第三百一話 世界調理開始/愛の演説④(その3の66の途中まで)
少しだけ確信を得て、アタイはさらに話し続ける。
「アタイは、この世界のニンゲンにゃあ、生きて欲しいんだよ。これから先もずっと元気でさ。まあ色々とムカつくこともあったし、酷いものもたくさん見てきた。怒りや痛みは忘れない。けど、それを上回るくらい、たくさん助けられて、本当にたくさん…その、ステキなところを見て、だんだん好きにもなれてきたんだ。それも言ってみれば人外の、金属人形からの上から目線なのかもしれねえが…まあ、“愛と憎しみは表裏一体”って言うらしいしな。これまでに出会した、つらく苦しい出来事だって、射撃と同じで難易度高くて障害あるほど面白いって、そういうことなのかもな。たぶん、生きることもそうなんだよ。これまでうまくいかないことばかりで障害ばかりの“人生”だったけど、思えばそれこそが楽しかったり幸せだった…つーことなのかもしれねえしな」
だから、
「どうにもまとまらねえが、これがアタイの話しかたで、これがアタイだ。このまま結末まで行くぜ。良いか、アタイはこれで何がどうなるとか全てが良い方に変わっていくとか、そんなことは期待していない。今回はたまたま良い感じで団結していても、すぐに争ったりねたみ合ったり、奪い合うのが人間だからね。『世界大戦だってやっぱり起きちまうかもしんねえ。そういうもんだろう。そんなことは、これまで何度も見てきた。けど、」
そこでまたいったん言葉を切り、この大砲女はあえて断言する。
「それでも、希望はあるさ。今ここで起きたことや『そういや変なこと言ってるヤツが昔居たな』ってことを、ふとしたときに誰かが思い出すかもしれねえ。ホトトギスとかカッコウを見たときでもなんでも良い。とにかく、少し立ち止まってニンゲンや"自分の本当にしたいこと、そして"自分とアイツは実はおんなじことをやりたがってるだけなんじゃねえか?"ってことを、たまに思い出して欲しいんだよ」
それに、
「何より、こんなアタイみたいな人殺しのバカのために、これだけ協力してくれたり助けてくれるヤツがいるんだ。なら、これから何があったって大丈夫だろう」
ともかく言いたいことはほとんど全部言い終わった。
あとは、一言だけだ。
「愛してるぜ、お前ら!」
※
同時刻、『世界調理』司令部。
ここでは少しばかりトラブルが発生していた。
「退け。あのままじゃエルトが死んじまう!」
「いいえ、退きませんよ橋本様。いえ、総料理長もはやこれしか手段がありません。だから…後はもう、あの子の好きにさせてあげるしかないのです」
総料理長・橋本八助が、副官の『キュトスの姉妹』ケルネーと揉めていたのだ。
彼は、調理用ゴーグル『姉妹』フィスナを装着したことによって、遠い大砲姉妹の状況をつぶさに把握することが可能となっていた。
彼の焦りと危機感は、それゆえである。
「俺が総料理長だって言うんなら、俺の命令を聞いても良いだろ!せめて、加勢に行かせてくれ!」
「残念ながら、我々の仕様には『世界調理』の成功が最優先度で刻印されていて、変更不能です。今は亡きメクセト王ならまだしも、現場責任者に過ぎない総料理長では、どうにもなりませんよ。それにもう本当に余力がありません。あなたや他の『姉妹』の知人の力まで借りて全力で効率化を行いましたが…結局、今有効な手段を取れるのはもうエルトだけしかいないのです。こうなってはもはや、誰も手助けは出来ません。」
「けど、けどよぉ…このままじゃアイツ一人が犠牲になっちまうじゃねえか!いくら後はアイツぐらいしか大地獣を殺さないって言っても、それで死んでどうするんだよ!あんなに仲がいい彼氏まで来てくれてるってのに!」
熱く語りかける主人に対し、部下はあくまで冷静だった。
「それでも、いいえ“だからこそ”です。そんな彼氏を大地獣の犠牲にしたくないからこそ、彼女は命を賭けてでも、大地獣を止めようとしているのです。それに…」
続ける。
「あなたは、この大地の全員を殺したいのですか?ここて下手に手出しをして余力を浪費してしまえば、もう完全に『世界調理』なんて不可能になってしまいます。みんなが生き延びるための唯一の手段が無くなってしまうのですよ」
そうまで言われれば、返す言葉はもう無かった。
「ちきしょう!」
ただ八助の悔しげな声だけが、司令室に反響していく…
※
※
※




