第15話 文化祭前夜(2)
*** リン 17歳 文化祭前夜 ***
時刻は22時を過ぎている。
細い指でスマートフォンの連絡先からサキの番号を選んでタップする。
軽快なメロディーの呼出音が聞こえる。
待つこともなく、スマートフォンのスピーカーからサキの声が聞こえた。
「サキちゃん、明日の待ち合わせ、何時がいい?」
明るく質問したのに、返ってきたのは、サキの大慌ての声だった。
「ごめんリン、ちょっと待って。
……今から学校に戻らなきゃいけなくなった。
大事なこと、忘れちゃって……」
「こんな時間に?」
素直な疑問を口にする。
「……だったら、私も一緒に行っていい?ううん、一緒に行きたいな。」
(深夜の学校に、一緒に忍び込む……?
なんだか楽しそうなことが待ってる予感がする……。)
この提案にサキがすぐに反応した。
「リン、まじソッコーで駅来て!お願い!」
縋るような叫び声を残しサキの通話が切れた。
急いで支度にかかった。
クローゼットから、普段着ないような、買った覚えのない服を取り出す。
赤色のカラコンをいれ、首元に血のように赤い石が揺れるチョーカーを着けた。
鏡に映る姿は、自分だけれど、自分ではない。
(……?えっと、これが……私……?)
鏡に映る自分が、ふっと笑った気がした。
(サキが待ってる……。)
* * *
駅に着いてどれくらいの時間がたっただろう。
「リン、待たせてゴメン……。
え?……ユキ?」
(……!)
サキに声を掛けられ、意識が戻ってきた。
(サキちゃん、また、私を『ユキ』って呼ばなかった?)
リンはゆっくり振り返り、サキに微笑みかける。
「もー、何言ってんの。私だよ、リン。」
小首を少し傾げ、左手の細い指先で自分の頬を撫でた。
「ねえ、サキちゃん、『ユキ』って人と間違えたの、2度目だね。
そんなに私に、似てる?」
声のトーンが低く出た。
(サキちゃん、驚いた顔してるけど、どうしたんだろ?)
*** サキ 16歳 文化祭前夜 ***
(待って、どうしよう……ガチでやらかした……)
文化祭の準備を終え、ようやく帰宅したサキの脳裏に、戦慄が走った。
いくつかの問題点のチェックを忘れていた。
明日、開始早々に露呈すれば、文化祭自体が大失敗に終わるだろう。
こんな失態、他のメンバーに言えるわけもない。
自分のプライドが許すわけもない。
(今すぐ学校に戻れば、何とかできる……はず。
だけど……一人で夜の学校に行くのなんて……絶対無理!)
息が荒くなり、肩が上下する。
暑さとは違う、いやな汗が頬を伝う。
そんな葛藤を切り裂くように、スマホが鳴った。リンからの着信だ。
「サキちゃん、明日の待ち合わせ、何時にしよっか?」
「ごめんリン、ちょっと待って……今から学校に戻らなきゃいけなくなった。
大事なこと、忘れちゃって……」
「こんな真夜中に?
……だったら、私も一緒に行っていい?
ううん、一緒に行きたいな。」
こんな真夜中に一緒に学校に忍び込んでくれる……。
「リン、まじソッコーで駅来て!お願い!」
サキは即座にメイクを直し、青い石の付いたチョーカーを留め、気合を入れ直し、夜の駅へと駆け出した。
駅に着いたサキはリンの姿を、すぐに見つけられなかった。
(リン……どこにいるの?)
電車の時刻が迫ってくるのに、リンを見つけられず、だんだん心配で焦ってくる。
何度もホームを端から端まで見渡した。
やっと、リンの横顔を見つけ、駆け寄った。
「リン、待たせてゴメン……。」
手を振り声を掛けようとして、息をのんだ。
そこに立っていたのは、サキが今までに見たことのないリンの姿だった。
シンプルで洗練された装い。
目には赤色のカラコン。
首元には赤色の石の付いたチョーカーが巻かれていた。
血のように赤い石が揺れながら街灯の灯を反射して光っていた。
「え?……ユキ?」
リンはゆっくり振り返り、
「もー、何言ってんの。私だよ、リン。」
小さく笑い、小首を少し傾げ、左手の細い指先で自分の頬を撫でた。
(あ……やっぱりリンだった。
私の勘違いだったの……かな?)
「ねえ、サキちゃん、『ユキ』って人と間違えたの、2度目だね。
そんなに私に、似てる?」
リンの目が温度がすっと下がった。
サキは瞬きを繰り返した。
(ユキの目に……似てる……気がする……。
赤のカラコン入ってるから?
それより、リンって、こんな目だった……?)
ホームに電車が滑り込んできた。
二人は黙ったまま電車に乗り込んだ……。




