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じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.1

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第21話 白石鷹昌の企み

「いや~、兎和のリアクションはマジ笑えたわ。そうとうテンパってたぜ。かわいそうなくらいブルってたし」


「あの人数で囲めば当然だ。で、鷹昌。やっぱ兎和のヤツ、神園美月にチクるんじゃないのか? 本当に大丈夫かよ」


 友達に話を振られた俺、白石鷹昌は「問題ない」と言葉を返す。

 部活の仲間である小俣颯太と馬場航平を含めた4人を連れ、学校近くのファミレスへ訪れていた。ゴールデンウィークの影響か家族連れが多く、店内は少し騒がしい。


 店員に案内されたのは壁際のソファ席。今はポテトフライとドリンクバーのグラスをお供に、さっき部室で見物した愉快な茶番の話題で盛り上がっている。


 ストローに口をつけ、俺は笑みを深める。

 今はとても気分がいい。同姓のクソ陰キャたる『白石兎和』を大勢で囲み、半泣きになるほどゴン詰めしてやったのだ。


 ヤツは、学校では『じゃない方の白石くん』と呼ばれている。

 というか、そう仕向けたのは何を隠そうこの俺。入学早々に同姓がいると聞かされて不快だったから、わざわざ悪評を振りまいてやった。


 俺はイケメンだし、コミュ力も高い。リーダーシップやカリスマ性まで備えている。だから、クソ陰キャの立場を落とすくらい楽勝だった。


 具体的には、どっちが優れた白石かを比較しつつ誇張して宣伝した。ダメ押しに『アイツは偽物で、俺じゃない方の白石くんだ』と盛大にイジってやった。


 すると間を置かず、兎和に『じゃない方の白石くん』という笑えるあだ名が定着した。ついでにスクールカースト下層へ放り込み、灰色の高校生活をプレゼントすることにも成功した。


 これで兎和ごときに気分を害されずに済む、と清々していた。

 それなのに……あのクソ陰キャ、よりによって神園美月に近づきやがって。


 栄成サッカー部の『期待の新人』にして未来の『10番』様だぞ。断言するが、俺より優れた男子生徒は学内に存在しない。容姿も将来性もトップレベルだ。


 であるならば、カップリング相手は学内トップ美少女と相場は決まっている。

 ましてや俺はあの日、神園美月を見つけた……見つけてしまった。


 忘れもしない。入学式が終わり、友達に囲まれながらしとやかに廊下を歩く彼女の姿を。


 異次元に整った顔立ちや超絶的なスタイルをはじめ、光に触れて青みがかる長い黒髪も、神秘的な輝きを秘める青い瞳も、頭の天辺からつま先に至るまですべてが美しすぎた。


 息が止まったかと錯覚するほどに見惚れた。女優やアイドルだって敵わない。この出会いは運命だ、必ず自分のモノにしてやる――瞬時にそう強く決意させられた。


 だから、絶対に兎和が許せない。俺の女に接近するだけでなく、名前で呼ばせるなど万死に値する。


「おい、鷹昌。聞いているのか?」


「ん? ああ、悪い。兎和がチクるんじゃないか、だっけ?」


「そうだよ。お前が出だしたんだろ? 神園から遠ざけるって」


 神園は、気位の高い猫みたいな女だ。

 ずば抜けた美しさに誘われ、その身に触れようとする男子生徒は後を絶たない。だがしかし、相手が何者であっても興味ないとばかりにスルリとかわされ、あっという間にどこかへ隠れてしまう。


 言うまでもなく、この場にいる5人とも挑戦した。結果は惨敗。

 まあ、わかりきっていた結果だ。俺ですらダメなのだから、他のヤツらなんて最初からノーチャンスだろ。それだけに謎なのだ……なぜ神園が、兎和ごときをランチに誘ったのか。


