第5話 卒業式の日(3)
*** リン 12歳 3月 ***
誰もいなくなった教室。
リンはサキが教室に入っていくのを見かけた。
そっと後をつけ、教室の入り口で、窓辺のサキを見つめる。
「……私、これでよかったのかな……?」
俯くサキの悔しそうな独り言が聞こえた。
リンはサキに駆け寄り、背後からサキを抱きしめた。
リンにとって、サキの温もりがすべてだった。
「あのね……私、サキちゃんのこと、ずっとすごいって思ってたの。」
震える声で告白する。
「いつも優しくて、冷静で、正義感を持って自分の意見を言える。
私には、一生かかってもできないことだから……」
「……ありがとう。
でも、私……みんなと普通に仲良くしたかっただけなんだ。」
「分かってるよ。でも、サキちゃんの正義感は、絶対に間違ってないから。」
その言葉を聞いたサキの目から熱い涙があふれ、リンの手に落ちた。
リンはサキの背中からそっと離れ、ポケットから用意していた二つのキーホルダーを取り出した。
違うのは、石の色―赤と青。
石の留め具の部分に二人のイニシャルが刻まれていた。
リンの温かい指が、そのうちの一つ——深い青を湛えた石をサキの掌にそっと載せる。
「……卒業祝い。誕生石のキーホルダーだよ。」
「私に?……わあ、綺麗な青。
これって、サファイア?」
サキはキーホルダーを掲げ、窓から差し込む春の陽光に透かした。
「きれい……。
夜が明けて、朝の光が混ざり始めた瞬間の空みたい。
静かで、深い青。」
「ふふ、サキちゃんは詩人だね~」
リンが柔らかく微笑む。
「サファイアは、サキちゃんの誕生石なの。石言葉は『誠実』。
サキちゃんそのままでしょ?」
いたずらっぽく小首を傾げ、左手の細い指先で自分の頬を撫でる。
リンはもう一つのキーホルダーを掲げた。
燃えるような真紅のルビーが光る。
「こっちは、私用。お揃いにしたんだ。ルビーは私の誕生石。」
サキの真似をして同じように、赤を光にかざして見せる。
「指先から零れ落ちた鮮血みたい。
夕日の輝きを閉じ込めた、『情熱』の赤。」
サキの口ぶりを真似てみた。
リンはサキの手のひらで二つの石を並べ、囁いた。
「ねえ、知ってる?赤と青を混ぜると、綺麗な紫色になるんだって。
宝石そのものは混ざり合わないけれど、私達のカラーは『交わる』ことができるの。」
自分の物とは思えない、いつにない大人びた声が出た。
「赤と青の光が重なった場所だけ、新しい色が輝くでしょ?
自分の色のままで、一緒にいるだけで、一人じゃ作れない景色が作れる。
このキーホルダーは、その『証』にしたいの。
いつまでも……そして、私達は、いつか紫色の宝石になるの!」
真剣なまなざしでサキを見つめ、二つのキーホルダーをサキの手に握らせ、を両手でそっと包んた。
目を丸くして驚くサキ。そして、リンを見つめ返してゆっくりと、深く頷くのだった。
やがて、どちらからともなく、『フフッ』と笑みがこぼれ、お互いの肩を抱き合うのだった。
その日の夜、リンの身にあんなことが起ころうとは思いもしなかった。




