第9話 出会い(3)
*** ユキ 14歳 8月 ***
リンが怪我をしてから、2度目の夏が来た。
連日、ニュースでは最高気温の更新で騒がれていたが、その日だけは奇妙なほどに過ごしやすい、涼やかな風が吹いていた。
ユキは、自分が育った街の駅のホームの日陰の中で、一点を見つめながら、何かを待つように立っていた。
揺るぎない自信を湛え、夏の陽射しさえも凍らせるような、クールでミステリアスな雰囲気をまとった少女の姿だった。
彼女の首に巻かれたチョーカーには、赤のカラコンに合わせた、血のように赤い石が光っていた。
突然背後から、
「リン!?」
怒気を含んだ声が飛んできて、急に手首をつかまれた。
ユキは、声の飛んできた方へ、ゆっくりと振り返り、低く、冷たく、突き放すような声で答えた。
「……誰?」
ユキは小首を傾げ、左手の細い指先で自分の頬を撫でながら、声をかけてきた少女を品定めするように、上から下まで冷淡な視線を絡みつかせる。
手首をつかんできた少女は、慌てて手を放し、気圧されたのか、少し後ずさった。
声をかけた少女は、サキであった。
ユキの声を聞いたサキの表情には、怯えと絶望の色が浮かび、目にはうっすらと涙がにじんでいた。
「ごめんなさい……友達に、あまりに似ていたから。……間違えました。」
消えそうな声で謝り、俯いてしまった。
「ふうん……」
ユキはゆっくりと瞼を閉じ、サキへの無遠慮な視線を解いた。
瞼を開けサキを見つめ直す。
視線の温度は変わらない。
「あなた、すごく……寂しそうな目をしてた。」
ふっと、冷たさの中に優しげな声色が混じるが目の色は冷たいままだった。
サキは驚いた表情で顔を上げた。
「……時間ある?ちょっと付き合いなよ。」
ユキは、戸惑うサキになど構うことなく、その細い指先で手首を強く掴んだ。
サキが一瞬、ピクッとおびえたように反応する。
「私はユキ。……おいで。サキ……。」
ちょうど滑り込んできた下り電車の中へとサキは緊張したまま、ユキに続いて電車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、かすかな振動とともに電車が動き出す。
ようやくサキの手を放し、腕を組み電車のドアに寄りかかる。
電車の単調なリズムが二人の間の濃密な沈黙を埋めている。ユキはただ前を見据えて、サキの視線を拒絶するように佇んでいる。
(サキだ……!)
ユキは、心の奥から聞こえてきた声を無視した。
何駅過ぎただろうか、
「……降りるわよ。」
ユキはサキに背を向けて歩き出す。
「あ、あの……。ユキ……さん……?」
サキは不安を隠しきれない声で、ユキを呼び止めようとした。
「『ユキ』でいいわ。ついてきて。」
サキは慌てて、ユキに従い電車を降りた。
降り立ったのは、サキの見知らぬ駅だった。




