第二百九十九話 世界調理開始/愛の演説②(その3の64~65の途中まで)
忙しい中、それも世界的危機の最中にわざわざ届けられた内容は、実に唐突。
しかも、実に私的に聞こえる内容だった。
それゆえ、人々の反応も…
「頭変なんじゃないのか?」
そういった冷たいものが大半だ。
ただし、それをわざわざ中断させようという者も、また居なかった。
なぜなら、既に皆が理解していた、あるいは現在進行形で説得されていたからだ。
もはや、彼女に賭けるしかない、と。
料理人がどれだけいようと、その腕がどれだけ凄かろうと、結局は食材を用意する採取人がいなければ、なんの料理も作れないのだから。
ゆえに演説は続き、世界中のヒトビトのもとへ届けられ続ける。
※
「ホトトギスとカッコウには、ある変わった習性、ふるまいがある。『托卵』要するに、他の鳥の巣に卵を勝手に産みつけるのさ。で、その卵は孵ると同じ巣に産まれた他のヒナ、本来の住人を蹴落とす。アタイはどうしても、それが嫌いでならなかった。なんというか、それが生き物ってやつの本質に思えて、でもどうしてもそれを否定したくて、たまらなかったんだ。けど、良く考えたらこのフィルティエルトにゃあ、それを非難する資格なんてなかったんだ。…なんせ、アタイ自身も似たようなもんだからな。アタイは『キュトスの姉妹』どんなにヒトと似て見えても、それはただの取りつくろい。結局は、ヒトの形をしてるだけのただの動いてしゃべる人形、道具に過ぎないんだよ」
そう言いながら、アタイは自分の顔を世界に向けて放送した。
息を呑む音が、聞こえた気がした。
世界全体から、見つめられている。
それはさすがに錯覚だろうが、まあそう大きく外れちゃいないだろう。
なんせ今のアタイは、顔がえぐれて金属むきだしなんだ。
こんなの、話に聞く異世界の『グロ画像』そのものだろうさ。
本来なら放送を即刻中止にするべきなんだろう、放送事故でしかない。
だがまあ、事情が事情なんでこのまま押し通らせてもらう。
視聴者たちの中にはこれが悪夢となってうなされるヤツとかもいるかもしれないが、そこは勘弁してもらうしかない。
現実が悪夢になるよりは、よっぽどマシだしね。
というわけで、話を続ける。
「ほら、この通り。中身は全部金属だ。心臓動いてないし、?温かい血も流れちゃいない。おまけにアタイは『大砲』の道具だ。今やってる『世界調理』、つまりこの『大地そのものであるパンゲオンを“調理”ためだけに作られていて、その機能は他にあんまり使い道が無い。『料理道具』と言っても、出来るのは殺すだけってことさ。…だから、アタイはずっと戦場に生きてきた。他に居場所が無かったから…いや、違うな。“他に居場所が無いって思い込みたかった”からだ。得意なことで生きていくしかないってね。だからたくさんヒトや生き物を殺したり傷つけたりしても…結局は本気で後悔したり反省することも無かった。“これは今にも殺されそうな子どもを助けるためだ”“これは『正義』のためだ”“これは『革命』のためだ”“これはみんなのためだ”って、そうやって言い訳を続けて今日まで生き恥をさらし続けて来ちまった。なんと言おうと、結局は暴力と凶器でヒトを殺してることに、違いは無いって言うのにな…戦争も革命も領地防衛も、大して変わりゃあしなかったよ。相容れない“絶対悪”だって聞かされてた“野盗”や“侵略者”も、全滅させてみりゃあ、そのとき守ろうとしていたのと同じような、笑って泣いて暮らしていたごく普通のヒトビトの集団に過ぎなかったし、“王座に就くべき正統な王”も“民衆の謙虚な代弁者”も、権力を得た後は、倒したはずの“邪悪”とまるで変わらなかった…」
妙な話が突然深刻な方向へ向かい、困惑が広がっているような気がする。
「ああ、暗くなっちまうな。少し別の方向から話をしようか」
「戦争や革命がひどかったって話はしたけど、だからといって平和な日常が居心地良かったというわけでもなくてさ…。アタイは、どうしても人間の中に溶け込むことが出来なかった…なんせ殺すことしか出来なかったからね。まわりと摩擦ばっか起こしてたよ。色んな争いに参加したせいであっちこっちに敵を作っちゃって、数少ない同族の『姉妹』からも孤立しちゃったりさ。そんでまあ、なら“普通”のニンゲンに混じっちまえって、そう思ったこともあったよ。ダメだった」
少しだけ、必要もない息をつぎ、やっぱり思い直してまた話し始める。
どう話してもイヤな話なら、なるべく早く一気に済ませた方がいい。
時間も無いし、聞いてるみんなには悪いがさっさとやっちまおう。




