第二百九十七話 世界調理開始/食材確保㊱食べるために必要なこと(その3の62~64の途中まで)
そんで、カスメルが言うには、
「た、ただの記念品だ。この間うばったやつで…こっちの指輪とセットになってる」
「お、おう。え、ええっとここここれは、つまり、そういう…?」
「いいいや、特にその、そういった意味はないから!恋人になりたいとか結婚とかそういうのとは関係なくて、ええとええと、とにかくお前がすごく大事だって、今までありがとうって、これからもずっと一緒にいたいって、それだけだから!もうこっちの指輪も持ってって良いから!」
「…いや、それもうおんなじだから…ていうか全部言っちゃってるし…」
「あ、ああああ」
カスメルは顔じゅう毛だらけだってのに、今じゃもう、それを突き抜けて真っ赤になってる表情が見えそうだ。
けど、かくいうアタイも、実はヒトのことは言えそうにない。
ていうか、もっとヤバい。
今も、無機の身体がざわざわして、ニンゲンの血液にあたる成分が全身を駆けめぐって体の表面に集まってきているのを感じる。
なので、赤面にあたる変色反応や発光が出そうなのを無理矢理抑えて、アタイはすぐに返事をした。
そして同時に、にっこりと笑ってみせた。
良かった。
これをもらえて、その言葉が聞けて本当に良かった。
それは、心から思う。
けれど…それでもアタイはこっそりとつぶやく。
もう、つぶやかざるを得ない。
「悪いなカスメル。こうなったらもう、あの手しかねえみたいだぜ…」
このフィルティエルトの心境は、ようやく落ち着きつつある相棒とはもはや真逆の情態。
心は熱く煮えたぎり、もう完全に覚悟を決めていた。
ここまでしてくれたのに、すまねえ『姉妹』
どうやら結局、みんなを怒らせる結果になっちまいそうだよ。
※
※
※
一方その頃、フィルティエルトの巨大大砲が見下ろすその周辺で。
支援攻撃を行なっていた軍隊では、戦線が限界を迎えようとしていた。
「将軍!もう持ちません!」
「なんとか持たせろ!ここで踏ん張らねば、全員共倒れだ!」
ライオネルは、必死に部下を励まし、今も戦線を支えている。
が、だからといってそれは別に、彼が改心したとか突然正義に目覚めたとかそういうわけでは全くない。
単にこの将軍は、
「ちっくしょおおお!もう逃げられない!だがここで逃げたり投降して何になる!地位も!名誉も!大砲を思い切り撃つ快感すら失うだけでないか!おまけに伝説の『キュトスの姉妹』とやらが、大砲から通信機から揃いの軍服まで残らずカッコ良く仕上げてくるときた!そんなものを置いて逃げられるわけないだろ!俺にも撃たせろ装備させろぉぉ!」
と、自らの欲望に振り回され、勝手に窮地に陥っていると、そういう次第であった。
それでもまあ、怖いものは怖いので…
「でもやっぱ逃げたい!撃ちたい、逃げたい、でもやっぱ撃ちたい…ううう…とりあえず俺より先に逃げるなお前ら!俺が逃げられない以上誰にも逃げることは許さん!」
と、なっていた。
最悪である。
その時、突然。
「なんだあれは!?」
将軍の視界に、黒い影が映った。
彼らの護衛対象である巨大な大砲の高いところによじ昇ったそれは、どうやら人影のようで…それでそいつは、何やら演説のようなことを始めたのだ…
※
考えたついたのは、ごく単純な話だ。
とはいえそれも、アタイだけじゃ不可能だったろう。
思えば、アタイはいつもそうだ。
誰かの助け無しには生きられない。
どれだけ戦闘力があっても、一人だけじゃ何も出来なかったし、ムダに長生きしてきたこれまでの時間をつぶすことでさえ、出来なかった。
今回もそうだ。
今、アタイの目の前にはデカい黄金のラッパが浮いている。
水辺の花みたいな、たくさん広がってる部分があるやつだ。
それ、いや“彼女”こそはアタイの『姉』の一人。
食卓音楽の創始者としても知られる『キュトスの姉妹』カタルマリーナだ。
聞けば、彼女のもくろみもアタイとあまり変わらない。
なら、善は急げというわけだ。
まあ、突然大音量をぶち込んできたときは正直驚いたが、力を貸してくれるのは本当にありがたかった。
彼女がカスメルを気絶させてくれなけりゃ、こうしてここに来て演説をすることだって出来なかったろう。
演説、そう演説だよ。
誰もが、よりによってなんで今?と思うだろう。
アタイもそうは思う。
けどまあ、今度こそ最後になりそうだからな。
そうなると、心残りはなるべくなくしておきたいのさ。
だって、アイツが…カスメルがさ、あんなに一生懸命で…こんなアタイに指輪まで贈ってくれたんだ。
そんならもう、こっちだってやれることを全力でやるしかねえだろって、そう思うんだよ…




