第6話 膨れ上がる残高と、暴走するカモ・リスト
あの日から一ヶ月。
俺のネット銀行の口座残高は、見たこともない桁に膨れ上がっていた。
『A子(公務員)から30万』 『B子(看護師)から20万』 『C子(教師)から30万』
言い訳は、パイロットの資格更新で海外の口座が一時的に凍結されたという、手垢のついたベタな嘘だ。
いくら自己評価が低い女たちとはいえ、言葉だけでここまで大金は引き出せなかっただろう。
だから俺は、三人全員と適当なラブホテルで肉体関係を持った。
暗い部屋で抱き寄せ、「こんなに好きなのは君だけだ」と囁くだけで、女たちは簡単に理性を手放し、俺に完全に依存した。
溜まっていた性欲も処理できて、金も巻き上げられる。まさに一石二鳥、最高のビジネスだ。
週末の昼下がり。
俺は駅ビルにある少しお高いカフェのテラス席で、泥だらけの安全靴をテーブルの下に隠しながら、目の前に座るガリガリの大女――B子に向かって「エリートの微笑み」を向けていた。
「ごめんねB子ちゃん。わざわざ現金で10万円も用意してもらって」
「ううん。私、谷口さんと……あんな風に一つになれて、本当に幸せだから。将来のために、夜勤もっと頑張るね!」
B子は頬を赤らめ、茶封筒に入った現金を俺の手に握らせた。
俺は心の中で特大のガッツポーズを決めながら、もう片方の手をテーブルの下に隠し、スマホを狂ったようなスピードでタップしていた。
実は今、俺の出会い系アプリには、A子・B子・C子とは別に『D子(保育士)』『E子(介護士)』『F子(派遣社員)』という新たなカモたちからのメッセージが滝のように雪崩れ込んでいるのだ。
『今度の土曜日、会えませんか?』
『谷口さんの写真見て、一目惚れしちゃいました!』
「……ヒッ、やべえ。モテすぎて頭パンクしそうだぜ」
俺はB子に「美味しい紅茶だね」と爽やかに微笑みかけながら、テーブルの下ではD子に『君の笑顔に惹かれたよ』とコピペを送り、E子に『今度ドライブに行こう』と返信を打つ。
もう誰と寝て、誰に何を言ったか自分でも把握しきれていないが、そんなことはどうでもよかった。
俺は今、複数の女の心と体を完璧に支配し、金を無限に生み出すシステムを完成させた『神』なのだ。
(さて、B子からこれ以上絞り取るのは無理そうだな。今日帰ったら、A子もB子もC子も全員LINEブロックして、新しい3人を食い物にシフトするか……ヒヒッ、俺の人生、完璧すぎる!)
茶封筒をスウェットのポケットにねじ込み、俺は最高の気分で席を立とうとした。
――その時だった。
『ポンッ』
スマホが震え、画面に奇妙な通知が浮かび上がった。 出会い系アプリでもない。真っ黒な背景に、白い文字だけの不気味なポップアップだ。
【 読者がページをスクロールしました。 】
【 進行度:MAX。これより、ターゲットの強制合流イベントを開始します。】
「……あ? なんだこのエラー」
俺が眉をひそめてその通知をスワイプして消そうとした、まさにその瞬間。
『カシャッ!!』
突然、俺のスマホのカメラが勝手に起動し、けたたましいシャッター音を鳴らした。
「うおっ!?」
驚いて画面を見ると、インカメラで撮られたばかりの『俺の顔(背景には大女のB子)』の写真が、なんと体を重ねたばかりのC子とA子、さらにはやり取り中のD子たちのトーク画面にまで自動で貼り付けられ、勝手に送信されてしまったのだ。
さらにご丁寧に、【現在地(このカフェのGPS)】のピンまで添えられている。
「は!? おい、なんだこれ! 俺は何も押してねえぞ!!」
パニックになって送信取り消しを押そうとするが、画面はフリーズしたまま全く動かない。
『カンッ、カンッ、カンッ』
不意に、カフェの入り口付近からヒールの足音が近づいてきた。
顔を上げると、そこには今日会う約束など一切していない「老け顔の女」――C子が、片手にスマホを握りしめ、信じられないものを見るような目でこちらを凝視していた。
その画面には、たった今俺のスマホから勝手に送られた『俺とB子の写真』が表示されている。
「……あなた、谷口、さん……! 写真と全然違うし……それに、その隣の女の人は……誰?」
C子の視線は、俺の隣に立つ大女のB子と、俺の足元にある『泥だらけの安全靴』に釘付けになった。
さらに背後からは、ピンクのワンピースを着たA子が息を切らして走ってくるのが見えた。
金も体も、もてあそんだ女たちが、今、一つの場所に集結しようとしている。
俺が今まで完璧に積み上げてきた「クズのジェンガ」が、音を立てて崩れ去ろうとしていた。
続く




