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じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.1

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第13話 紅白戦と白石(鷹昌)くんの怒声

 どうしよう、山田くんがめっちゃ話しかけてくる。周りにはそこそこ人がいるというのに、完全に僕をターゲットにしている。しかもほら、ズリズリと尻で移動して隣にまで来ちゃったよ……彼には困惑しかないが、言っている内容にはピンとくるものがあった。


 僕はのんきに『紅白戦をやって現在の実力を図るだけ』なんて考えていたが、結果がチーム選考へ大きく反映されるのは自明の理。それなら、どうにか『Cチーム』にふさわしいプレーを披露しなくては。


「……いや、Cチームにふさわしいプレーってなんだ?」


「ほう、白石は最短でのチーム昇格を狙っているわけか。現状に満足せず上を目指す姿勢は、まさにフットボーラーの鑑。賞賛に値するハングリー精神だ」


 うっかり独り言をこぼしたら、酷い誤解を招いてしまった……僕の本心とあまりにかけ離れ過ぎていて、どうやって軌道修正すべきか判断に迷うレベルである。

 おまけに山田くんは、お構いなしに話を先へ進めてしまう。


「ふ、悪かった。やはり俺と同じ、勝利に飢えた狼だったか。ならば共に実力を証明し、Cチームの上級生どもを押しのけて席を奪ってやるとしよう。まったく、フットボーラーという人種はどいつもこいつもエゴイストで困る」


「え、ちょっと待って。上級生ってなんの話……?」


 エゴイストなんて単語、僕とは果てしなく縁遠い。というか、Cチームを目指すことがなぜ上級生を押しのけることに繋がるのだろう。


 あと山田くんのクドい語彙が、何からインスピレーションを受けたのかわかったような気がする。多分、『史上最もイカれたサッカー漫画』という触れ込みでお馴染みのレッドロックだ……どうでもいいけれど。


「なにって、白石も1年生の内からCチームを目指すんだろ?」


「あ、うん。まあ、そんな感じかな……」


「だったら、やはり当面の相手は上級生になるな。うちの部は2年生になると自動でCチームへ昇格するから、通常はそれで定員に達してしまう。よって1年生の間にステップアップを果たすならば、誰かを打ち負かして空きを作るしか方法はない」


 ああ、そうか……僕は『降格』というシステムを見落としていた。

 公式リーグへエントリーする関係で、Cチーム以上は定員が決まっている。要するに昇格者と同数の降格者が誕生するわけで、最悪は底辺へ逆戻りするパターンも想定される。


「Dチームへ降格した上級生が退部することも珍しくないらしい。まあ、仕方のない話さ。俺たちが勝つってことは、誰かが負けるってことだ。敗者は立場を奪われても文句はいえない」


 大所帯ゆえの過酷な下剋上システム……上級生が新入生にまざって練習するとなれば、きっとプライドは粉々だ。


 とはいえ、僕的には悪い話ばかりじゃなかった。進級と同時にCチームへ昇格できるなら、特に頑張ることなく当初の目標を達成できる。


 美月とのマネジメント契約があるので、もちろん可能な限り全力は尽くす。だが、トラウマがどうにかならないうちは方針に変更はない。というより、他にやりようがない。


 ところで、少し話を戻そう。降格システムなどを踏まえたうえで、先程の『Cチームうんぬん』の発言を解釈してみれば……おや、やたら向上心あふれる意味合いに聞こえてきてしまうではないか。まるで僕と正反対の性格だ。


 そして酷い勘違いをしたままの山田くんは、ドヤ顔でこう言った。


「ようこそ実力主義のサッカー部へ」


 おい、色んなところからインスピレーション受けすぎだぞ!

 それはさておき、誤解を招いた原因は視野の狭さにある。言い換えれば、情報をキャッチするアンテナの不足が問題だ。


 けれど、焦る必要はない。自分が情報弱者であると理解している僕は、てっとり早く改善する方法に見当がついている……それは友人だ、友人を作ればすべて解決する。


「教えてくれてありがとう、山田くん。すごく助かったよ。それとよければ、これからも僕と仲良くしてほしい」


 僕は握手を求め、右手を差しだす。

 スクールコミュニティにおいて、交友関係と情報ネットワークはほぼ同義。それに山田くんのような人見知りしないタイプは自然と知り合いが増えていくので、仲良くなればその恩恵にあずかれる。


