第3話 卒業式の日(1)
サキとリンは、広い公園のある古い住宅街で育った。
サキの家と公園を挟んで向かい側にある広大な古風なお屋敷がリンの家だった。
サキは、活発で負けず嫌い。『正義感』のかたまりのような少女だった。
自分が正しいと思ったことは、クラスの男子だろうが大人だろうが食って掛かるような子供だった。
リンは『お屋敷のお嬢様』と呼ばれて育った。
祖父は『齋藤学園』の理事長をしており、リンを溺愛していてた。
リンはよく祖父の膝の上で、『校舎の設計をしたのは自分』であること、『本来なら学校に不要な設備を隠して作った』などの自慢話を楽しそうに聞いていた。
一方、彼女の両親は、躾に厳しかった。
「あれをやってはいけない。これをやってはいけない。」
色々と行動を制限されることによって、リンは元々その気配はあったのかもしれないが、いつしか両親の顔色を窺い、自分の内なる意思を表に出せない、内気な子になっていった。
サキの方が数ヵ月、後に生まれたが、周囲の目にはいつも内気で大人しいリンが妹のように、活発なサキが姉のように映っていた。
実際、リンはもじもじとサキの背中に隠れ、いつもサキを頼りにしていたし、サキはサキで、そんなリンがかわいくてしょうがなかった。
*** サキ 11歳 冬 ***
「やっぱ、『リンお嬢様』は言うことが違うね~」
ある日、クラスのお調子者の男子達が、リンの一番嫌がる『お嬢様』という言葉でリンをイジりだした。
「『お嬢様』なんて言わないで……。」
「えー?だって、こんなにお上品なの『お嬢様』しかないっしょ?」
それまで普通の会話をして笑い合っていたのに、リンは固まって、俯いてしまう。
「やめてよ、リンが嫌がってるじゃない!」
サキの男子達を非難する声が響き、一瞬、教室が静まった。
その場にいた全員が、声を発したサキへ視線を向けた。
(リンをいじめさせない! 私がリンを守るんだ!)
だが、相手の男子達は今度はサキを指さし、せせら笑いながら、
「事実を言ってるだけだろ。
なあ、また出たよ、結城の『正義の味方ごっこ』。
見ろよ、こいつマジで顔怖いんですけど~。
ガチギレしてんじゃん!」
「……笑い事じゃない。やめてって言ってるの!」
「はいはい、ごめんねー。
あー怖い、怖い。近寄らんとこ。
行こうぜ、あいつマジで空気壊すからさ。」
周囲の視線は冷ややかだった。
関わりを恐れて目を逸らす者、面白がってクスクスと肩を揺らす者達。
悔しさに唇を噛むサキと、その傍らでおろおろと涙を浮かべるリンだけが取り残された。
「サキちゃん、ごめんね……私のせいで……。」
背後からそっとリンに抱きしめられた。
「!」
強く握りしめて冷たくなった手をリンの柔らかいてに包みこまれた。
サキの手の小さな震えがリンに伝わる。
(ありがとう、リン。
でも、リンのせいじゃないからね……)
* * *
その日を境に、サキは男子達に『関わると面倒な奴』としてハブられるようになってしまった。
(どうして、正しいことをしようとするのが、こんなに苦しいんだろう?
自分の正義には、何が必要なの?どんな強さが必要なの?)
自問自答を繰り返す日々。
その答えを見つけられないまま、卒業式の日を迎えた。
*** リン 11歳 冬 ***
「やっぱ、リン、『お嬢様』は言うことが違うね~」
ある日、クラスのお調子者の男子達が、リンの一番嫌がる『お嬢様』という言葉でリンをイジッていた。
「『お嬢様』なんて言わないで……」
それまで普通に楽しく会話をしていたのに、言葉がだんだん小さくなって、俯いてしまった。
「やめてよ、リンが嫌がってるじゃない!」
サキの男子達を糾弾する声が響き、一瞬、教室に音が無くなった。
サキの声は怒りで震えていた。
(やめて、サキちゃん。お願い……。)
「また出たよ~、結城の『正義の味方ごっこ』。
こいつマジでめんどくさいんですけど~。」
「……笑い事じゃない。ひどいって言ってるの!」
サキのこぶしが小さく震えている。
「はいはい、ごめんねー。あ~怖い、怖い。
行こうぜ、あいつマジで空気壊すからさ。」
悔しさに唇を噛むサキの横で、おろおろと涙を浮かべることしかできない。
「サキちゃん、ごめんね……私のせいで……」
サキの肩は小さく震えていた。
リンはサキをそっと抱きしめることしかできなかった……
(私さえ我慢していれば……う、ううん、そんなことない!
私がもっと『強ければ』、サキちゃんにあんな思いをさせなくて済んだのかも……。)
自問自答を繰り返す日々。
その答えを見つけられないまま、卒業式の日を迎えた。