「神園に近づくための鍵を、兎和は隠し持っている。だから、どうにか聞き出すって」


「そうそう。だったら、囲んで詰めたのは失敗じゃね? 余計に警戒されて秘密を聞き出せなくなるじゃん」


 正面のソファに座るのは、参謀役にして部活ではCFとしてプレーする小俣颯太おまた・そうた。その隣は、お調子者でSHの馬場航平ばば・こうへい

 この二人が、フライドポテトへ手を伸ばしながら順に発言した。


「大丈夫だって。鷹昌の指示に従えば全部上手くいくよ」


「めんどくせえ。軽くボコっちまえば話は早いんじゃないか?」


 続いて口を開いたのは、気の利くDMFの中岡弘斗ひろととヤンチャ系CBの酒井竜也りゅうや。それぞれ俺の左右に座っている。


 ここにいる全員がセレクション合格者で、D1所属。

 つまり、明日の公式戦のスタメンの半数がここに揃っているわけで――すると必然、リーダーでトップ下を務めるこの白石鷹昌こそがチームの実質的な支配者となる。


 それはともかく、神園と兎和について考察をさらに深める。

 この二人の接触には必ず理由がある。そう勘づいた俺は、兎和に近づいて秘密を探ろうと考えた。


 しかし、思惑通りにはいかなかった。何を考えているかよくわからない『山田ペドロ玲音』が、それとなく兎和をこちらから遠ざけるのだ。今日のミーティング終わりもそう。思い出すと腹が立つ。


 玲音はかなり厄介なヤツだ。サッカーの実力に加え、高いコミュ力まで備えている。それにあの謎の迫力……僅かながら、何かの能力者である可能性も捨てきれない。


 おまけに、学校生活中はもっとダメ。

 兎和はいつもバスケ部のデカいヤツと一緒にいて、ガードが硬い。


 このままでは埒が明かない。クソ陰キャをますます調子づかせるだけだ……実際、無様にスタメン落ちした兎和を神園が構うなんて事態が起きた。


 本来なら妨害したかったが、体裁を考えて引くしかなかった。だからこそ――強引に状況を動かす必要があると判断した。


 俺の優れた頭脳にかかれば、アイデアなんてすぐに閃く。

 採用した手段は、『大勢で囲んでガン詰めして無理やり秘密を聞きだす』といったもの。ただしリスクとして、最悪はイジメとして判断される恐れがあった。


 そこで目をつけたのは、松村康夫。

 単純で御しやすい性格をしており、今回の計画にうってつけだった。


 派閥の末端メンバーで、どうなっても気にならない相手。もしイジメと判定された場合は単独犯として責任をとってもらう。包囲網を形成する俺たちはただの立会人。ケンカにならないよう見守る善意の第三者。


 そうして、俺の完璧なアイデアは狙い通り進む。 

 適当な話を吹きこみ、おだててやる。すると松村は面白いように踊ってくれた。


 部室へ呼びだされた兎和を大勢で囲み、プレッシャーをかけて秘密を聞きだすべくゴン詰めする。ついでに流れを誘導し、神園からも遠ざけられそうな展開をたどる。


 ところが、あと一歩のところで邪魔が入った。

 永瀬コーチが突如現れ、場を解散させられたのだ。


 改めて、頭のなかで本日の結果を整理する……成功とも失敗とも言いきれないが、クソ陰キャの泣きそうな顔を見られてスッキリはできた。


「兎和にはムカついていたから、勢いあまって少し無茶したな。最後のツメにも失敗した。でも、問題ない。首謀者は松村で、俺たちは善意の第三者だからな。それに、気分爽快だろ?」


 確かに、と一斉に笑い声を上げる四人。

 俺たちは元から、神園と兎和の噂を聞いてイラッとしていた。むしろクソ陰キャに立場を思い知らせてやれたので、メンタル的にはプラスだ。


「ていうか、俺が後先考えず強引な手段に出たと思ってんの?」


「え、違うの?」


「バカかお前、もう次の手は考えてある。女子マネの小池恵美いるだろ? アイツ、俺がタイプなんだってさ。今度はそれを上手く利用する」


「マジかよ、鷹昌……俺さあ、神園がダメなら小池ちゃんでもいいやって思ってたのに。もう手とか出しちゃった?」


 航平の質問に、俺は不敵な笑みを返す。答えは想像にお任せします、ってな。

 なんにせよ、今度は小池恵美を利用して同性のラインから攻める。その方が、神園の警戒も緩むはず。それで、機を見計らってこの俺のご登場ってわけだ。


「まあ、今日の愉快なディスカッションはちょっとした憂さ晴らしみたいなもんだ。次は必ず秘密を聞き出してやる……とはいえ、今回のほとぼりが覚めるまでは大人しくしておくか。あと竜也、あからさまな暴力は絶対に禁止だぞ。監督やコーチにバレたら面倒なことになる」


