第6話 深く眠れ
*** リン 12歳 3月 ***
幼いころから信頼し、頼ってばかりいたサキちゃんに、自分の思いをやっと伝えることが出来た!
ひそかに思ってきたこと、きっと両親は怒るだろうけど……。
サキちゃんは、自分の思いにきっと応えてくれる。
今までの自分の殻を破って一歩でも前に踏み出すんだ!
そうだ!!ギャルになってみるのも面白いかも……!
リンの想像は、どんどん膨らんでいった。
* * *
その夜、リン達の住む町に、春の嵐が吹き荒れた。
ものすごい雷が鳴り響き、木々を激しく揺らしていた。
昼間の興奮と、外の雷の音でリンはなかなか寝付くことができなかった。
そっとベッドを抜け出してみた。
ヒンヤリとした廊下の感触が、高揚した気分を少し冷ましてくれた。
2階のホールの大きな窓から両腕で自分を抱きしめ、暗い空に稲妻の描く怪しい模様を見つめていた。
「キレイ……」
心臓がドキドキと音を立てている。
疲れてきたのか、大きなあくびが出た。
バリバリバリッ……ドォォン……
ガラス窓を激しく震わせ、辺り一面が真っ青に染まる。
リンの網膜が真っ白に染まった。
「きゃあー!」
リンは悲鳴を上げ、慌てて窓辺から飛び退いた。
そして、
時が止まった……。
* * *
鏡に映るリンは、派手ではないが、シンプルで洗練された佇まいだ。
クールでミステリアスな雰囲気で、自信たっぷりな姿。
隣を見ると、サキは、明るい色に髪を染め、派手な化粧をしている。
短く巻かれたスカートから覗くルーズソックス。リンが思う『完璧』なギャルの姿だった。
お互いの格好を見て笑い声が溶け合う。
* * *
リンはサキの背後に座り、サキの髪を、手で慈しむように、丁寧に梳く。
鏡に映る表情から、サキがうっとりとしているのが分かる。
沈黙さえも心地良く感じられる。
* * *
サキの細く白い指先をとり、小さな爪にそっと紫色を置いていく。
サキは丁寧に色を乗せられた指先を、高く陽にかざす。
光を吸い込んだ爪は、まるで宝石のように輝いて見えるのだった。
*** ユキ 13歳 9月 ***
季節は厳しい残暑が残る9月の終わり頃だった。
(……どこ?)
彼女が目を覚まし、初めに見たものは、真っ白な天井だった。
(なぜ、動けない?
いや、体が動かない?)
体に力が入らない。まるで他人の体のように感じられた。
(周り、うるさい!)
周りの大人達の声が遠くのこだまのように聞こえる。
彼女は、階段から落ち、頭を打ったショックで、半年近く意識を失っていたことを告げられた。
(……そう。それで……。)
目を覚ました彼女の眼には、優し気で、内気な光はなく、冷たく、深く考え込むような色に変わっていた。
半年近くも寝たきりだった体の力は衰えていた。
それを取り戻そうと必死にリハビリに取り組んでいた。
病室での彼女は、いろんな本を読み漁り、疲れるとルビーのキーホルダーを眺め、遠くの空をにらんでいた。
時折襲ってくる頭痛に、
「サキ……」
と呟きながら、キーホルダーを握りしめ、痛みの去るのを必死に我慢するのだった。
両親はケガをしたリンが回復していく姿を見て喜んだが、昔の優しく、内気で両親に従順な良い子はそこにはいなかった。
見た目は、感情が欠落した、人形の様な印象だったが、その中身はサキへの赤い執着が熱く秘められていた。
自我を押し通すような変貌を遂げてしまっていた。
回復したとはいえ、今までのように『斎藤学園中等部』へ通わせることを断念し、両親は遠く離れた系列の学校へと通わせることとした。
両親の鎖から解き放たれた彼女は、クールでミステリアスな雰囲気を纏う少女へと変貌していった。
サキ……私の名前を、あなたの苗字からわけてもらうわ。
私は……『ユキ』……。
『リン』私の意識の下で眠りなさい。