 打算的な思惑が先行している気もするが、友人になるキッカケなんてそんなものだ。これからしっかり友情を育んでいけばいい。


「仲良くか……むしろ望むところだ。それと、いいぞ」


「えっと、なにが……?」


「俺のことは『玲音れおん』と呼んでいい。よろしくな、兎和」


 距離の縮め方がハンパない……だが山田くんの、改め玲音のコミュ力は見習うべき美点だ。情報ネットワークを抜きにしても、友人の数は青春の発生確率に絶大な影響をおよぼす。白石(鷹昌)くんの観察を通じて発見したこの世の摂理である。


「さて、始まるぞ。兎和よ、せっかくの機会だ。ライバルたちのプレーをしっかり目に焼け付けておくぞ」


 玲音と話をしている間に、プレーヤーの準備が整ったようだ。

 ビブスの色は赤と青、フォーメーションは両チームとも『4-4-2』のフラット。


 DFとMFを横に四人ずつ配置するオーソドックスな陣形だ。バランスよく選手を配置するため味方同士の距離感が掴みやすく、ディフェンス時にスペースを埋めやすいという利点を持つ。


「あくまで練習だから熱くなりすぎるなよ! ガッツリ削ったりするのも禁止! では、始める!」


 主審は永瀬コーチで、ラインズマンも残り二人のコーチが担当している。

 ややあって照明灯るピッチにホイッスルの音が響き、紅白戦の1試合目がキックオフ。


 注目はずばり、赤チームの中盤に君臨する白石鷹昌くん。果たして『期待の新人』と呼ぶに値する活躍を披露できるのか。


 キックオフも赤チーム。開始と共にセンターサークルに立つFWフォワードが後ろへボールを戻し、さっそく白石くんにボールが収まった。しかし『10番(練習なので意味はない)』を背負う彼は前に急がず、少ないタッチでサイドへパス。


 さらにボールはCBセンターバックを経由し、相手のプレスを回避するようにゆっくり赤チームの陣内を巡る。


「ロングボールは蹴らないか……ゆるやかな立ち上がりだな。最初はこんなものか」


 横に座る玲音の実況通り、いたって妥当な展開である。

 初見メンバーとのプレーは特有の難しさがある。パスを出すタイミングや方向、走り込むスペースや角度、守備時のカバーやプレスなど、各自の持つイメージはまったく異なる。


 そこでまずは自陣でパス回し、各自感覚をチューニングしていくのだ。つまり今は、ボールを使ったコミュニケーションタイムといえる。


 ただし、あまりのんびりはしていられない。なにせプレー時間はたったの20分しかない。


 実際、すでに5分ほどが経過。タイムはピッチサイドに設置されたデジタルスコアボードで誰もが視認可能だ。にもかかわらず、試合は膠着気味。両チームともせっかく奪ったボールを自陣へ戻すセーフティな展開が続いている。


「ヘイ! 俺によこせっ!」


 動きの少ない両チーム。そんな中、白石くんなんかはしきりにパスを要求するが、ボールを受けても単独で打開するには至らない。


 それでも徐々に赤チームのプレーは積極的になっていく。白石くんが、チームのアクセルを踏んだのだ。


 わっと観衆が沸いたのは、10分が経過した頃。

 青チームが不用意なパスをだし、センターライン付近でボールを失う――上手くインターセプトしたのは、赤チームのMF。素早く右サイドへ展開してショートカウンター開始。


 ボールを受けたサイドの選手はドリブルで持ち上がり、対峙するディフェンスが寄せてきたところで再び中央へパス。


 バイタルで待ち受けていたのは、注目プレーヤーの白石くん。トラップしたらすかさず前を向き、悠々とペナルティエリア手前まで迫る。

 その瞬間、右足一閃。相手CBが対応すべく釣り出された瞬間、ディフェンスラインの裏へと鋭いグラウンダーのパスを送る。


 ほぼ同時にFWの一人が走りこむ。マークを振り切り、猛然とペナルティエリアへ侵入していく――だが、勢いの強すぎるボールへ追いつくことは難しく、そのままエンドラインを割ってしまう。


「おいっ、FWならちゃんと準備しとけ!」


 照明の灯るピッチに白石くんの怒声が響く。急造チームにしては素晴らしい連携に見えたが、本人はお気に召さなかったようだ。


 さらに攻勢を強める赤チームだったが、点には繋がらない。挙句、仲間たちがミスするたびに「ちゃんと走れボケ!」だの「頭使えバカ!」だのと、白石くんの口から罵声が放たれた。