「わかってるよ。陰キャくんが調子に乗ってたら、トレーニング中にガッツリ削ったる」


 俺の発言には誰も異論を唱えない。理由は、全身から溢れるカリスマ性に魅了され……というのもあるが、一緒に行動した際の『おこぼれ』に期待しているのだ。


 神園の周囲にいる女子はレベルが高いからな。ワンチャン本人狙いでダメならターゲットを変更する、そんな魂胆が透けて見える。


 まあ、結局は俺と神園がカップルになる。こいつらはそれぞれ友人女子とくっつき、めでたしめでたしのハッピーエンドだ。ついでにスクールカースト最上位に君臨する男女グループの爆誕である。


 上手く行けば、一生思い出に残るような『夢の青春スクールライフ』を過ごせるに違いない。

 近く訪れるであろう未来を夢想し、俺は思わずほくそ笑む。


「でも、そうなると……神園が兎和とランチしたって話を聞いて、俺ら廊下で二人に絡んだじゃん。あれってかなりイメージダウンにならない?」


 弘斗はジュースの入ったグラスに口をつけながら、ふと思いついたように言う。

 そんなこともあったな、と俺は今さらながら思いだす……あのときは気持ちがはやり、ついやらかしてしまった。


 後々冷静になり、みんなで話し合って『兎和を使ってフォローさせれば帳消しになる』と結論を出した気がする。


「……それも問題ない、すべて作戦のうちだ。俺の経験上、神園みたいなお嬢様タイプはギャップに弱い」


「ギャップ? 洋服の……じゃなくて、ギャップ萌えとかの方の話か」


「そう。ちょい尖った男子同級生が、些細なキッカケから改心していく姿にコロッといっちゃうやつな。チャラいけど実はすごく誠実でした、みたいな。しかもイメージマイナスからプラスへ転じる際の方が、感情の振り幅は大きい。それにこの場合、最悪なのは無関心だ。思うところが何もなければ、駆け引きすらしかけられず――」


「どうした鷹昌、いきなりめっちゃ喋るじゃん」


 航平のツッコミを受け、ハッと我に返る。

 つい取り乱してしまった……俺はイケメンでコミュ力が高く、そのうえ将来有望なサッカー選手だ。常に自信と余裕にあふれ、不敵かつ穏やかに笑う男でもある。


 いま流行りの『スパダリ』そのもので、女子にとっては理想の存在だ……けれど、ほんの少しだけ短所を持ち合わせている。


 あえて言語化すれば、『感情が高ぶりやすく、それに伴って冷静さを失う』となる。

 まあ、俺という人間にかかれば欠点なんて魅力に早変わりだ。完璧に見えて少し抜けている、みたいな。ほら颯太、これがさっき言ったギャップだぞ。


 しかしながら、俺は反省もできる男。近頃はメンタルトレーニングに余念がない――ジュニアユース時代、この些細な欠点が原因ですべて台ナシになった。Jリーグアカデミー所属なのに、わざわざ栄成高校ごときに進学した理由もそこにある。


 とはいえ、おかげで神園美月を見つけられたのだから、人生なにがあるかわからない。まさに災い転じて福となす。


 とにかく、俺は二度と失敗しない。必ずや栄成サッカー部を全国制覇へ導き、高校卒業と同時にJリーガーとしてデビューするつもりだ。


「つーか、マジ小池ちゃん羨ましいわあ……」


「悪いな。どうやら俺はこの世界の主人公らしい」


「なんだそれ、逆にダサく感じるわ」


 冗談をかわし合いながら、颯太、航平、弘斗、竜也、たちの顔を順に眺める。

 どいつもこいつも脇役臭を発してやがる……そう。この世界の主役は俺で、ヒロインは神園美月だ。


 今は苦難の道を歩んでいるが、所詮は演出上のスパイスにすぎない。近い内に環境はガラッと変わり、誰もが『白石鷹昌』というサッカー選手に注目する日がやってくる。


 いつその瞬間が訪れてもいいように、しっかり爪を研いでおかないと。

 ついでに、気に入らないヤツをイジってリフレッシュしながら、青春スクールライフを存分に謳歌させてもらうとしよう。


 ああ、明日の公式戦も楽しみだ。

 ついにプロローグの幕が上がる――高校サッカー界に俺の名を刻む冒険の始まりだ!

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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