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深夜の理科準備室 青と赤と紫と  作者: マオ・ウミ


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第14話 文化祭前夜(1)

 高校生のサキには、かつての『正義感に燃える』姿はなかった。

 世界を睥睨(へいげい)する、完璧なギャルの『武装』は、校則をも、ものともしない。

 学校という名の水槽の中で、唯一無二の孤高の存在として君臨していた。

 中身は、ユキの冷徹な思想によって『過去(リン)』という名の不純物を濾過し尽くし、空虚で冷ややかな精神に書き変えられ、刹那の喜びを享受するようになっていた。


 高校生活を謳歌して1年が過ぎたころ、ユキは突然サキの前から姿を消した。

 入れ替わるように現れたのは、幼馴染のリンだった。


 再会を果たし、頼りなげで、触れれば折れてしまいそうな『過去(リン)』を抱きしめたい――ユキによって消し去られたはずの過去(おもいで)が目覚めてきた。

 また、劇薬のような知性で自分を塗り替え、精神の拠り所となった『刹那(ユキ)』を求めてやまぬ、胸を締め付ける思い。

 この二つの思いの間でサキの心は絶えず悲鳴を上げていた。


 ユキに『安っぽい偽物』と断じられた、光を見失ってしまったサファイアの青。

 ユキから授けられた、上辺だけを華やかに『武装』した、空虚な今の『自分』。

 何が真実で、何が偽りなのか。

 拠り所にしていた価値基準は、危ういバランスの上に立っていた。


 サキは自ら学園祭の実行委員に立候補した。

 降りかかる膨大な業務で脳を埋め尽くし、心の中に(おり)のように溜まった混乱を紛らわせるために……。



 *     *     *


 季節は再び、秋を迎えたが、一向に酷暑が去らない。

 サキの学校――『斎藤学園高校』の文化祭が翌週に控えた、ある夜のこと。


 *** リン 17歳 9月 ***



「ねえ、サキちゃんの学校の文化祭……私も行っていいかな?」


 リンはちょっとだけ勇気を出してサキに電話を掛けた。


 サキは笑いながら答えた。


「おけまる~。」


(よしっ、これでまた楽しみが増えた!)


 部屋の明かりを消し、部屋に飾ってある水槽に近づき、熱帯魚をうれしそうに眺める。

 水槽のエアーポンプの泡でLEDの青い光が揺れる。

 ベタを見ているうちに、意識がぼーっとしてきた。


(そう……。サキと一緒に学校に行かないと……。)



 *** サキ 16歳 9月 ***


 静寂を切り裂いて、リンから震えるような、控えめな声の電話が入る。


「ねえ、サキちゃん。

 サキちゃんの学校の文化祭……私も行っていいかな?」


(リン……。しょうがないな~)


 そしてその直後、スマートフォンの画面が、青白く光った。

 待ち焦がれた、ユキからの連絡だ。

 短く、断定的なメッセージでサキの心を締め付ける。


『文化祭、行くから』


(ユキ、やっと、連絡くれた……!)


 サキの抑えられない二つの思いが、手を伸ばせば届きそうなところまで来ていた。


『リン』を慈しみたいという思い。

『ユキ』を渇望する思い。

 そのどちらを優先すべきか、サキは分からない。


 二つの思いがサキの心を引き裂く。

 枕に顔をうずめ苦悶しても、胸の奥を焼く炎は治まることはなかった。


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