 チームメイトに対して要求するのは悪いことではない。けれどアレは、ただの暴言だ……むしろ暴君もかくやである。正直、僕が最も一緒にプレーしたくないタイプだ。


 肝心の試合の方は、両チーム無得点ままタイムアップ。

 見どころといえば、白石くんが出したスルーパスくらいのもの。逆に言えば、あのプレーは観衆に強いインパクトを与えた。


「なるほど、確かにシロタカは上手かったな。センスも感じた。さすがJアカデミー出身だ」


 シロタカとは、白石くんのあだ名である。そして、高い評価を与える玲音。

 僕も同感だ。傲慢な態度にさえ目をつぶれば、前評判に見合ったパフォーマンスだったように思う。ゲームメイクを担い、トラップをはじめ高い技術が随所に散りばめられていた。


「あれは近いうちCチームへ昇格するな。いずれ俺たちもプレーすることになる」


 ええ、いやだなあ……同じチームになったら、絶対まともにプレーできないよ。トラウマを抱える僕は、チームメイトの不機嫌そうな顔を見るだけで心臓がバクバク暴れ出すほどなのに。


 しかも、3試合目で彼との対戦が確定している。今から不安だ……。


「さて、いくか。俺たちの出番だ」


「あ、うん」


 隣の南米ハーフイケメンに促され、2試合目に出場するメンバーたちと連れ立ってピッチへ向かう……あれ、玲音って同じチームだったの?


「当たり前だろ。だから隣に座ってたんじゃないか」


 ああ、そうだ。チーム毎にまとまって待機していたんだったか。そこでふと気になったのは、彼のポジション。もちろん僕はコンバート済みで、いよいよ『左SH』デビューだ。


「玲音って、ポジションどこなの?」


「兎和、ちゃんと作戦ボードは見たのか? 俺の居場所は、お前の後ろだ」


「え、後ろ……? ということは、左SB?」


 玲音は「正解」と答えながら、近くに転がるボールを左足で掬い上げ、そのまま軽く蹴り出した。


 淀みのないフォームを見て、今度は利き足が気になってくる。軸足に預けられた体重の乗せ方が、僕とはちょっと違う感じだ。 


「ふ、気づいたようだな。俺は左利きのSBだ」


「うわ、すごく貴重な人材だった……」


 左SBとレフティは理想的な組み合わせである。そのうえ絶対数が少なく、世界的に見ても希少なタレントと言われている。


 つまるところ、いくらでも替えが効きそうな僕とは異なり、彼は『スペシャリスト』といっても過言ではない選手なのだ。


「兎和よ。さっき誓ったように、俺たちで左サイドを制圧してやろう」


 存在しない記憶が、突如玲音の脳内に溢れ出したようだ。

 先ほどの感心もどこへやら。僕は冗談を聞き流しつつ引き上げてくるメンバーからビブスを受けとり、ピッチ内へ足を踏み入れた。


 照明の光を受けてますます緑が映える人工芝の上で、ぎゅっと左胸をおさえる……早くも緊張がやばい。通常トレーニングとは違い、ゲーム形式ではよりトラウマを刺激される。とにかく、チームメイトの足を引っ張らないよう頑張らねば。


 結果から言うと、僕は大きなミスを犯すことなく最後までやり遂げる。極力無難なプレーを選択し、可能なかぎり主張せず、黒子に徹したのが奏功した……かといって、永瀬コーチや美月が期待するようなパフォーマンスからは程遠いが。本当に情けない。


 問題の3試合目ではギリギリまで存在感を薄め、相手チームの白石くんが怒声を発するたびに恐々としながらも、どうにか足を動かしたままタイムアップを迎えられた。


 なお、2試合目はスコアレスドロー決着。

 ラストの3試合目は、王様のごとくプレーする白石(鷹昌)くんの活躍もあり、僕たちのチームはウノゼロ(1-0)で敗北を喫している。


 気がつけば、トレーニングは締めのクールダウンを残すのみ。かなりメンタルを削られたが、どうにか紅白戦を乗り越えられた。手早くストレッチをしてから、僕は這々の体でピッチから退散する。


 部室に戻ったら、プロテインを飲みながらスマホをチェックする――そこには、神園美月の文字が。どうやら、連日の呼び出しらしい。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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