彼氏彼女じゃやっぱり敵わないよね」
「まあそうだね。だけど」
「だけど?」
「秘密を抱えているのは俺たちだけじゃないと思うよ」
ムーちゃんは首をかしげていたけど、俺は確信をしていた。今日ムーちゃんが野本に呼び出されたのはただ遊ぶためとか彼氏自慢のためってわけじゃないと思う。きな臭さを感じた。だから飛び込んでみよう。相手の罠ごと陰謀を食い破ってやろうじゃないか。
次回!地下アイドルカナタくぅん!




